2016年6月10日金曜日

「提案がない」には聞く側の問題もある



「そもそもうちの社員たちは、自分から提案なんてしてこないよ」とある会社の社長がおっしゃいます。
社内に人事施策上の課題があり、どう解決していくかを考えている中で、社員から提案できる仕組みや、部門横断の改善プロジェクトなど、社員が当事者意識を持てる取り組みが必要だという話が出て来た時のことです。

ちなみにこの会社では、今までも目安箱のような提案事項を集める制度や、課題改善を検討する社員チームを作ったことがあるそうですが、どれもうまくいかなかったのでやめてしまったそうです。
うまくいかなかった状況を社長にたずねると、「提案してくるレベルがあまりにも低かった」とのことです。

目安箱に入るのは、「○○制度を導入してほしい」「○○が欲しい」など、物を買う、設備を入れる、労働条件を改善するといった自分たちの利害主張ばかりなので、「もっと建設的な内容を!」と言ったところ、今度は提案自体がまったくなくなってしまったそうです。

また、社員主導の改善プロジェクトも、一度提案書が出てきたものの、あまりにも実態がわかっていないので再考を指示しましたが、結局時間切れでうやむやに終わってしまったそうです。
ただ、社員の間では「社長が納得しなかった」「社長に提案がつぶされた」と見られている様子があるようで、好ましくないと考えてそれ以降はやっていないそうです。

社長から見れば、社員が「会社の状況をわかっていない」「効果的、現実的な提案ができない」ということが問題ですが、社員からは「提案してもどうせ取り上げられない」「何か言ってもケチをつけられるだけ」と見られていることが想像されます。
このような話は、実はかなり多くの会社で起こっていることです。現場の意見を吸い上げよう、より効果的な取り組みを実施しようと考えたボトムアップの制度が、思ったように機能せずに結局はやめてしまったというようなことです。

ここにはもちろん、「現実的な提案ができない」といった、会社の立場から見た社員側の問題はありますが、これと同じくらい会社側の聞く姿勢に関する問題もあります。

実際にこの会社での社員による改善プロジェクトの中で、社長はどのようなコミュニケーションをとっていたのかを聞くと、キックオフ時にリーダーだけにプロジェクトの主旨を話したことと、途中で一度だけ意見を求められて、そこで話をした以外は、最終提案まで具体的な中身はほとんど知らなかったそうです。

目安箱の提案制度も、初めは1件も出てこない状況が続いたため、社員に提出ノルマを決めて指示ししたところ、今度はレベルの低い提案が続出したため、あらためて「もっと建設的な内容を!」と言い、その後尻つぼみになってしまったそうです。

ボトムアップの仕組みを活性化するためには、やはり結果が必要です。「社員からの提案が認められた」という実績です。
内容がピント外れであったとしても、それを門前払いで認めないことを続けていては、いつの間にか提案自体がなくなります。心理学で「学習性無力感」と呼ばれる状態です。

これを避けるためには、会社として受け入れ可能な提案になるように、会社側からもコミュニケーションをとることです。強制や命令は禁物ですが、出てきた提案に対して質問をし、意見を言い、その答えを社員自身に考えさせるというプロセスをたどることで、「会社として望ましい提案」が「社員が考えた提案」となって出てきます。そうなれば、「社員からの提案が認められた」という実績につながります。

「社員からの提案がない」との言い分には、それを聞く側である会社にも問題があるはずです。 


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