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2023年5月8日月曜日

「一つの会社で働き続けるデメリット」という話

 人手不足と採用難の環境下であることから、退職防止、定着促進に取り組む企業が数多くあります。私も企業の組織作りを支援する立場なので、そのための人事施策には頻繁に関わります。

 

社員にとって様々な意味で「良い会社」であれば、そんなに簡単に人は辞めません。

入社間もない人の早期離職が問題になることがありますが、初めからすぐ辞めるつもりで入社する人はいません。そういう決断をしなければならないほどのミスマッチや認識違いがあったということですが、こういうことを本人の能力不足や順応性不足として、自分たちのことはあまり反省しない会社が相変わらずあります。やはりこれでは「良い会社」とは言えない訳で、いろいろ真面目に考え直さなければ、いつか行き詰まってしまう時が来るでしょう。

 

しかし、もし「良い会社」だったとしても、退職を完全に防ぐことはできません。ある調査によれば、勤務先を退職した経験のある人は20代で7割弱、40代では9割以上となっており、理由はともかく退職というのは誰でも普通に経験していることです。

今はどんな大企業でも、優良と言われる企業でも、ずっと安定した形で成長、存在し続けることが難しい時代になりました。そんな中で最近よく言われるのが、「一つの会社で働き続けるデメリット」という話です。

 

良く挙げられるデメリットとしては、

・スキルアップがしにくい

・仕事や人間関係での視野が狭くなりがちである

・環境変化に適応しづらい

・収入が上がりにくい

・自分の市場価値、社外価値が低くなる

などがあります。

 

要は安定していることによって起こってくるマイナスの側面といえ、自分のキャリアに関して会社への依存度が高いということもできるでしょう。

 

しかし、だからと言ってみんながみんな、転職すべきと推奨するような話でもありません。

自分なりに意識すれば、別に転職しなくても、このデメリットを回避する方法はたくさん考えられます。

 

「スキルアップ」に関しては、時代の変化に対応するために、新しい知識やスキルを学ぶ「リスキリング」が話題になるように、会社から離れて自分なりに学ぶという方法があります。

「視野を広げる」ということでは、社外のコミュニティに参加する、副業などの形で会社以外のビジネスに関わるなどの方法が考えられます。

「自分の市場価値を知る」という意味では、その気がなくてもあえて転職活動をしてみて、自分が他社からどのように評価されるかを聞くといった方法もあります。

大きな会社であれば、社内異動によって全く別の仕事を経験する機会を得て、これらのデメリットを解消することもできるでしょう。

 

一つの会社で働き続けることには、会社からの信用、職場環境や人間関係、収入の安定などのメリットがあります。このメリットを活かしながら、デメリットを減らしていくという考え方もできます。

いずれにしても、会社に過度に依存せず、環境変化への適応力を身につけておくことだけは、確実に必要な取り組みだと思います。

 

2023年2月13日月曜日

「伸びしろの見極め方」「才能開花のさせ方」という話

 ある新聞に、「若者の才能を見逃さない」という、プロ野球スカウト部長のインタビュー記事が目に留まりました。日本ハムファイターズのGM補佐兼スカウト部長である大渕隆氏へのインタビューです。

この方は、大谷翔平選手をドラフト指名した際に、本人は当初直接のメジャー入りを目指していたものを、自身の能力を最大限に生かすには、まず日本球界でプレーすることが適切だという客観的なデータを示して翻意させたというエピソードを持っています。

 

記事にはいくつもの示唆に富んだ内容がありましたが、私が一番共感したのは、「“見えないもの”に焦点を当てなければ、自分たちの仕事に意味はない」という言葉です。

球速や身体能力などの見えるデータは、もちろん評価の確認に使いますが、そこを重視しすぎるとうまくいかないことが多いといいます。大事なのは数字にならない「考える力」や「強い思い」などの「見えないもの」だと言っています。

 

いくつか挙げられていたポイントには、

・人間同士なので伝わってくる第一印象を大事にする。

・ピンチになった時にその人の本質が出やすい。

・ユニフォームの着こなしやグラブの手入れ、野球ノートの書き方なども材料になる。

といったものがありましたが、中でも「企業の人は“20分の採用面接では何もわからない”などというけれど、むしろ1回の方が良い時もある」という話は、私も同じことを思いながら実践、指導してきた経験があるので、とても共感するところがありました。

 

「一つの常識というフィルターにかけたらふるい落とされる者がたくさん出るから、私たちは評価基準や引き出しを何通りも持たなければならない」といい、そうでなければ大谷選手の二刀流もなかったかもしれないと言っています。

