2021年6月28日月曜日

それは「余裕」なのか「緩み」なのか

たまたま見ていたある動画の中で、ツアー優勝の経験がある40才代の男子プロゴルファーが話していたことです。

ある試合の練習ラウンドで、20代の選手のグループとたまたま一緒にプレーする機会があったそうです。若いとは言ってもみんな優勝経験があるような実力者だったそうですが、一緒に回って感じたことが「余裕」だったそうです。みんなが穏やかに談笑し、冗談も言いながらプレーしている様子が新鮮で、もし同世代の選手だったらみんなしかめっ面の怖い顔でプレーしていたのではないかと思ったそうです。そんな若手選手の様子を見て、こういう「余裕」が最近の自分に欠けていた姿勢ではないかと思ったとのことでした。

 

練習ラウンドの目的は、コースの状況を知って試合でプレーする上で必要な情報をインプットすることです。それが達成できれば、別にダラダラしようがヘラヘラしようが関係ありません。しかめっ面や怖い顔は間違いなくその時の精神状態の現れなので、真面目、真剣、集中などというよりは、緊張状態であることの方が大きいでしょうが、変に緊張するとチェックが漏れたり確認が甘かったりするかもしれません。それはそもそもの目的が果たせないことにもつながります。

この選手が「自分に欠けていたかも」と思ったのは、こういう面での「余裕」を持った姿勢で、すでに実績がある若い選手から、この「余裕」をひときわ感じたということのようでした。

 

私はアスリートではありませんが、もし自分が仕事の場面で同じような場面に出会ったら、どう感じたのだろうかと考えてしまいました。もしかするとその人の様子だけを見て「緩んでいる」「不真面目」などととらえたかもしれないと思ったのです。

 

本来は「目的が達成されているか」が重要なはずですが、私を含めた上の世代の人間は、つい「取り組み姿勢」などの本質的でない部分に評価が引きずられがちなところがあります。「毎日遅い時間まで頑張っている」などというのはかつての典型ですが、それだけ時間を使っても成果が伴っていなければ、それ相応の評価がされなければなりません。

「神妙な表情で反省している」と見えても「何度も同じことを繰り返す」とか、「いつも忙しそう」に見えても「指示したものができていない」とか、他にも「仕事をしているふり」に騙されるようなことは、程度の差はあっても見かけることがあるものです。

 

先ほどの「余裕」なのか「緩み」なのかという話は、まったく同じ様子を見ていたにもかかわらず、とらえ方としては正反対です。これは長所と短所が裏表ということに似ていて、見る人の視点によってとらえ方が変わるということです。

これを「余裕」ととらえたベテランゴルファーは、本来の目的に照らして見たときにポジティブに感じたということであり、もし「緩み」ととらえる人がいたとすれば、それは目の前の振る舞いを見てネガティブに感じたということになります。どちらの見方がより本質的かといえば、やはり「目的に合っている」という視点から見た前者の方が合っているでしょう。

 

「取り組み姿勢「礼儀」「態度」「言動」といったことは確かに重要ですが、自分の価値観だけに当てはめてそればかりに注目していると、それが目的に見合っているのかなどの本質的な視点を失います。

 

それが「余裕」なのか、それとも「緩み」なのかといったその場の空気感に関するとらえ方は、そこで目指しているものや目的によって変わるということを、しっかり頭に置いておく必要があります。

 

 

2021年6月24日木曜日

自分の仕事を囲いこみたくなる気持ち

ある会社で、自分の仕事を囲いこんで他人に渡さない事務職の話題になりました。

それなりの経験年数がある人ですが、自分の担当業務に他人がかかわることを極端に嫌い、上司にすら報告を拒むことがあるようです。その一方、自分の担当以外のことには絶対に手を出しません。サポートを依頼しても何かと理由をつけて対応しないそうです。

 

この手の話は結構多くの会社で聞きます。年齢や性別による傾向はあるような気もしますが、必ずしも言い切れないので、基本的には個人のキャラクターによるところが多いのでしょう。

