2016年2月29日月曜日

長く働いてもらいたいから、あえて社員に委ねる人事制度



ソフトウエア開発会社の「サイボウズ」には、育児休暇ならぬ「育自分休暇」という制度があるそうです。
35歳以下の社員が対象で、いったん退職して最長6年間は復職が可能というシステムで、制度活用を希望する社員は、退職期間中の活動などを書類提出し、認められれば制度を利用できるそうです。期間中は転職、長期旅行、その他何をしてもよく、いちいち会社への近況報告も不要だそうです。
また、復職したいとなれば、数カ月前に報告するだけでよく、復帰後の役職や給料は面接を実施して決定し、6年たって復職しないとなれば、その意志を尊重するのだそうです。

会社の仕事に誇りを持った優秀な社員が心の奥で思う、他の仕事や活動に携わってみたいというチャレンジ精神を応援することで、そのノウハウを将来的に会社に還元するという長期的な戦略があるのだそうです。
一見すると退職を助長しかねない制度ですが、担当者は「長く当社で働いてもらいたいからこその制度だ」とおっしゃっています。

このような、出戻り奨励ともいえるような制度は、導入事例を最近はときどき聞くようになりました。ある調査では、7割以上の会社が「出戻り社員」を認めるという結果もありますので、このあたりの意識はずいぶん変わってきているのだと思いますが、このようにはっきりと制度化しているところは、まだそれほど多くはないように思います。

やはり自社の知名度、待遇、業界内の位置づけ、従業員満足度などから、さすがに制度化までするのは躊躇する会社が多いと思いますし、もしも私が自分のクライアントに提案するとしても、相手の会社の様子を深く知っていないと、同じように躊躇するだろうと思います。

ただ、かつてであれば、ある程度の枠の中に押し込める画一的な制度でよかったでしょうし、そもそも制度というのはそういう性格のものでもある訳ですが、多様性、ダイバーシティが言われる今の時代では、ただ杓子定規に会社の一方的な都合で制度を決めるという訳にはいかなくなっています。

会社は優秀な人材をできるだけ自社にとどめておきたいと考えますが、優秀な人材ほど自分のことは自分で考え、自分の意志で決断します。ある枠に中に閉じ込めようとすればするほど、それに反発したり、外の世界に目が向いたりしがちになります。

すべての会社に当てはめるのは難しいのかもしれませんが、特にキャリアに関することは、あえて社員に委ねることで、結果的には優秀な人材が集まってきて、その人たちが長く働いてくれることにつながるという考え方もわかる気がします。会社はそういう人材に選ばれるような取り組みが必要だということです。

どんなことでもそうですが、抑え込もうとすれば、それに反発する力量がある人ほど離れて行ってしまうのは、確かなことだと思います。社員に委ねるという視点は、これからの会社の仕組みづくりの中では、持っておく必要があることではないでしょうか。


2016年2月26日金曜日

「副業禁止」を言うからには、会社もやるべきことがある



ロート製薬は4月から、国内の正社員約1500人を対象に、就業先を届け出れば、平日の終業後や土日祝日に他社やNPOなどで働く兼業を認める制度を始めるそうです。会社の枠を超えて培った技能や人脈を持ち帰ってもらい、ダイバーシティー(多様性)を深める狙いがあるとのことです。

このようにサラリーマンの副業を認めていこうという流れは、少しずつ動きが出始めているとはいうものの、実際に認めている会社はまだまだ少数派です。
最近はマイナンバーの導入にからんで、会社に内緒の副業がばれるというような話から、それを防ぐ方法をレクチャーするような記事も目にしました。「副業禁止」が大多数の現状だからこそ、こういう話が出てくるのだと思います。

そもそもの話として、サラリーマンの副業がなぜいけないこととされるのか、少し調べてみた中で出てきた理由は、以下のようなものでした。

・会社の情報やノウハウを漏えいさせないため
・会社の資産を使って個人に金儲けをさせないため
・社員には自社の仕事に集中してもらうため
・副業を手掛けると会社への帰属意識に差し支えるため
・副業で疲れがたまると本業に差し支えるため
・副業を通じた評判などが、本業に悪影響を与えないようにするため
・就業時間中に副業されるのを防ぐため
などなど。

それぞれもっともな感じがしますし、もしも私が企業人事の立場であれば、たぶん何の疑問も持たなかっただろうと思います。
ただ、これをコンサルタントという立場で一歩引いてみてみると、例えば「本業に集中できない」は、何も副業に限ったことではなく、趣味や非営利の社外活動でもあり得るでしょうし、私生活上の問題などが、同じく仕事に集中できない原因となることはあるでしょう。

