2017年6月28日水曜日

「社員の定着」で“やるべきこと”と“割り切ること”



日本生産性本部がおこなった「2017年度新入社員春の意識調査」で、「あなたは一つの会社に、最低でもどのくらい勤めるべきだと思いますか?」という設問に対し、「それなりの理由があれば期間は関係ない」という回答が23.8%となり、「2~3年」と答えた32.7%に次ぐ数字になっているそうです。

この「期間は関係ない」との回答は、前年比で6.3%増えており、「最低3年は辛抱」などと言われていたことが、昨年あたりからの売り手市場を背景に、意識が変化してきているということです。
相当苦労して確保した新入社員ですが、その定着には工夫が求められそうだと言われています。

もう一つ、これはソニー生命がおこなった「社会人1年目と2年目の意識調査2017」からですが、「最初に就職した会社でどのくらいの間働いていたいと思うか」という設問に対し、社会人1年目では「定年まで働きたい」との回答が33.0%と3人に1人だったのに対し、社会人2年目ではこの回答が17.4%と半減し、代わりに「既に辞めたい」との回答が24.8%と1年目の3倍近くに増え、4人に1人がそう思っているという結果になっていました。

「定年まで」と言っていた人がそのまま「既に辞めたい」に入れ替わった訳ではありませんが、実際に働いた1年間で、就職前に抱いていたイメージとのミスマッチから、辞めたいと思うようになる人がこれほど多いということです。
入社前に良い話、希望のある話、前向きな話ばかりをしているということで、仕事の厳しさや大変さ、自社の実態や課題などをしっかり伝えていないことの証明と言えるでしょう。

社員の定着というのは、多くの会社で課題になっていて、私もアドバイスを求められることが多いテーマです。ただ、一筋縄でいかないのは間違いないことで、細かなことの積み重ね、個別対応といった取り組みにならざるを得ません。

特に新入社員は先行投資の要素が強いので、一定期間以上の定着が大きな課題となります。多くの会社がいろいろな取り組みをしていますが、早期退職の大きな理由がこの入社前後の認識ギャップということを考えると、入社後に対策することよりは、事前にお互いのギャップを埋めることに力を注ぐべきだと思います。結婚してから隠し事やウソが発覚すれば、それが離婚につながってしまうのは当たり前のことでしょう。
新入社員が定着するために会社がやるべきことは、「入社前後での認識ギャップを減らすこと」に尽きると思います。

その一方、私はある程度割り切らなければならないことがあると思っています。
まず、認識ギャップを減らすと言っても、しょせんはどこかに限度があります。会社を辞めると世間から白い目でいられるとか、何か自分にとってのデメリットがあるとか、そんな歯止めでもない限り、本人が決心してしまえばそれを止めることはできません。退職引き留めを強くおこなう会社がありますが、それは本人との関係を悪くするだけです。一度辞めると決心した人のことは、もうあきらめるしかありません。

もう一つ、これは認識ギャップというよりは、人材との相性ギャップと言ってよいと思いますが、自社の風土や仕事の進め方、既存社員のタイプなどには必ずしも合わない人材を、「優秀だ」「今の会社にいないタイプだ」などといい、悪い理由では「人数合わせ」などで採用しているということです。

例えば、求める人材像として最近よく言われる中に、「自律人材」というものがあります。
自分で考え、判断して、積極的に行動できる人ということですが、もし新入社員がそういう行動を取ったとしたら、困る会社がたぶんほとんどでしょう。
そもそも、本当の意味での「自律人材」は、組織に依存しないで物事を自力で解決しようとするでしょうし、雇われること自体もあまり好まないかもしれません。もともと定着しにくい人材をつなぎ留められるほどの何かが会社になければ、いずれ辞めていくのは仕方がないことです。

また、「今の会社にいないタイプ」は、その人から見れば「自分と気が合う人は会社にはいない」ということになります。野球チームに1人だけサッカー選手を入れるのと同じで、本人は場違いな感じで面白くないでしょうし、本来は会社だって活かしようがないはずです。
しかし、こんな当然と思える話も、「会社の雰囲気を変えたい」などと言ってやってしまう会社は、意外にたくさんあります。

社員定着に向けた取り組みは必要ですが、一方で割り切らなければならないこともあります。
やるべきことは「お互いの認識ギャップを埋める努力」であり、割り切るべきことは「お互いに埋められない溝を知る」だと思います。

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