ただ、私が見ていてこういう行動をする人に、共通していると思うことがあります。それは「もしかすると仕事を失うかもしれない」という不安と「自分の方が上の立場で優位でいたい」というマウンティングの心理のどちらか、もしくは両方持っているということです。

 

例えば、わりと定常的にこなせる事務担当であったり、体制縮小が決まっている部門の構成員であったり、定年間近で自分の仕事の引き継ぎを求められていたりという人たちですが、そういう人たちは、今やっている仕事が異動や担当変更、システム化などによって変えられてしまうかもしれず、なおかつそれを恐れているような人たちが、仕事を囲いこむという行動に出がちです。

「自分の方が上」「できる」という立場を維持したい人も、基本的には同じことをします。他人には情報を与えずに「出る杭は打つ」ということをします。

 

そう思ってしまう気持ちはわからなくはありません。よく「変化対応力」が今の時代では大事といいますが、人間の本能として「変化を避ける」ということがあります。その理由は、できるだけ変化を避けていた方が生存確率が高いからです。

例えば、今が原始時代だったとして、誰も行ったことがない場所に食料調達に行こうとするような人は、命を落とす確率が高くなります。しかし、安全に食料を得て帰ってくることに成功すればヒーローであり、その後の食料調達への道が開けます。つまり「変化に挑戦する人」「変化に向き合える人」は少数の特別な人で、それ以外は「変化を避ける」ことで身を守ろうとするのが普通なのです。

 

そこから考えると、「仕事を囲いこむ人」に、本能的には普通の行動をしています。この認識を変えるには、他のみんなと仕事を共有した方が自分も得をするとインプットしなければなりません。仕事が変わっても奪われることはなく、立場は変わっても尊重されることを理解させなければなりません。

 

こういうことには、つい理屈だけで対処しようとしがちです。効率、生産性、危機対応、あるべき論、その他いろいろな話で納得させようとしますが、「仕事を囲いこむ理由」には、実は感情的な部分の比率が意外に高いものです。そうであれば、「大丈夫」「支援する」「気持ちはわかる」など、感情に寄り添うニュアンスも合わせて必要です。

 

理屈で説得しても変わらないとき、その要因は感情にあります。そもそも人間が本能的に変化を避けたがることは、理解しておく必要があります。

2021年6月21日月曜日

「辞めさせない」ではなく「辞めてもつながれる関係」

退職者対策は、今はどこの会社でも意識していることです。思い通りの人材をすぐに採用できる環境ではありませんから、今いる人材をいかに辞めさせずに働いてもらうかは、企業にとって重要なことです。

退職者対策については、私も過去からいろいろ相談を受けてきた課題です。ただ、そこでできることは、社員の望んでいることを少しずつでも実現し、給料、福利厚生、ほかの労働条件や、企業風土、人間関係ほかを含めた職場環境を、すべてにおいて少しずつでも向上させていくしかありません。

「辞める理由を無くすのではなく、残る理由を増やすこと」などとも伝えていますが、何をやっても100%万全ということはありません。日本一の有名優良大企業でも辞めていく人は存在します。

 

そんな中では退職希望者に対する引き留め工作も、多くの企業でおこなわれます。上司からそのまた上の上司、担当部長から担当役員、最後は社長まで、順番に同じような話をして、とにかく時間をかけさせて引き留めようという会社があります。面倒さであきらめさせようというつもりかもしれませんが、一度辞める決意をした人の気持ちはそう簡単には変わりません。

中には恫喝や脅しまがいのやり取りを含んでいる場合や、逆にそんなトラブルから解放されるために「退職代行業者」なるものも存在しています。それでビジネスが成り立っているわけですから、退職を翻意させるための過度なやり取りは、あちこちで起こっているということでしょう。

 

ただ、最近はこの「辞めさせない」という考え方を大きく転換する企業が出始めています。もともとは一部の会社だけに見られていた「独立歓迎」「出戻り歓迎」といったものが、今は多くの会社で当たり前のようになってきています。

もちろん「独立」には最近盛んになっている「副業」と同様に、競業避止に関する問題がありますし、「出戻り」については必ずしも歓迎できる人ばかりではありません。その人の能力や性格、以前退職した際の経緯などによっては、受け入れられない人材もいるでしょう。

