2018年10月8日月曜日

どの会社でもあり得る人事考課による不正への誘導


スルガ銀行が自らの不正融資問題によって、金融庁から一部業務の停止命令が出されましたが、同行を調査した第三者委員会から、利益偏重の人事評価制度が原因の一つであったという指摘がされたとの報道を目にしました。

調査報告書によれば、営業担当者の人事評価は、法令順守や顧客満足度を含む項目があったものの、営業目標の数字達成が最大で7割を占める偏った制度になっており、数値目標さえ達成すれば、評価ポイントはかなり高くなるため、その分、法令順守や顧客満足度といった項目の割合は低くなっていたとのことです。

さらに、この評価制度の最大の欠陥として、融資の返済が延滞や回収不能になっても、営業担当者の人事評価に影響しなかったことが指摘されており、融資が焦げ付いても評価が変わらないので、返済の可否を厳しく見ず、とにかく融資を1件でも多く実行しようという意識が、営業担当者に働いたと指摘しています。

また、営業部門のボーナスの平均支給率は「総じて高め」となっており、営業担当役員は、営業部門の業績貢献度の高さを理由に、配分を大きくするよう毎回強く要請していたとのことです。

第三者委員会の報告書では、「半年間というごく短期の営業成績が、人事考課全体の最大7割を占めるというのはさすがに行き過ぎなように思われる」と指摘していました。

私はこの話を聞いて、コンプライアンス意識が低い一部の企業で行われた特別のこととは思えませんでした。評価制度の中で行われたことの一つ一つは、私が今までの経験の中で、実際に目にしてきたことばかりだからです。

例えば、短期の営業成績偏重は、今から20年ほど前の、「旧成果主義」といわれるプロセスを見ない短期結果主義と同じで、その当時は成果主義をうたっていた会社のほぼすべてで行われていたことです。
評価項目自体が内向きの論理で構成され、法令や顧客満足など社外からの見られ方をはじめとしたコンプライアンス意識が薄れるのは、短期業績主義に陥っている会社の特徴です。

また、営業へのボーナス支給配分を増やす要請が常にあったとのことですが、部門トップが自部門への利益誘導を強く主張するというのは、別に特別のことではありません。
特に営業関連の部門や業績がいい部門のトップが、自部門への利益誘導を要請してくるのは、どの会社でもあることです。ただし、その要請を聞くかどうかは別の話です。

さらに、何を評価されるかで、社員たちの動き方が変わるのは当然のことです。評価項目は、会社にとって貢献度が高いと見る事項を示すことや、貢献度が高まる行動や態度、ほか業務上で好ましいことを示すという役目があります。
例えば、短期業績ばかり追いかけさせたことで、部下育成や定常的な業務をないがしろにするケースが多発した反省から、部下育成に関する評価項目を追加した会社がありました。
これに関しては、本来は望ましいとみられる行動に関連する要素が、評価項目に全く含まれていないなど、評価制度を活かしていないという、逆の意味で課題がある会社も多いです。

もしかすると、スルガ銀行の話は、自分たちにはあまり関係がないこととして見ていたかもしれませんが、このようにどの会社でもごく普通に起こり得るのは間違いがない事実です。
ただ、人の行動に影響を与える要素は人事考課だけではなく、会社を取り巻く環境、経営者の姿勢や上司の態度、その他多くのことが関わってくるので、仮に評価制度が偏っていても、他の要素で補正されていることは多々あります。
裏を返せば、そのバランスが少しだけ崩れれば、同じような問題がどの会社でも起こる可能性があるということです。

たかが人事考課と思うかもしれませんが、使い方によって、その会社の社員が仕事をする上での重要ポイントを周知し、その重要ポイントにつながる行動に向けて、社員を誘導することができます。
この銀行のケースは、確かに想定している行動への誘導を意識していますが、そこに行きすぎがあったことがわかります。

良くも悪くも、人事考課が社員の行動を変えるということは、十分に認識しておかなければなりません。


2018年10月4日木曜日

タイガーウッズ選手復活の理由に「コーチ選びの成功」があったという話


米男子プロゴルフツアーで、タイガーウッズ選手が4度の腰の手術を乗り越えて、5年ぶりの復活の優勝を果たしました。

この復活の最大の要因として、自身のコーチ選びに成功したという記事がありました。4年前に契約したコーチは全く無名の人で、一部のプロやメディアでは、その理論やノウハウに懐疑的な人たちもいたようです。

記事によれば、「低迷したゴルファーがコーチに指導を依頼すること」には、二通りのパターンがあり、一つは「何かを変えたいとき」で、自分でがんばってみたがうまくいかず、指導者に助けを求めるパターンで、もう一つは「課題をクリアするために必要なものを取り入れるため」で、自分の現状分析から進むべき道を理解し、そのために習いたいことをコーチに求めるパターンとのことです。

前者は現状分析ができていないので、コーチの人選を適切に行なえていないことが多く、「実績がある」「知り合い」「人柄がいい」など、技術的なマッチングを考えずに、依頼してしまいがちだそうです。
それに対して後者では、自分の進む方向が明確であることから、必要な技術を持った適切な指導者が選択できるのだとしています。

タイガーウッズ選手の場合はまさしく後者で、「自分の特性を生かした、体に負担をかけないスイングの確立」というビジョンのもとで選んだコーチが大きな役割を果たしました。
コーチの指導力以上に、選手側の人材登用のスキルが鍵だとされていました。

この現状分析とそれにあった人材登用というのは、私もいろいろ思うことがあります。
例えば、私たちのようなコンサルタントには、著名で実績豊富な人が数々います。ただ、その人に頼めばすべて確実にうまくいくかというと、決してそうではありません。その会社の様々な状況や課題の内容によって結果は違いますし、コンサルタントが持つ経験やノウハウと、その落とし込み方など、性格だけではない相性があります。