「若者を枠にはめるのではなく、その人しか持っていない才能を開花させなければならない」

「“組織の常識”というフィルターにかけて才能を見逃していることが、どんな組織のもあるのではないか」と締めくくられていました。

 

私がいつも怖いと思っている言葉の一つに、「常識」というものがあります。人を枠にはめる典型的な言葉だからです。「そんなの常識」「これくらい常識」「当たり前の常識」など、いろいろな言い方がされますが、そもそも「常識」というのは、10人いればほぼ10通りに分かれる多様なものです。

パワハラにあたるかもしれないためか、最近は見かけませんが、以前は上司が部下に、「これくらいのことが常識でわからないのか」などと叱責していることがありました。当時はそれで通用していましたが、そもそも常識は人それぞれなので、きちんと言葉にしていないなら、本来はわかるわけがありません。

そういう決めつけによって排除してしまった才能が数多くあったのだとすれば、それはとてももったいないことです。

 

「その人しか持っていない才能を開花させなければならない」ということは、組織で採用や育成に関わる人は、十分認識しておかなければならないと思います。

 

 

2023年1月9日月曜日

採用活動での「誇張」と「謙遜」

いくつか目についたアンケート調査で、新卒中途に限らず就職活動で自身の経歴や面接での回答を“盛った”経験のある人が6~7割に上るという結果がありました。程度に差はあれ、面接に臨む応募者の大半は、自分の実績や経験を何らかの形で誇張していることになります。

 

例えば新卒採用では、学生時代に力を入れてきたこと、いわゆる「ガクチカ」に関する質問がよくされます。学業、部活やサークル活動、アルバイトなど、語られる対象は人それぞれですが、ほとんどの人がそれなりの内容を答えます。そうは言っても、やはり内容の薄い人や真偽のほどが怪しい人はいます。

 

ここで、立派な内容が語られれば面接での評価が高いかと言えば、一概にそうとは言えません。見方によっては、内容が薄い人の方が正直だと言えるかもしれませんし、そもそも学生時代に打ち込める物を見つけられた人は希少かもしれません。部活動やアルバイトの経験が、そのまま仕事に活きることは多くはありませんから、あくまで応募者の人柄や素養、自社との相性をはかるための一つの材料でしかありません。

 

もうかなり前のことですが、ある知人の会社に応募してきた外国籍の人の経歴が、自社の求める要件にぴったりだったそうです。面接でのやり取りも自信満々で、こちらの期待していることを何でも「できる」「経験がある」と言っていたようで、社長や採用担当者はこの人を気に入って採用することになりました。

しかし、入社してすぐに、面接では自信満々に「できる」と言っていた内容は、実際にはほぼ未経験だったことがわかったそうです。他にもいろいろ見込み違いがあったらしく、すべて虚偽とは言えないようでしたが、かなりの誇張があったようです。ずいぶんもめた末に退職していったという話でした。

この会社の社長と担当者は「できないことまでできると言い切ってしまう神経が理解できない」「日本人だったらそこまで誇張しない」などと言っていましたが、盛った経験のある人が6、7割ということからすれば、国籍に関係なくこういうことがあってもおかしくはありません。

 

これとは逆に、もし採用面接で自分の経歴を常に「謙遜」して話す人がいたとしたら、それを「謙虚な人柄」などと肯定的にとらえることはたぶん少ないです。自信があることのアピールがあって、その上で見せた謙虚さであれば、そこで初めて総合的なプラスにとらえられます。謙虚さだけで採用に結びつくことは、たぶんほとんどありません。

 

こうやって見てくると、採用活動の中で「誇張」や「盛り」が起こるのは、応募者の心理から見ても必然といえます。逆に企業側がそういうエピソードを求めているために、「誇張」や「盛り」を助長させてしまっているという見方もできます。本当は入社してからの方が大事なのに、その前段で化かし合いのようなことが行われるのは、あまり好ましいこととは思えません。

企業の立場からすれば、応募者の本質を十分に見極めていくしかありませんが、一方的に「応募者の噓」を責めることはできないように思います。

 

2022年5月9日月曜日

ブラックでもホワイトでもないグレー企業

「ブラック企業」という言葉が定着してから、もうずいぶん時間が経ちます。

統一された定義はないようですが、厚生労働省がその特徴として挙げているのは

・労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す

・賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い

・このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う

といった内容です。

 

ブラック企業に対する対義語として生まれたのは、「ホワイト企業」という言葉です。

こちらも明確に定義されたものはありませんが、その特徴としては

・給与が高い

・残業が少ない

・福利厚生が充実している

・有給休暇が取得しやすい

・女性も働きやすく活躍できる

・離職率が低い

などが挙げられています。

 

