2020年7月20日月曜日

「変わるもの」と「変わらないもの」


地元でお世話になっていた理髪店が閉店することになりました。店主ご夫婦も高齢なので、いよいよ引退ということです。私が幼少の頃から、もう50年を超えるお付き合いになるので、私の人生最長の「行きつけのお店」でしょう。

お店がなくなってしまうのは寂しいですが、これを機に新しい出会いもあるだろうと気持ちを切り替えています。自分の意志ではたぶん変えようと思わなかったことですが、環境変化や時間の流れの中で「変わるもの」はありますし、その変化が結果的に良いこともたくさんあります。特に年齢や体力に伴う変化は、人間であれば全員に等しく降ってくるものです。
「変わるもの」を前向きに受け入れて順応していくこと、さらにその変化を今まで以上のプラスに変えていくことは、これからの時代ではとても大事な能力ではないかと思います。

その一方、どんなに技術が進歩しても、時代が変わっても、普遍的に「変わらないもの」も確実にあります。今回の新型コロナ禍では、これからどんどん「変わるもの」と、「変わらないもの」がそれぞれはっきり見えてきたように思います。

特に仕事のしかた、働き方は大きく変わり、これからも変わっていくといわれていますが、私が感じているのは、その根底の人間の気持ちには、以前から「変わらないもの」がずいぶんあることです。
例えば、「定時に一斉に出社して働く」という常識は変わりましたが、通勤が大変、満員電車が嫌という気持ち自体は、決して今に始まったことではありません。多くの人が昔から思っていたことです。
今までは「みんなも我慢している」「他に方法がない」「それが仕事だから」「仕方ないこと」と、あきらめていただけで、実はもともと持っていた気持ちは変わっていません。ずっと変わらずに思っていたことが、今ようやく実現してきたのです。

企業の人事マネジメントの世界では、同じような話が数多くあり、従来の考え方とは異なる新しい取り組みがたくさん出てきています。
例えば、
・上司と部下で一対一の面談を頻繁に行ってコミュニケーションを強化して、個人のパフォーマンスを上げようとする「1on1ミーティング」
・序列付けの評価を廃止する「ノーレイティング」
・社員同士が互いの評価や感謝とともに少額の報酬を送り合う「ピアボーナス」
・上下関係の階層構造の管理体制が存在しない「ホラクラシー組織」
といったものがありますが、それぞれは従来の管理手法から一歩進んだ方法として紹介されるものの、人間の根底に流れる気持ちを考えたとき、もともと持っていた心理は、それほど変わっていないことに気づきます。

これらの取り組みとつながっている「自分の話を親身に聞いてもらいたい」「話を聞いてもらえるとうれしい」「他人から認められたり感謝されたりすればうれしい」「他人と比較されて優劣だけを言われるとやる気を失う」「他人からの一方的な指示命令では納得できない」「自分のことは自分で決めたい」などの気持ちは、多少の個人差や世代間格差はあるにしろ、昔から変わらず誰にでも共通的にあるものです。

今まではこれらを、「わがままは言えない」「輪を乱せない」「仕方がない」「従うしかない」などと言って、置かれた環境に社員が一方的に順応してきました。
しかし、実はそれでは社員のパフォーマンス発揮を阻害することが徐々に判明してきて、もともと社員が潜在的に持っている気持ちに寄り添った取り組みが、活発になってきているのが今の状態です。
人の心理の「変わらないもの」にあらためて注目して、それに対応する方法として「変わるもの」を考えているのです。

こういった新たな取り組みを、「甘やかしすぎ」「手間をかけすぎ」と言って否定する人がいますが、それは「変わらないもの」を無視していて、結果的に「変わるもの」も拒んでいることになります。
反対に変革、改革など「変わるもの」を強調しながら、それがなかなか進まないのは、根底にある「変わらないもの」への注目や配慮が足りていない可能性があります。「変わらないもの」を壊そうとしても、時間と労力が失われていくだけです。
また、「変わるもの」のような変化を嫌がって、その理由に「変わらないもの」を都合よく利用することもあります。

これからは、「変わるもの」と「変わらないもの」のどちらも否定せず、それぞれの様子を理解した取り組みが大事です。
「変わらないもの」には多くの原理原則が含まれています。それを踏まえて初めて変わることができるのです。

0 件のコメント:

コメントを投稿