2020年2月6日木曜日

「内定辞退」でなぜそんなに謝らなければならないのか


法律関連で有名な出版社が発売した「内定辞退セット」が、就活生の間で売れているそうです。
内定辞退の方法とマナーを解説したウェブ動画と、例文に便箋を重ねてなぞると内定辞退の手紙が書けるキットがセットになったもので、初版5000部が完売したそうです。

発売元は「売り手市場で複数内定を得る求職者が増える中で、内定辞退したいが“どうすればよいか分からない”“言い出しにくい”などという人が増えており、対面コミュニケーションを苦手とする人の役に立ってほしい」と説明しています。

反響としては賛否両論があり、「効率的で良い」「企業も定型の不採用通知を送っているのだから問題ない」という好意的な意見と、「自分の言葉で書くべき」「気持ちが伝わらない」などの否定意見があり、前者の方が多く見受けられたそうです。

私も採用担当を経験しましたが、その立場からすれば「内定辞退」は結構ショックな大問題です。
ただ、採用と就職はお互いの合意があってこそ成り立つものであり、そうならないことがあるのは当たり前のことです。こちらから辞退理由は聞きますが、本当のことを答えてくれているかはわかりませんし、答える義務もありませんから、あとは想像して、自分たちの直せるところは直して、その後の活動を続けていくしかありません。
別に恨むものでもないし、お互いに良い印象のままで再会できる機会でもあればよいと思います。

ただ、いろいろ話を聞いていると、どうもそういう会社ばかりではありません。
本当にあったことかはわかりませんが、辞退者を呼び出して、喫茶店で飲み物を相手にぶちまけてクリーニング代をたたきつけるといった話を聞いたことがあります。
そこまでひどくはなくても、いつまでも辞退を受け入れずにしつこく説得し続ける話があったり、辞退の際の行動に対して「直接挨拶に来るべき」「メールや電話でなく手紙が当然」など、マナーのことで苦情を言う担当者がいたりしました。

こういう話を聞いて思うのは、そもそも内定辞退はそんなに一生懸命に謝らなければならないことなのかという疑問です。
ドライに言えば、労働契約の単なる不成立であり、お互いが合意できなかっただけのことです。

これをしつこく説得するような会社がありますが、説得して翻意する程度の決断で言ってくることはありませんから、それをすること自体が嫌がらせのようなものです。

辞退のマナーについても、私の経験で言えば、電話連絡の人も、手紙をくれた人も、直接謝りに来た人も、何もなく音信不通の人も、いろいろいましたが、何がいいとか悪いとか、そういうものはありませんでした。
実際に、わざわざ訪問されても「頑張ってね」くらいしか話すことはないですし、できれば早めに結論を知らせてほしいという以外は、特に必要と思うマナーもありません。
たぶん、その程度の気持ちの会社が多いのではないでしょうか。

ただ、「直接謝りに来るべき」という会社は確実に存在しています。
私が知る中でも、いくつか該当する会社がありますが、それらに共通していたのは、「サイレントお祈り」といわれる結果非通知のようなことを、当たり前のようにしていたことです。応募者のことをどこか見下しているような態度が、そこかしこに見えるのです。そういう会社に限って、相手に一方的な要求をすることが多いです。

私は「内定辞退」の連絡は必要だと思いますが、謝罪はまったく不要だと思います。採用、就活の場面では、応募者と企業はイーブンな関係だと思うからです。
そういう相手に一方的に謝罪を求めたり、謝罪の形まで決めて要求したりする会社は、あまりにも傲慢です。

こういう価値観の会社は、これからの採用難の時代で、最初に淘汰されてしまうのではないかと心配です。


0 件のコメント:

コメントを投稿