2019年6月6日木曜日

会社と社員が万全で準備した育休復職を阻んだ「転勤」の話


ある大手企業で、育児休業から復帰した2日後の夫に、関西への転勤辞令を出されたという妻のSNS投稿が炎上、議論されています。
会社側は公にはコメントを出していませんが、社内では事実を認めて「配慮不足だった」と謝罪しているようです。

どんな実態なのかは、今後明らかになることもあるでしょうが、見せしめの意図があったとすれば会社の体質として問題ですし、もし悪意がなかったとしても、本人への配慮なしで転勤辞令を出す手順が普通になっていることなので、それはそれで問題でしょう。
ただ、転勤については会社側に大きな裁量が認められた判例もあり、似たような扱いをしている会社は、意外に多いのではないでしょうか。

これとは少し違う話で、私はこんな経験をしたことがあります。
ある会社で育児休業に入る女性社員がいて、その後も復職して働くことを希望していました。いつの時代でも、特に中小企業ではそんな簡単に優秀な社員は採用できません。この会社の社長は、できるだけ多くの社員が働き続けられる環境が大事と考えており、この女性社員が、できるだけ良い形で復職ができるようにと考えました。
また、この会社にとって初めての育児休業の経験だったことから、良い事例を作れば社員も安心するし、企業アピールにもなるという考えもありました。

育児休業中も本人とはコミュニケーションを絶やさず、希望を聞いたり復職にあたっての体制を整えたりしました。社員たちもこの動きをおおむね好意的にとらえていて、社内でも「こんな仕組みがあった方が良い」「こんな配慮が必要では」など、いろいろ前向きな意見が出ました。
そして晴れて女性社員の復職の日を迎え、社長をはじめとした社員のみんなも、復職した本人も、「さあ新たに頑張ろう」という良い雰囲気がみなぎっていました。

しかし、それから2か月後、会社にとっては思いがけないことが起こります。この復職したばかりの女性社員の夫に、地方への転勤辞令が出たのです。育児休業をした本人には、いろいろ配慮しなければならないことが法律でも定められていますが、その家族に対する決まりはありませんから、夫の勤務している会社は、ただ自らの裁量を行使しただけでしょう。

結局、この女性社員は夫の転勤先についていくこととなり、会社は退職することとなってしまいました。社長はいろいろ思い入れて取り組んでいたこともあり、女性社員に「いつか必ず戻ってきてね」と声をかけるのが精一杯で、落胆した様子がありありでした。
どんなに「相思相愛」「準備万端」で物事を進めても、それを社外の事情で壊されることもあるのだという話でした。

いろいろ調べてみると、実はこれと同じく「夫の転勤が原因で離職する女性」は、かなり多いようです。これを解決しようという取り組みも一部でされていて、複数の企業が連携して、配偶者の転勤先にある他社に、待遇を下げずに「移籍」できたり、元の会社に復職できたりする制度があるそうです。

ただ、こういった取り組みの前段として、私はそもそも「転勤」という制度そのものが、もう時代遅れだと思っています。
日本では転勤は当たり前なこととなっていますが、これは他国にはない独特の慣行だといいます。それができたのは、「終身雇用制」で会社の指示に従わざるを得ない面が強かったこと、「職能資格制度」で、職務転換が必ずしも報酬とは紐づかず、異動がしやすかったことがありますが、この前提はすでに大きく崩れています。

テクノロジーの進歩でリモートワークが一般的になっている昨今、仕事内容だけでなく、住む場所も、生活環境も、プライベートを含めた人間関係も、すべて変わって大きなストレスを生み出す「転勤」が、そこまで必須のことなのかと私は疑問に思います。リモートワークと出張の組み合わせで、その土地に常駐しなくても、遠隔地の仕事を十分にこなせる環境があるはずです。
「転勤のおかげで経験が積めた」という話は確かにあると思いますが、それは本当に転勤を通じてしか経験できないことだったのでしょうか。他にも手段が考えられた例もたくさんあると思います。

ある大手損保が、「転勤を原則廃止する」という発表をしました。今後数年かけて、全社員が自分の働きたい地域で働き続けられるようにし、本人が望まない転勤を一切なくすということです。
これからは、企業戦略としてこういう動きをする企業が増えていくでしょう。「転勤」については、そろそろ考え方を変えなければいけない時期になっています。


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