 

しかし、そうは言っても、優秀な人材ほど自社だけに縛りつけておくことが難しい世の中になってきました。それなら「退職させない」ということよりも、「退職したとしてもその後も何らかの形でつながりが持てる関係」を多くの企業が考え始めています。

「独立」した社員と業務委託で仕事を継続したり、副業や業務委託を前提にした仕事情報を発信して社外人材を募ったり、希望する社員の個人事業主化を支援したり、辞めた社員に連絡を取り続けて出戻り可能なことを打診し続けたり、その内容は様々ですが、共通しているのは社員として囲って自社の業務だけをやらせるのではなく、高い能力があって余力がある人には、社内外の人材を問わず仕事をしてもらおうという考え方です。

そうなると、何らかの理由で会社から離れていった人は、力量や人となりがわかっているという点からも、さらに活かしやすい人材と見ることができます。請負でも副業でも戻ってくれても良く、そのためにはその人が辞めた後でも、引き続き関係を切らずにつないでおくことが必要になります。

 

そこでは、嫌な辞め方、許せない辞め方をした退職者とは会社が付き合えないのと同じく、不誠実な会社、社員を粗末にする会社では、付き合いを続けてくれる退職者は絶対にいません。会社として良くない行動の中には、退職時の恫喝や過度な引き留めといったことも当然含まれてきます。

 

今は「辞めさせない」ことを考えるよりも、「辞めてもつながれる関係」を考える方が、メリットとなる点が多くなってきています。少なくとも退職者をひとまとめに「裏切り者」「不適合者」のように扱って縁を切るのは、もう時代にそぐわなくなってきています。

 

 

2021年6月17日木曜日

「人見知り」で「人付き合いが苦手」なリーダー

人間誰しも得手不得手があります。そんな中でチームをまとめるリーダーのイメージは、「人付き合いがうまくて社交的な人」かもしれませんが、実際にはそういう人ばかりではありません。当然ですが、リーダーにはいろいろなタイプの人がいて、中には人見知りや人付き合いの苦手な人がいます。

 

ただ、そういうリーダーでも、現場レベルでは意外にうまくチームをまとめているものです。

あるリーダーは、いつも口数が少なく、人垣の一番外側のすきまから、顔を出して覗いているようなタイプの人です。自分から前に出ることはほぼなく、一般的に言うリーダータイプとは程遠い人です。それでもチームはとてもよくまとまっています。

チームメンバーたちはリーダーの性格をよく理解しているので、必要なことは何でも自分から確認し、いちいち言われなくても行動ができます。顧客も比較的長い付き合いのところが多く、みんなリーダーの人となりを「口数は少ないが真面目で誠実な、話すと実は面白い人」とわかってくれています。

周りの人たちから理解されて愛されていることもありますし、リーダー的な役割を他の人たちが肩代わりしてくれているところもあります。それでも肝心な時にはあてにされ、だからリーダーとして認められています。

必ずしもリーダー的なイメージの人がリーダーに適任というわけではなく、メンバーたちとの役割分担や、お互いがよく知り合うための時間を積み重ねることで、十分にリーダー役を担うことができます。

 

しかし、組織のトップリーダーに近づいていくほど、そのリーダーが人見知りのままでは本人も周りもつらくなってきます。理由はトップに近づけば近づくほど、形式的な社交の場が増え、面識がない初対面の人や、会うのがその場限りの人との対応が増えてくるからです。

ある会社の社長ですが、人付き合いが苦手なため、本人はそういう場を極力避けようとしたがります。しかし、社長に会ってもらわなければ話が進まない取引先や、挨拶、顔合わせが必要な関係先はその都度たくさん出てきます。ここでは「社長以外の誰か」という代えが利きません。

 

社長自身の腰が引けているため、周りの関係者はまずは連れ出すまでに一苦労し、さらに実際の現場でも気を遣わなければなりません。程よい世間話などは最も苦手なので、常に誰かがそばで取り繕う必要があります。それでも他の誰かではどうしようもないことが起こり、そこで社長がうまく関係を築いてくれるか、親密に接してくれるかは、その後の付き合いに大きな影響を及ぼします。