世の中のすべてがホワイト企業であれば、それが一番好ましいのかもしれませんが、そうなることはたぶんあり得ません。

また、ブラック企業がなくならないのは、だまされたとか他に選択肢がなかったとか、事情はいろいろあったとしても、結局はそこで働く人がいるからです。こちらも簡単になくすのは難しいでしょう。

 

その理由として、まず一つは、実在する企業をブラック企業とホワイト企業の二つに単純に分類することはできないからです。

それぞれで挙げられた特徴のすべてに回答するような企業は決して多くはなく、例えば仕事はきつくてパワハラ的だが給料は高いとか、反対に仕事は楽で働きやすいが、業績は低くて給料が上がらないといったことがあります。

「ノルマ」も「目標」と言い換えてしまえば普通のとらえ方となり、その達成度に対する厳しさは一概に言い切れるものではありません。

 

もう一つは、ブラック企業とホワイト企業それぞれで挙げられている特徴は、その人によって感じ方の違うものが多いということです。「高い」「低い」「多い」「少ない」「充実」「活躍」「極端」「過度」などは、主観によってとらえ方が違う言葉です。労働時間や休暇の取得率には世間一般の指標があるので、それに照らして評価することはできますが、例えば休暇の取得しやすさと言われて、まったく同じ環境でも休みにくさを感じる人からそうではない人まで様々です。休みにくい人にとってはブラックでしょうし、気にしない人にとってはホワイトとなるのでしょうが、その時の業務状況などによっても様子は変わるはずです。

サービス残業についても、基本的には法律違反なのであってはならないことですが、特に中小企業では、過去からの経緯などで、社員も特に不満を持たずに納得して従っていることがあります。実質的にはブラック企業かもしれませんが、働いている人たちはあまりそうとは思っていません。

 

こうやって見ると、ほぼすべての会社は、ブラックとホワイトの中間のグレーなところに位置していることになります。大手の優良企業でもどこかにブラックな要素を持っていることがあるでしょうし、ブラックだと批判されるような企業でも、どこかにホワイトな要素を持っていたりします。

 

大半の企業はブラックとホワイトだけでは分けられないグレーな職場です。また、そのとらえ方が人によって異なるということで言えば、周囲の評判や噂だけでは、自分にとってブラックかホワイトかという判断はつきません。

転職に際して「ブラック企業の見分け方」などの情報がありますが、あくまで自分なりの基準で見極めることも必要です。

どんな企業にも、ブラックさとホワイトさが必ず共存しています。

 

 

2021年12月13日月曜日

「出退勤自由」「原則無断欠勤」の会社が意外に理にかなっていると思ったこと

今までも何度かメディアで紹介されていますが、大阪のエビ加工工場の働き方が注目されています。もともとは宮城県の石巻にあった会社ですが、東日本大震災の影響で工場と店舗が被災し、苦渋の決断で大阪に移転したそうです。

震災をきっかけに働くことと生きること自体のかかわりを考えるようになり、従業員が働きやすい職場づくりへの取り組みを始めたといいます。

 

そこでは従業員の「“好き”を尊重する」ということで、具体的な中身は、従業員が出退勤時間や欠勤は自由で、事前連絡は不要ではなく禁止という「フリースケジュール」と、定期的なアンケートを通じてやりたくない作業を表明すれば、その「嫌いな作業はしなくてよい」という制度でした。

 

一見すると、例えば「フリースケジュール」では「誰も出勤しなかったらどうするのか」など、会社が困りそうに感じてしまう制度ですが、実際に誰も出勤しなかった日は、制度導入からの4年間で1日だけだったそうで、その程度の頻度のことを気にしてルールを作る必要はないという判断をしたとのことです。事前連絡を禁止して原則無断欠勤という形にしたのは、休むことに対してどうしても気兼ねが起こってしまうので、それを避けることが理由です。

 

「嫌いな作業はしなくてよい」についても、アンケートで全員が嫌いといった作業は一つもなく、ただし“嫌い”が偏った仕事はあって、例えば体力的にきつい「工場の床掃除」といったものでしたが、これは高圧洗浄機を導入したところ、好きの回答比率が増えたそうで、そうやって現場の作業改善を少しずつ進めていったといいます。

「人にはそれぞれ好き嫌いや得手不得手があり、嫌いな仕事をしている時はモチベーションも下がって効率も落ちるので、それならば好きな作業だけに集中してもらった方がいい」との考え方ですが、これによって作業に偏りが生じるなどの不都合はなかったそうです。

 

これらの取り組みによって、人が定着して採用経費が不要になり、育成コストがかからなくなり、熟練者が増えて生産性や品質が向上したといいます。

さらに従業員たちが自ら能動的に行動するようになり、前向きな意見や提案が増えるなどの好循環が生み出されるようになりました。

 

