2019年2月21日木曜日

企業より一層難しいかもしれない官庁での「360度評価」


少し前の話題で、決裁文書の改ざん問題や事務方トップのセクハラ問題などを受けて、財務省が検討していた不祥事防止策の中間報告が出され、その中に上司だけでなく部下からも人事評価を受ける「360度評価」の導入などが盛り込まれたという話がありました。職員からの意見を聞いた上で最終報告をまとめるとのことでした。

「360度評価」は評価基準などの詳細を決めて、課長以上の管理職を対象に実施する予定とのことで、ほかにも、若手職員が幹部職員に仕事の相談ができる「よろず相談員制度」の創設や、内部通報制度の整備なども盛り込まれているそうです。
関係者のコメントを見ていると、「部下の目が上司へのけん制になる緊張感がハラスメントをなくす一助になり得る」「不祥事の防止だけでなく、省内の風通しも良くなる」などとあり、それなりに期待している様子がうかがえました。

「360度評価」は、ある調査では2割の企業が導入済みと回答し、さらに5000人を超える企業の6割が導入していると回答しており、大企業を中心に活用しています。
ただ、私が現場の状況を見ている中でも、うまく運用するのはなかなか難しく、ネガティブな評価で上司のストレスを高めているばかりになっていたり、ただ点数が出てくるだけで何も具体的に活用できていなかったりということが見受けられます。

上手く使っている会社は、部下からの意見や指摘が上司の気づきや自覚につながって、行動変革を促すことができていますが、うまくいっていない会社では、逆に上司が委縮していたり、部下指導が甘くなっていたり、事なかれ主義に陥っていたりすることもあり、制度を導入すれば「風通しが良くなる」などという簡単なものではありません。

あくまで私の見解ですが、「360度評価」をうまく活用するためには、上司部下ともに相応の良識があり、それに基づいた話し合いができる風土がベースにある組織でなければ難しいと見ています。
上意下達の組織、情報格差で支配するような情報共有ができていない組織、隠蔽体質を持った組織、上に物が言いづらい組織では、「360度評価」のデメリットばかりが目につく感じがしています。

つまり、お互いがある程度フランクに話し合える風土がある上で、さらに「360度評価」という形で、部下が上司に対して指摘や意見を言える場を作って上司の自覚や気づきを促して、自ら行動変容するきっかけにしようというものなのです。
「上に物が言えないのを言えるようにする」「風通しを良くする」「上司の行動をけん制する」といったことは、私は「360度評価」によって実現するものでなく、どちらかといえば制度導入の前提として、環境を整える部分だと思っています。

ちなみに、同じ官庁でも金融庁はすでに多くの管理職で「360度評価」を採り入れていそうですが、その目的は「評価のためではなく、自己評価と部下評価のギャップを教えて、本人に“気づき”を与えること」と言っています。私はまさに「360度評価」の本来の使い方だと思います。

制度の詳細はこれからさらに詰めていくようですが、財務省の場合は「軍隊的」と言われるほど、上意下達が強い組織風土だと言われています。「360度評価」は決してその解決策にはならず、その制度導入のための環境作りがより一層重要になります。
組織が良い方向に変わってほしいと思う反面、強固な官僚組織がそう簡単に変わる訳がないとも思ってしまいます。今しばらく様子は見続けていようと思います。


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