東京都が始めた若者向け予約なしワクチン接種に希望者が殺到して、いろいろ収拾がつかなくなった話題がありました。結局抽選制になり、それも現地に行って券をもらうアナログな方法ということで、いろいろ批判的な意見があるようです。
準備不足は大目に見たとして、関係者が「若者は希望者が少ないと思っていたので想定外」と言っているのを聞いて、それはさすがに状況把握がずれ過ぎていると思います。
普通に公表されているデータを見れば、確かに年齢が下がるほど希望者の比率は減りますが、それでもはっきり「希望しない」と答えているのは2割くらい、次の2割は「まだわからない」となっています。それは残りの6割は希望しているということであり、「想定外に希望者が多かった」などというのは、「若者の接種意向は少ない」と勝手に思い込んでいただけでしょう。
きちんと調査するなり、それができなくても身近な若者に意見を聞くくらいで十分に状況はわかったはずです。そんな思い込みで重要なことが動き始めてしまうのはかなり危うさを感じます。
この「若者は…」の思い込みは、私の年齢でいうのも説得力に欠けますが、気になることがずいぶんたくさんあります。
例えば、最近の若者は「物欲がない」「購買意欲がない」と言います。車を買う若者がどんどん少なくなっていることなどと結びつけて言いますが、そういうデータは確かにあるものの、だから購買意欲がないと言い切ることはできません。
車に興味のない人が多いのはそうかもしれませんが、例えばかなり高級な自転車を持っていたり、洋服をたくさん持っていたり、釣り、アウトドア、その他趣味のグッズを取り揃えていたりします。自分が興味のない物、不要と思う物に無駄な支出はしませんが、自分の好きな物や必要だと思った物には、結構思い切ってお金を使う人が大勢います。これは物欲や購買意欲はあるが、自分が無駄だと思う物には手を出さないというだけに過ぎません。
こうやって見れば、「今どきの若者は物を買わない」というのは、他の世代が一部の人を取り上げて勝手に思い込んでいるだけに過ぎないことがわかります。
例えば、最近の若者は「あまりお酒を飲まない」などと言われ、確かに全体販売量のようなデータを見れば、そういう傾向はあるのかもしれません。ただ、私の周りで見ていると、一滴も飲まないという人は少数で、状況に応じてそれなりにたしなんでいる人がほとんどです。
「お酒が好き」「飲み会が好き」という若者は大勢いますが、つぶれるまで飲むようなことは確かに少ないようですし、職場関係のようなあまり親しくない人と一緒に行くのは好まないところがあります。ただ、そのことだけで「若者はお酒を飲まない」と言い切るのは、同じく思い込みに過ぎません。
こういう思い込みが増えるのは、主に上の世代が自分たちが同年代だったころと比べて、違うと感じたところばかりを象徴的に言うからです。あくまで私が感じることで、今の若者世代と以前の違いを挙げるとすれば、志向が多様化して何に関しても一概に言い切ることがしにくくなったことがあります。
車や飲み会よりも優先したいことが人それぞれでたくさんあって、ある一つの切り口だけをとらえて論評しても、それが全体傾向にはつながらないことが多いです。逆に若者の中でも車好きや酒好きは大勢いて、その人たちだけに注目すれば「あまり昔と変わらない」となりますが、そのとらえ方も同じく全体傾向とはつながりません。
特に若い世代では志向や価値観が多様化しており、ステレオタイプに「○○は○○だ」などと言い切ることは難しくなっています。
型にはめた思い込みで決めつけず、客観的な情報で実態を把握することが、まずます重要になっています。