一番の理由と思える「情報漏えいや流出」「会社の資産を利用した金儲け」についても、もちろんそうなる恐れは排除できませんが、実際問題として、いま持っている会社の資産や情報を、同じ人が本業と副業の同時並行で使うことは、相手側も違和感を持つでしょうし、意外に難しいのではないでしょうか。
副業を通じてというよりは、自分以外の関係先や自分の退職後など、会社から身を遠ざけた上で、中には不正の意図をもって行われることの方が多いように思います。

さらに、「帰属意識」「疲労」「自社の評判」などとなってくると、これはもう自社以外の仕事を副業として行うことに対する、単なる嫉妬のようにも思えてきます。

かつてであれば、企業が社員の副業を禁止することに、私はそれなりの説得力があったと思っています。終身雇用が前提で、給与も年とともにそれなりに上がっていく、要は「会社はあなたの面倒を最後まで見るので、その代わりに変な浮気はせず、会社に一途に向き合いなさい」ということです。
ただ、残念ながら、今はもうそういう時代ではありません。会社に対して一途に向き合っていた人が、ある日突然仕事を失うかもしれない時代です。一途であった人ほど他へのつぶしが効かず、収入を得る手段がなくなってしまいます。

最近は共稼ぎの家庭も多いですが、女性の社会進出という理由だけでなく、一人の稼ぎだけでは家計を維持するのが難しいということや、働き手が複数いれば何かあった時のリスクヘッジになるということもあるでしょう。

今の時代に、会社が「副業禁止」を言うのであれば、社員の面倒を自社ですべて最後まで見るという覚悟が必要だと思います。そのつもりがないのであれば、「副業禁止」は、社員が生活を維持していく選択肢を奪っているだけです。

もちろん、何でも野放しにしろとは言いません。ただ、将来の保証をしないのに、昔からの慣習のままで「副業禁止」を言うのは、私はちょっと一方的すぎるのではないかと思います。


2016年2月24日水曜日

なかなか持てない「物事に見切りをつける勇気」



ある会社のナンバー2の方と話している中で、この会社が2年ほど前からやり始めたという、ある新規事業の話題になりました。
社長直轄で取り組んでいる事業だそうですが、これまでの2年間での売上はほとんどなく、やればやるほど投資と経費がかさんで、ただ会社の業績を圧迫しているだけなのだそうです。直近の売上見込みもほとんどメドがないようです。

それでも社長は将来性があるとか、引き合いの話があったとか、ああだこうだと言いながら決して取り組みをやめようとしないそうで、さらに新たな営業要員を雇ったりするなど、独断で追加の投資をしてしまうので、このままでは会社自体が存続できなくなるのではないかと、このナンバー2の方は危惧しています。新規事業がらみの中では、よくある話という気もします。

その後いろいろお話を聞きましたが、商材の内容や価格、市場、これまでの案件数や引き合い状況、売上実績などを見ると、私はあまり芽が出そうにない事業のように感じましたが、たぶん社長はそう思っていないのでしょう。実際問題としても、事業をやめてしまえばこれまでの投資は無になり、続ければもしかすれば何かしらのリターンがあるかもしれません。こればかりはどうなるか、何が正解なのかはわかりません。

それとはまったく別の話ですが、このところの株安がらみの雑談をしている中で、複数の人から「昨年末までの段階で手持ちの株をほとんど手放した」という話を聞きました。皆さんそれなりに投資で成功している方ばかりですが、異口同音におっしゃっていたのは、「この状態は続かない」「そろそろ見切り時だと思った」ということでした。

なぜそう判断したかという目の付けどころは千差万別でしたが、少なくとも皆さん必ず何かしらの論理があった上でのことで、決して当てずっぽうという訳ではありません。ただ、その事象を誰でも同じように捉えるかというと、それはそうとは言えず、何か直感が働いていることもまた確かだろうと思います。

実は私自身は、身の周りで起こることに対して、なかなか見切りをつけられないタイプを自覚しています。「せっかく今までやってきたのだから」という思いがなかなか捨てられません。見切りをつけられずに損害を被った経験は、幸い今のところはないですが、もっと伸びるとか効果があると思っていたことがさほどでもなく、それでも何となくやめられずに続けていることは、やっぱりいくつかあります。

ただ、事業とか投資とか会社経営ということはそれではダメで、何でも根気強く続けていればよいということではなく、この「見切りをつける勇気」がなければ、絶対に成功しないのだろうと思います。

でもやっぱり、「物事に見切りをつける勇気」を、私はなかなか持てません。もしかすると私以上に、攻めの姿勢で成功してきたような人ほど、引くに引けなくなってしまう傾向が強いのかもしれません。

大事だということは頭では理解しているものの、私はまだまだ修行が足りません・・。