2019年10月31日木曜日

さらに重視しなければならなくなっている「オフィス環境」


「働き方改革」「深刻な人手不足」などの状況を踏まえ、「在宅勤務」をはじめとしたリモートワークによる働く場所を多様化する動きが進んでいますが、その一方、働く場所であるオフィスの環境作りを重視する動きも増えています。

そんな中、アイウェア製造小売の「JINS(ジンズ)」は、最高に集中できるオフィス空間として、「Think Lab(シンク・ラボ)」という会員制オフィスを2017年にオープンし、会員と自社の従業員が利用しています。

もともとJINSのオフィス環境は、コミュニケーションを活性化する先進的なオフィスとして、賞を受賞するなど注目されていました。
フリーアドレス制で、部屋の仕切りをガラス張りとするなど開放的な雰囲気ですが、コミュニケーションやコラボには有効だった半面、周りが気になるとの意見があったそうです。また、自社のウェアラブルデバイスで社員の集中度を測ると、実はあまり集中できていないことがわかったそうです。「開放的で共働しやすい空間」が、逆に「個々の仕事に集中しにくい空間」となっていたのです。

ここから、業務の効率化と高度化のためには、「協働」と「集中」を行き来することが必要だとして、「集中力」をコンセプトにしたオフィス空間の開発に乗り出し、新オフィスのオープンに至ったとのことです。

「Think Lab」では、机や椅子のレイアウト、形や材質のバリエーションといったことから、視界に入る緑の割合が安らぎ感に影響を及ぼすことに着目して観葉植物を多数配置したり、照明の色合いや強さを時間帯によって変えたり、音、香り、その他様々な要素に配慮した空間作りをおこないました。
オープンスペースから個室まで、什器類にも高さや姿勢などで様々なバリエーションがあり、気温、湿度、気圧、騒音などのデータを見て、自分に最適な場所を選ぶことができるそうです。
社内外から「使いやすい」と評価を得ているとのことで、業務効率が向上して自社の残業時間の減少にもつながったとのことでした。

「組織の知的生産性を高めるには、個々がじっくり考えた後にコワークすることがよい」との話がありますが、例えばグーグルなどの先進企業も、リモートワークにはそこまで積極的でなく、アイデアやイノベーションを産み出すには「オフィス環境」と「場の共有」を重要視している様子に共通点があります。

最近は、在宅勤務ほかリモートワークの環境整備に取り組む会社が多いですが、これも地方に行くと、会社と働き手のどちらもあまり重視していないことがほとんどです。理由は単純で職住接近の人が多く、通勤の満員電車もないといったことです。どちらかというと、「家で仕事なんかしたくない」という否定的な声が大半で、事業継続性などの違った目的でなければ、なかなか話が進みません。

一般的な企業で、JINSやグーグルのような取り組みを真似るのは、資金やノウハウなど様々な面で難しいでしょう。
ただ、オフィス環境向上の取り組みは、世の中の流れとして、少なくとも今まで以上の投資は必要です。また、お金をかけなくてもできる工夫はあるはずです。

古い事務机に座るときしむ椅子、隣りと密着していて人が通るたびに気になる狭いスペース、やたら寒かったり暑かったり、さらに机の上や周りに書類やダンボールの山といったオフィス環境の会社は、最近は少なくなりましたがまだまだ目にします。そういう会社に限って「人が採用できない」「生産性が上がらない」などと言いますが、思うようにならないのは当たり前です。
採用や生産性向上の面からも、まずはできることをできる範囲でやっていかなければなりません。


2019年10月28日月曜日

採用活動で「人数」を目標にすることでの不都合


東京都が公費で行っている中小企業の就職説明会で、事業を請け負った企業が学生に金銭を提供して、いわゆるサクラとして参加を依頼していたとの報道がありました。
4回分の就職説明会での集客支援で、大学生3人を取りまとめ役にして、数千~1万円の報酬でサクラを勧誘していたとのことで、不人気業界を対象にしたイベントだったため、集客が難しいと判断してのことだったようです。
発注元の財団は、委託料の一部を支給しないことを決めたとのことです。

私は以前、公的な就職説明会で主催する側にかかわったことがありますが、今回の件は完全なルール違反で全面的に悪いことだと思う一方、こういうことが起こっても不思議でないとも思っています。
この手のイベントを受託する際にコミットしなければならないこととして、ほとんどの場合で「人数」が設定されるからです。そのイベントの主旨によって、それが「参加人数」であったり、「応募人数」であったり、「内定人数」であったりします。

今回の場合は「集客できないと格好がつかないから」などと言っていますが、たぶん一定以上の「参加人数」の縛りはあったのではないでしょうか。さらに、不人気とされる業界団体の加入企業の説明会だったようですが、参画企業のバリエーションが限られ、さらに知名度が低いとなると、最悪は誰も参加者がいないような事態も考えられます。
許される方法ではありませんが、そういう危機感から始まったことだったのでしょう。