この話は、会社としての業務特性や環境によるところもあり、どこでも真似できることではありませんが、従業員の行動が変わったという点で、私には腑に落ちたところがあります。それは働き方における多くのことを、本人たちの「自己決定」にまかせたことです。それによって各自に責任感が生まれ、全体の作業を考えた自己管理がおこなわれるようになったのです。

人を管理しようとすれば、そこには何かしらの強制が生まれ、それが積み重なると不満、他責、モチベーション低下が起こってきます。経営者や管理者の立場からすれば、相手に多くのことを委ねるのはなかなかやりにくく勇気もいることですが、会社への共感や人間関係の良さがあれば、人は進んで協力し合い、生産性や品質の向上や直接的な業績アップなどの結果にもつながっていきます。

 

会社が一方的に決めたシナリオに基づいて、従業員を管理することばかりではなく、信頼関係を築いて相手に委ねることが、結果的にお互いの幸せにつながることも多いはずです。人手不足が言われる昨今では、よけいにそう思います。

 

2021年10月18日月曜日

「テレワーク」のとらえ方いろいろとこれからのこと

最近、テレワークについての調査結果で、いくつか目についたものがありました。

 

一つは20代の転職意識や職業観の意識調査で、それによると「転職活動において、“テレワーク”の制度があると志望度が上がるか?」という設問に対して、「上がる」が50.8%、「どちらかと言えば上がる」が30.5%で、合わせると8割以上の転職希望者は「テレワーク制度で志望度が上がる」としています。

 

テレワークをしたい頻度に関する設問では、「週に3~4回」が27.1%と最多で、次が「週に1~2回」で21.8%、「毎日」が11.6%となっています。

ただ、2か月前に同じ調査をしたところでは、「毎日」が18.2%で、新しい結果より6.6ポイント多かったそうです。最新結果で変化した分は「テレワークを希望しない」が3.3ポイント増、「天候不良など不定期」が1.9ポイント増など頻度を減らす方向に希望がシフトしており、その理由としては「チームで情報共有する時間が欲しい」「直接のコミュニケーションも大切」「週1回でも出社したほうがメリハリをつけられる」「テレワークと出社の組み合わせで、対面でやり取りをする機会も確保したい」など、実際にテレワークを経験したせいもあるのか、出社して顔を合わせなければできないことがあるとの認識が増えてきているようです。

 

テレワークが可能な職種にもかかわらず、その制度がないのは許容できないが、実務上では適切な使い分けが必要で、チームで取り組む仕事やお互いの信頼関係作りは、テレワークでは難しさがあると感じている様子がわかります。「出社にこだわる上司との衝突」などの事例を耳にしますが、この結果からは、若い働き手たちがとても真面目で良識あるとらえ方をしていると感じます。

 

もう一つは来春卒業予定の学生を対象にした「テレワークと給与」に関する調査で、「“月収25万円で出社勤務”と“月収18万円でテレワーク勤務”でどちらを選ぶか?」を聞いたところ、「25万+出社」「どちらかといえば25万+出社」の合計が84.9%で、「18万+テレワーク」「どちらかといえば18万+テレワーク」の合計15.1%を大きく上回ったとのことでした。グーグルが「テレワークを継続する社員の給与を、最大25%削減する方針」と発表したことから、学生の考えを調査したとのことで、結果としては圧倒的に給与重視ということでした。

ここでのコメントとしては、「同じ仕事で給与が違うなら高い方を選びたい」「給与に差が出るのは出社のほうが重要な仕事ということで、自分の成長を考えると出社したい」「通勤がないから妥当」「給与が減るのか仕方ないが、その分副業を認めてほしい」などとありました。

 

この2つの調査は、どちらも若い世代を対象にしたものですが、意外にテレワークの本質をついているように感じます。すべての職種で毎日出社する必要はなく、かといってすべてテレワークで完結するのは、人の心理的、感情的な面を含めて難しいでしょう。

この1年半から2年の間、多くの企業でテレワークが実施され、できること、難しいこと、その影響などがかなり明らかになってきました。「生産性を下げることなくできている」という話がある一方、それが上がったという話はあまりなく、逆に「業績に悪影響が出始めた」という会社もあります。会社としては通勤費やオフィス経費は下げられたが、それ以上の大きなメリットは見つけられず、社員は通勤がなくなって可処分時間が増えるメリットはあるが、経費面、孤独感、作業効率など、細かな負担として増えたものがあります。

 

技術革新などで環境は変わっていくと思いますが、これから当面の間のテレワークは、この調査で割合の高かった意見が、その進め方の一般基準になっていくのではないでしょうか。