2020年3月30日月曜日

「制限されたコミュニケーション」の難しさ


あるテレビ番組で、「デフフットサル」という聴覚障がい者のフットサルが紹介されていました。
競技のルール自体は健常者のフットサルと同じですが、選手には聴力の基準があり、競技中は補聴器を外すことが義務付けられています。選手は笛の音が聞こえないため、審判は判定にフラッグを使い、選手間のコミュニケーションは手話やアイコンタクトでおこなっています。

聴覚障がいの場合、運動能力が健常者と変わらないことや、その他競技の歴史的事情から、パラリンピックの種目に含まれておらず、競技人口も国内では200人程度ではないかとのことでした。
しかし、前回2019年におこなわれた「デフフットサルワールドカップ」で、女子日本代表が史上初の5位になっているそうで、にもかかわらずメディアに取り上げられることはほとんどなく、競技自体もあまり知られていないそうです。
メディア露出で少し注目度が上がって支援が広がればとのことです。

番組では元A代表の男子選手がプレーを体験していましたが、始めるまではルールも同じだし問題なくできると思っていたものの、実際にやってみると、チームメートへの指示、ボールの要求、ポジション修正など、声や音によるコミュニケーションが一切できないことによる難しさを痛感したと言っていました。

コミュニケーションを補うために、ミーティング時にボードで確認したり、身近にいれば肩をたたいて気づいてもらったり、工夫はしていても不自由があるのは変わりません。周りからの指示や修正が伝わりづらいことで、「気づかない」などのプレー上のミスも多いようです。
コミュニケーションが一部でも制限されると、いろいろな難しさのあることがわかります。

このコミュニケーションによる問題は、新型コロナの影響で在宅勤務をはじめとしたリモートワークが増えている中、企業でも同じようなことが起こっています。
「直接会って話せない」「会議が開けない」「見えるところにいないので表情がわからない」「どんな様子かが観察できない」「気持ちが察せない」など、場を共有していないことによる様々な不便さです。
今までは特別な働き方だった「在宅勤務」が毎日継続するようになって、意外に問題なくできる仕事がわかる一方、思っていた以上に支障も出てくることもあり、そのほとんどはコミュニケーションにかかわるものでした。

この問題は、「やはり直接話さなければ仕事にならない」などと切り捨ててしまうことはできません。デフフットサルに当てはめれば、選手の聴覚が戻ることはなく、そのことを前提としてコミュニケーションの仕方を考えなければなりません。
これは会社でも同じです。もしそれが次善の策だったとしても、状況の終わりが見通せないならば、そのことを前提として、最善と次善のギャップをいかに埋めるかを考えなければなりません。

いま多くの会社で見えてきている業務上の不都合は、実はそのまま業務改善のテーマになります。不自由だからといって以前のやり方のままに戻すことは、今の環境では不可能です。置かれた環境の中で、いかに不自由や不都合を減らすかを考えなければなりません。

これからの経済や景気のことはとても気になりますが、仕事のしかたを見直すということに限れば、これも良い機会になるのではないでしょうか。


2020年3月26日木曜日

「在宅勤務は寂しい」という声


新型コロナの影響で、在宅勤務の対応を始める企業が増えています。
今回の件で、大規模な在宅勤務体制を早くから始めていたIT企業のGMOインターネットが、社員に対しておこなった「在宅勤務に関するアンケート」の結果が公表されています。

この結果を見ていくと、今回の在宅勤務体制については、9割近くがプラスの評価をしていますが、マイナス評価が一般事務や金融系グループ会社に多く、業務への支障の有無は「なかった」「あまりなかった」が7割を超えている一方、マイナス評価が多かった「一般事務・管理部門・営業管理部門」の職種と「金融系グループ各社」では、支障が「あった」「大いにあった」という回答比率が高くなっています。

支障の内容は、作業環境(設備)と、コミュニケーション(意思疎通)、営業・対外活動(対顧客)、その他業務面に大きく分けられ、設備面では「リモート環境が遅い/アクセスできない」「椅子机やPCサプライがないことによる作業効率低下」、コミュニケーション面では「コミュニケーションの減少」、業務面で「紙ベースの業務に支障」「業務上、在宅では対応が難しい」といった課題が挙げられていました。金融などの業務で顧客対面、紙ベースの業務ができないとなると、確かにいろいろ難しそうな感じがします。

自由意見の中で、メリットとして多く言われているのは、「朝晩の移動が想像以上に体力負担をしているものだと改めて感じた」「終業後タイムラグなしで育児ができる」など「通勤に関する負荷軽減」と、今までは同時進行が難しかったことや、活用できずに埋もれていたすきま時間が有効に使えるようになったことでの「可処分時間の増加」に関するものでした。ある程度予想通りの内容だといえるでしょう。

デメリットは作業環境や設備面の話が意外に多く、環境的には進んでいると思われるIT企業であっても、「社内ネットワークに接続できるデバイスがない」「リモート接続環境などで未整備のものがある」といったことがありました。これらはその気になれば順次改善ができることでしょう。

