2019年12月23日月曜日

「記述式入試見送り」の話で気になった「エントリーシート」のこと


2020年度の大学入学共通テストで、導入予定だった国語と数学の記述式問題について、実施を見送って導入の有無を含めて再検討することになったという話題がありました。

採点は委託を受けた民間会社が、約8千~1万人ほどの学生などを集めておこなう計画でしたが、質の高い採点者を確保できない恐れがあること、採点者による採点のブレやミスが避けきれないこと、出願先を決める際に必要な自己採点と実際の採点との不一致が多発する懸念があることから、「安心して受験できる体制を整えることが現時点では困難」とのことでした。

昨今は思考力や判断力、表現力の学力低下が指摘されていて、これらを試す狙いでの導入はわからなくはありません。しかし、50万人以上が受験して、その人生にかかわるようなテストにもかかわらず、話を聞けば聞くほど、制度設計や実施方法に見切り発車やずさんなところが見えて、よくこのまま実施しようと考えていたものだとあきれてしまいます。

記述式テストの採点は、どんなに細かい基準を作っても、正解不正解を白黒はっきりつけるのが難しいことは必ず出てきます。採点者によって判断の違いが出るのは当然で、それを抑える対策がないようでは、見送りの判断も当然でしょう。

この話をきっかけに考えたのは、企業の新卒採用で使われる「エントリーシート」のことです。今は多くの企業で提出を求められますが、書くことにはかなり時間がかかる「記述式」なのに、それだけの意味があるのだろうかということです。

「エントリーシート」の扱いというのは、会社によって本当に千差万別です。面接前の書類選考と面接時の資料として使う会社が多いですが、はっきり言って、中身はほとんど読んでいないという会社がたくさんあります。目的は応募者を絞り込む「足切り」のためで、見ているのは誤字脱字、文字数、おかしな日本語表現だけというところもありました。

もちろん企業の人事担当は、エントリーシートの中身を熟読して、きちんと選考した方が良いのはわかっていますが、応募者が多い企業では担当者がそれだけの時間を取れません。
最近はAI採点を利用する企業も出始め、一応表向きには「必ず人の目も介している」と言っていますが、何をどこまでやっているかははっきりとはわかりません。

私が採用担当をしていたとき、「エントリーシート」は面接で質問する際の資料にしていて、よほどの手抜きでもない限りは、それだけで不合格にすることはありませんでした。
その応募学生のことを、できるだけ深く知りたいと考えれば、「エントリーシート」はあった方が良いですが、もし書類選考するだけが目的なら、学校の成績や適性検査の結果などで判断できることなので、エントリーシートにいろいろ書かせるのは不要です。提出を求めることもしなかったでしょう。

今回の「記述式テスト」の話と、「エントリーシート」の話が似ていると思ったのは、本来の目的と実際にやらせていることが、かけ離れてしまっていることです。
「記述式テスト」の導入は、思考力や判断力、表現力の向上が狙いで、入試に取り入れればみんなが取り組むようになるという話だと思いますが、一方で入学試験の本来の目的は、「学生の学力を見極める選抜」です。目的が入れ替わってしまったことで、入試で最も重要なはずの「採点基準」があいまいになってしまいました。

「エントリーシート」も同じで、応募者の理解を深める目的が、書類選考をする目的に入れ替わってしまっている会社があります。ただ書類選考だけが目的ならば、「エントリーシート」は別に必要ありません。また、あれほど手間がかかるものを書かせておいて、「忙しくて読む時間がない」では、書いてくれた人に対してあまりにも失礼です。
「エントリーシート」を丁寧に扱って活用する会社がある一方、その内容に見合った目的を見失っている会社があります。

何事でも、本来の目的を間違うと、多くの無駄や理不尽が起こることが、あらためてわかります。


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