すごく建前的な話になりますが、人材採用で大事なのは「人数」の場合もありますが、本来は人材の「質」の方が、その重要度は高いはずです。ただ、こういったイベントの場合、それぞれの参加企業によって「質」のとらえ方は違うので、そこにコミットすることはほぼできません。
「人数」が目標となり、その質が問われないとなれば、サクラでもなんでも動員すれば良しとしてしまうことはあり得るでしょう。

ある会社では、社内の「採用活動」の中で、これと同じようなことが起こっているのを目にしたことがあります。
よく「質重視」や「厳選採用」などと言いますが、会社が掲げる表向きの目標のほとんどは「採用人数」です。
その会社の新任人事課長は、とにかくその年の採用人数の目標を達成しようと、多少難があると評価された応募者でも、選考を進めて現場のマネージャーや役員に採用をプッシュしていました。その頃は会社も拡大基調で、人数確保を強く言われていたという事情もありました。

人事部門の選考を通過したと言われ、そこに前向きなコメントがついてくると、その後に対応する面接官の見方はどうしても甘くなってしまいますが、その結果として、高い目標だといわれていたその年の採用人数は確保され、新任人事課長は高い評価を受けて昇進し、別の部署へ異動することとなりました。
しかし、その後に起こったことは誰でも想像できる通り、様々な要素のミスマッチによる退職者の増加で、2年後にはその時期に入社した新卒、中途ともに、半数以上が辞めてしまいました。短期間での人数確保にこだわったことによる典型的な失敗例と言えるでしょう。

採用活動での「人数」の目標は必要ですが、そればかりにこだわることでの不都合があります。大きいのは「質」の低下です。
一方で「質」にこだわりすぎると「人数」の確保が難しくなります。両立可能なバランスをよく考える必要があります。


2019年10月24日木曜日

社員の休暇取得を会社が前向きに思えない理由


ある報道によると、飲食チェーンのドトールコーヒーでは、今年度から本社の年間休日数を119日に固定したことで、従来は公休日としていた土日祝日のうち、一部の祝日が出勤日となったそうです。そして出勤日となった祝日は「有休取得奨励日」という形にして、それにあわせて就業規則も変更したということです。

会社はその理由として、「まだまだ有休が取得しづらい状況を打破するため」と言っていますが、本当にそうならばもともとの出勤日を有休奨励日にすればよいことで、義務化された有給休暇の取得と、祝日との調整とを合わせて行った形になっています。
この「祝日を出勤日にして有休奨励日にあてる」という方法について、厚生労働省は「違法ではないが、法定休日以外を労働日扱いにして有休取得させるのは望ましくない」と言っています。労働条件の「不利益変更」にあたる可能性があるとのことです。

ちなみに同じ飲食業界での年間休日の平均は97.1日とのことで、ドトールコーヒーの休日数は業界内でも高い水準だそうです。こうした企業が、時代に逆行する取り組みをするのは残念だとコメントされています。
しかし、同じ方法で休日数を調整する会社は数多くあり、私の身の周りでも実際によく見かけることです。

このことを知り合いの中小企業の社長やマネージャーたちに聞くと、ワークライフバランスを重視しながら生産性をあげていかなければならない時代の流れは十分に理解しています。できる限りの努力と配慮はしているように見えます。
ただ、社員を今まで以上に休ませなければならないことに対して、本音ではとても前向きには考えづらく、歓迎という感じではありません。「休暇を取りやすい環境は作ってあげたいが、それでは仕事が回らない」といいます。中小企業では人員の余力が少ない会社がほとんどで、一人欠けると他の人にかかる負荷が大きいのです。

実は日本は祝祭日の日数が、諸外国と比べて圧倒的に多いといいます。2019年では土日に重ならない祝日と振替休日の合計は17日ですが、バカンス大国のフランスでは9日とのことでした。海外の人から見ると、「日本は何でこんなに休みが多いのか」となるそうです。

ただし、有給休暇を足した休暇日数の合計では、フランスの39日に対して日本では24日とのことで、フランスは有休を使って自分の都合で休み、日本の場合はみんな一斉でないと休まないということになります。
有休取得に罪悪感を持つ人の割合が、他国の大半では2~3割前後なのに対して、日本では6割近くと高いそうです。この原因は、日本が「人に仕事をつける」のに対し、欧米は「仕事に人をつける」という違いにあるといわれており、「誰かが休むと仕事が回らない」という話と通じるところがあります。
しかし、「仕事に人をつける」と言っても、人手不足と採用難でつける人が簡単には見つからないのが実際のところです。

有給休暇の5日取得の義務化のように、取得率を上げようという施策がとられていますが、今のままではなかなか進まないように思います。
祝日を増やすのは、働く人にとって悪いことではないでしょうが、休日はどこへ行っても混んでいて値段が高いというような、一斉に行動することでの非効率にもつながっています。

休みを増やして生産性を上げるなどと都合良くはいかず、「休みは増えても業績が落ちて給料も下がる」などとなりかねません。両立するためには、やらないで済むことはやめる、誰でもできるように情報やノウハウを共有するなど、たくさんの工夫が必要です。
休暇取得日数などの数字だけを一面的に追いかけるのではなく、仕事のしかたそのものを、もっといろいろ考えて変えていかなければなりません。