 

私がお付き合いしてきた中でも、人付き合いが苦手な社長は何人もいて、やはりデメリットの方が多いように見えました。それぞれ程度の違いはありますが、基本的に相手との距離感やコミュニケーションの取り方がうまくなく、実は部下や身近な関係者との間でも、良い関係が作れていないことがありました。一定の立場を超えると周りの人ではカバーすることが難しくなり、本人の苦手な部分がそのまま前面に出てしまっていました。

 

そんな中にも、これを克服した社長がいました。立食パーティーの壁際で孤立していたような人ですが、たぶん意識して頑張って、いろいろな場に顔を出すことで少しずつ慣れていって、今は見違えるような社交性を身につけています。そのおかげで会社も対外的な付き合いが広がって、業績にも良い形で跳ね返ってくるようになりました。

 

リーダーのスタイルはいろいろで、人付き合いをはじめとした対人関係が苦手な人でも、やり方次第で十分にその役割は果たせます。ただ、それがトップに近づくほどに対人関係は重要になり、その人以外の代えは利かなくなります。

トップリーダーに限っては、いくら「人見知り」で「人付き合い」が苦手であったとしても、それを克服する努力が必要ではないでしょうか。

 

 

2021年6月14日月曜日

自分の素性を知ってもらえば得がある

以前のことですが、知人の研修講師が話していたことです

あるプロ野球チームの大ファンとのことで、年間で20試合近くは球場で観戦するそうですが、やはりチケットが手に入らないことも多々あるそうです。

 

この人がまだ研修講師になりたての頃、講義の初めの自己紹介では、必ず大のプロ野球ファンであることと、あるチームが大好きで追いかけていることを話していたそうです。そうしていると、年に数回は野球観戦に誘ってくれたり、チケットを回してくれたりする人が、誰か必ずいたといいます。

観戦しに行けることが本音でうれしく、その人には心からお礼を言って、都合がつく限りは観戦しに行っていたそうですが、そうしているうちに誘ってくれる人の数と、誘ってもらえる回数が徐々に増えていったといいます。その後は自分でチケットを買う以外にも数カ月に一回は必ず誘ってもらえて観に行けるようになり、時には貴賓席や年間シートなど、めったに入れないところで観ることもできたそうです。

「自分の性格や好きなことなどの素性を他人に伝えていると、それが相手の中にインプットされ、その人を介して自分にとってうれしいことや有難いことがどんどん増えて得することが多いと言っていました。

 

この話には私もかなり共感するところがありました。ゴルフをするとかお酒を飲むとか、自分の性格や趣味、その他好みを周りの人たちに伝えていると、そのことに関して声をかけてもらえることが増えていきます。一度付き合いがつながると次も誘ってもらえるようになり、自分だけでは出入りできないところに行けたり、思いがけない人に会えたりということもあります。

私の場合は仕事でも同じことがあり、自分の仕事内容や専門性、パーソナリティーを知ってもらっていると、そこから仕事の相談や依頼につながっていくことがあります。リピーターや紹介というのも、これらと似た話だと思います。

 

これは様々なチーム運営の中でも、リーダーが自分の方針や価値観、考え方の基本をメンバーに伝えておくと、みんなの行動には一貫性が出てくるようになります。理念や指針といったものは、こちらの素性を相手に知ってもらうための発信であり、そうすることでそれに合わせた好ましい行動が増えます。

 

最近は価値観の多様化から、言わなければ伝わらない話が多くなっているので、きちんと言葉に出してコミュニケーションするリーダーが増えましたが、「これくらい常識」「空気を読め」「気を利かせろ」など、以心伝心やあうんの呼吸を求めるリーダーはまだまだ存在します。しかし、それでは必ずしも正確に理解されるとは限らず、仮に理解されたとしても、それまでには相応の時間がかかります。リーダーの側から意識して発信することが重要で、それによって仕事はスムーズに進むようになります。

 

「自分の素性を知ってもらえば、得することが増えていく」というのは、何が対象であっても同じことではないでしょうか。