2019年10月28日月曜日

採用活動で「人数」を目標にすることでの不都合


東京都が公費で行っている中小企業の就職説明会で、事業を請け負った企業が学生に金銭を提供して、いわゆるサクラとして参加を依頼していたとの報道がありました。
4回分の就職説明会での集客支援で、大学生3人を取りまとめ役にして、数千~1万円の報酬でサクラを勧誘していたとのことで、不人気業界を対象にしたイベントだったため、集客が難しいと判断してのことだったようです。
発注元の財団は、委託料の一部を支給しないことを決めたとのことです。

私は以前、公的な就職説明会で主催する側にかかわったことがありますが、今回の件は完全なルール違反で全面的に悪いことだと思う一方、こういうことが起こっても不思議でないとも思っています。
この手のイベントを受託する際にコミットしなければならないこととして、ほとんどの場合で「人数」が設定されるからです。そのイベントの主旨によって、それが「参加人数」であったり、「応募人数」であったり、「内定人数」であったりします。

今回の場合は「集客できないと格好がつかないから」などと言っていますが、たぶん一定以上の「参加人数」の縛りはあったのではないでしょうか。さらに、不人気とされる業界団体の加入企業の説明会だったようですが、参画企業のバリエーションが限られ、さらに知名度が低いとなると、最悪は誰も参加者がいないような事態も考えられます。
許される方法ではありませんが、そういう危機感から始まったことだったのでしょう。

すごく建前的な話になりますが、人材採用で大事なのは「人数」の場合もありますが、本来は人材の「質」の方が、その重要度は高いはずです。ただ、こういったイベントの場合、それぞれの参加企業によって「質」のとらえ方は違うので、そこにコミットすることはほぼできません。
「人数」が目標となり、その質が問われないとなれば、サクラでもなんでも動員すれば良しとしてしまうことはあり得るでしょう。

ある会社では、社内の「採用活動」の中で、これと同じようなことが起こっているのを目にしたことがあります。
よく「質重視」や「厳選採用」などと言いますが、会社が掲げる表向きの目標のほとんどは「採用人数」です。
その会社の新任人事課長は、とにかくその年の採用人数の目標を達成しようと、多少難があると評価された応募者でも、選考を進めて現場のマネージャーや役員に採用をプッシュしていました。その頃は会社も拡大基調で、人数確保を強く言われていたという事情もありました。

人事部門の選考を通過したと言われ、そこに前向きなコメントがついてくると、その後に対応する面接官の見方はどうしても甘くなってしまいますが、その結果として、高い目標だといわれていたその年の採用人数は確保され、新任人事課長は高い評価を受けて昇進し、別の部署へ異動することとなりました。
しかし、その後に起こったことは誰でも想像できる通り、様々な要素のミスマッチによる退職者の増加で、2年後にはその時期に入社した新卒、中途ともに、半数以上が辞めてしまいました。短期間での人数確保にこだわったことによる典型的な失敗例と言えるでしょう。

採用活動での「人数」の目標は必要ですが、そればかりにこだわることでの不都合があります。大きいのは「質」の低下です。
一方で「質」にこだわりすぎると「人数」の確保が難しくなります。両立可能なバランスをよく考える必要があります。


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