その他、思っていたよりも重要だと気づかされたことですが、住宅事情等で自宅の作業環境が左右されて、集中できないようなケースが結構あったことです。
「自宅のネット環境が遅くて作業効率が下がる」「モニター、テーブル、イスなど業務をおこなうのに適切な設備がなくて疲労がたまる」「打合せ中は静かにするなど家族に協力してもらっているが、家族にとってはストレス」「隣りで工事していて日中騒音がひどい」といったものがありました。
ウェブ会議では、「異論、質問、反応が少ない」「プライバシー問題でビデオを強制できないのでさらに表情がわからない」「家族や赤ちゃんがいると発言もしづらいのでは」という話もありました。
こういった点は、今後の課題になるのでしょう。

また、社長コメントとして、このアンケートでの評価結果はおおむね予想通りとした一方、「“(在宅が)寂しい”というコメントの多いのが印象的で、社員同士がコミュニケーションを取りながら仕事をすることが一定程度必要であることが伝わった」と話しています。
「寂しい」というのは、私も言われて初めて「なるほどそうか」と思いましたが、対顧客だけでなく、社員同士のちょっとした雑談も含めたコミュニケーションも、仕事をする上では重要だということをあらためて確認しました。
「場を共有する」というのは、やはり大事なことです。

この「在宅勤務」もそうですが、実際に本気でやってみないとわからないことがたくさんあります。
「働き方改革」の中ではテレワーク推進が言われていますが、そういう掛け声だけで物事が進むほど、単純ではないことがよくわかります。
このアンケート結果は、とても貴重な資料だと思います。


2020年3月23日月曜日

成功体験ゆえの「パワハラ」


森友学園に関連した、財務省の公文書改ざんに関与させられたことを苦に、自ら命を絶った官僚の遺族が、損害賠償を求める訴えを起こしました。事件の真相究明を求める気持ちも強いようです。
残された手記には、文書改ざんには相当抵抗したものの、「パワハラで有名な上司」の指示には誰も背けないと書かれています。

私は善意の関係者が真実を話しさえすれば、本当のことはすぐわかると思うのですが、誰一人としてそれができないほど、自分に降りかかる大きな不都合や恐怖があるのでしょうか。組織の在り方としては、異常としか言いようがありません。

「パワハラ」は、軽微なものからひどいものまで、数多くがいろいろな会社で起こり、社会問題と言ってもよいと思いますが、私自身はあまりそういう行為を受けた経験がありません。
その理由ははっきりとはわかりませんが、それほど威圧的な人が周りにいなかったことと、たぶん「こいつに圧力をかけても言うことを聞かない」とか、「逆に言い返してきて面倒くさい」とか、そんな風に見られていたのではないかと思っています。

実際、上司から言いがかりのような一方的な注意をされて、それにはっきり反論したところ、それからは何となく気を遣われるようになりました。やはり上司部下であっても、良い関係を保つには言うべきことは言わなければならないと思います。もしもそれで対立してしまうのであれば、私はそんな会社は辞めればよいと思っていましたし、それくらいの割り切りは必要です。
ただ、そんな単純なことではすまない事情を持つ人もいるので、「パワハラ」というのはなくならないのでしょう。

そんな私も、独立してから一度だけ、明らかな恫喝を受けたことがあります。
ある人からの紹介で、仕事の提案をしに行った時のことですが、相手の社長と一対一で話していると、先方が明らかに威圧的な態度を取り始め、乱暴な口調で恫喝を始めました。

その内容は、「そんな金額が出せると思うのか」「仕事が欲しければ初めはタダでも良いくらいのつもりで来い」という感じでした。「何度も通って来るくらいの根性があれば使ってやっても良い」とも言っていました。
その態度と言動には、あまりに呆れたのですが、そこで喧嘩をしても無駄なので、話を一度持ち帰るふりをして、その日のうちにメールで丁重にお断りしました。今思えば、これも一種の「パワハラ」になるのでしょう。

この社長の様子を見ていて、あとから思ったことがありました。
それは、こういう威圧や恫喝によって、相手が自分の言いなりになるということを、これまでの成功体験として持っているのではないかということでした。
この提案の時は会うのが二回目でしたが、初回の時はちょっと上から物を言いたがることはあっても、そこまでの態度をとるイメージはありませんでした。
ただ、二回目の提案は、お金がからむ話でもある訳ですが、そんな交渉的な要素がはいった途端に態度が変わりました。どうもこの社長は、発注先の業者にはみんなそういう態度を取るらしく、立場が弱い業者の中には、社長からの様々な要求に応じているところもあるようでした。
そんな成功体験ゆえの「パワハラ」だったのです。

「パワハラ」の中で最も多いのは、上司は指導や叱責と思っているが、部下はそう思わず不快に感じているという認識ギャップです。これは仕事上の日常的、一般的なやり取りの中で起こることで、当事者同士が意識すれば改善することができます。

もう一つは、上下関係によるいじめや嫌がらせ自体が目的となっているものです。これは当事者だけで解決することは難しく、多くの場合で第三者の関与が必要です。

さらにもう一つが、この「威圧や恫喝による成功体験に基づくパワハラ」です。強い態度に出ることで、相手が自分に従う、言いなりになるという経験が、パワハラ行為をエスカレートさせます。個人の資質もありますが、この場合は組織上の問題も大きく、官僚的な組織ほど起こりやすいでしょう。
組織風土や仕組み、その他組織改革が必要になるでしょう。

財務省での「パワハラ」が、いったいどれに当たるのかはわかりませんが、官僚組織という点からも、圧力で支配できるという成功体験に基づくパワハラの可能性は十分にあります。
いずれにしても、真相究明と解決に向けた真摯な取り組みがされることを望みます。