世間で評判がいいシステムを入れたのに、仕事の効率がなかなか上がらない会社や、他社で成功した仕組みや制度を取り入れたのに、必ずしも良い形にならない会社は、私も今まで数多く見てきました。だいたいがオーバースペックであったり、ブランドに目がくらんでいたり、自社の特徴や事業内容からずれていたりします。

そんな中でこのコーチ選びの話を当てはめると、うまくいっている会社は確かに現状分析が的確で、ブランドばかりに左右されず、自社に合った制度や仕組みを選択します。コンサルタントのアドバイスにも、まずは素直に取り組んで、その後の相談も多いです。

これに対してうまくいかない会社を見ていると、どこかの本で読んだり、人から聞きかじってきた流行りの制度を導入したり、ブランドや過去実績といったものに流されがちです。コンサルタントのアドバイスも、自分たちの意見で是々非々で取り組むと言えば聞こえは良いですが、その選択に一貫性が感じられないことが多々あります。「やるべきこと」というよりは「やりやすいこと」であったり、「自分のツボにはまったこと」であったりします。要は現状分析ができておらず、進むべき方向が見えていないということになるのでしょう。

タイガーウッズ選手のようなトップクラスの人は、現状と進むべき方向の見極めが明確だということと、そんなトップクラスの人でも、スランプに陥ると、それができなくなってしまう場合もあるのだということ、さらに自分を客観視することがいかに大事かということを、この話から思っているところです。


2018年10月1日月曜日

「管理職になりたくない」の気持ちは変えられるものか


厚生労働省が発表した2018年版「労働経済の分析(労働経済白書)」の中で、役職に就いていない社員に昇進への考えを調べたところ、「管理職以上に昇進したいとは思わない」が61・1%に上り、「管理職以上に昇進したい」は38・9%にとどまっていたとの報道がありました。

昇進を望まない理由としては、「責任が重くなる」が71・3%で最も多く、「業務量が増え、長時間労働になる」が65・8%、「現在の職務内容で働き続けたい」と「部下を管理・指導できる自信がない」が57・7%と続いています。

このところ発表されている他の調査結果を見ても、ほぼ同じような傾向で、特に女性のほうが「普通に働きたい」「家族との時間が大事」と考える割合が高く、将来の管理職が期待される「総合職」ではなく、あえて「一般職」を選ぶ人が増えているとの話もあります。
「2020年までに女性管理職比率を3割に」という目標がありますが、当事者の心理はこれに逆行しています。

結局「管理職は大変そうなわりにメリットが少ない」と思われている訳で、特に女性管理職の場合、仕事とプライベートのバランスが取れたモデル事例が意外に少なく、「バリキャリでないと務まらない」という感じに見えるのではないでしょうか。

私が実際にいろいろな会社の現場を見ていて感じることですが、「楽しそうに仕事をしている管理職」「やりがいを感じていそうな管理職」に出会うことは少ないです。労働時間が長く、仕事量が多く、上司と部下の間に挟まり、みんな何となく疲れた顔をしています。「そもそも仕事なんて楽しい訳がない」という人もいますが、それにしてももう少し前向きな様子があっても良さそうなのにと思うことがあります。
部下たちはそんな管理職に同情的ですし、協力的でもありますが、その姿を見ていて同じ立場になりたいとはなかなか思えないでしょう。

こんな状況を変えられる方法があるのかを、少し考えてみました。
一番良いのは、「管理職がみんなやりがいを持って楽しく働いている姿を見せる」ということでしょうが、それはあまり現実的ではありません。

まず、ある調査にこんなデータがありました。
上司などに説得されて、「やむなく管理職になった人」は、男性で23%、女性で32%という一方、リーダーになった後に、「リーダーになってよかったと思う人」は、男性で67%、女性で74%だったといいます。
リーダーになれば、仕事に関する自分の裁量は増えますから、実際になってみると「意外に悪くない」と感じているようです。ここからすれば、「試しにやらせてみる」「拒否しても良い条件で経験させてみる」というのは一つの方法になるでしょう。

もう一つは組織の形の問題です。
最近の若い世代は、お互いの関係があまり階層化されていない、フラットな集団の中で過ごしてきています。良くも悪くも合議制で、できるだけみんなの合意のもとに物事を進めようとします。
リーダー的な人はいますが、一人で前面に立つというよりは、みんなの意見のまとめ役であったり、調整役であったりします。例えば、サッカーの試合でのゲームキャプテンのような、選手の役割をこなしつつ、その試合の中でチームの中心的存在でいるような人で、それは精神面も技術面も両方あります。上下に挟まれるとか、負担を一手に引き受けるような存在ではありません。

このような自分たちが経験してきたリーダー像と合致する管理職であれば、少なくとも「自信がない」という部分は軽減できるでしょう。
最近は、組織の階層や指示命令を排除した組織運営をおこなう会社が出てきていますから、こういう考え方を取り入れることも方法の一つでしょう。

私自身も、今の各企業の管理職全般の仕事ぶりを見ていて、それをやりたいかと言えばあまり気が進みません。負担の割には権限がなかったり、一方的に責任を負わせる丸投げが多かったりするからです。

私の周りには、中小企業の経営者や役員、自営業者や個人事業主といった人が大勢いますが、この人たちのほとんどは、仕事を介した夢や希望、やりたいことを明確に語ります。苦労がある半面、うらやましいことも真似したいこともたくさんあります。

企業の中の管理職も、部下にとってそんな存在になることが一番ですが、今の環境のままでは、ちょっと難しいのかもしれません。