2023年1月23日月曜日

「見ていること」を伝える意味

 心理学用語に、他者からの期待を受けることでその期待に沿った成果を出すことができるという「ピグマリオン効果」というものがあります。

これと似たものには「ホーソン効果」というものがあり、こちらは、労働条件や経済的な条件よりも、「注目されている」という意識が生産性を向上させるという実験結果から実証されたものです。

この違いは、他者からの「期待」だけに限らず、「注目されている」「関心を持たれている」という意識が動機づけにつながっている点です。

 

ピグマリオン効果とは反対のものとして、「ゴーレム効果」というものがあるそうです。こちらは相手に対して期待できない、見込みがないと思っていると、本当にその通りの悪い結果になってしまうとのことです。

いずれにしても、他人からの目があるかないか、どのように見られているかという視線が、人の動機づけに大きく影響するというものです。

 

これを実感したことは、期待する側とされる側の両方において、多くの人が何かしら経験したことがあるのではないでしょうか。その場面は子育て、団体行動、チームスポーツなど、様々だと思います。会社組織やチームの中でも、もちろんあったことでしょう。

 

マネジメントにおいて、期待を持った目で「見ているよ」と相手に伝えることは、様々な面で良い効果をもたらしますが、ともすればそのことをあえて伝えないままでいるケースを見かけることがあります。お互いが長い付き合いでつながっているときや、いちいち言わなくてもわかっているだろうという意識が働くような関係のときです。

特に日本では文化の共有性が高いハイコンテクストな環境にあるため、「空気を読む」など非言語の共通認識などに頼って、言葉による説明が少ない傾向があります。最近は様々な面で多様化が進み、ずいぶん変わってきてはいますが、期待しているのにそれを口に出さない、評価しているのに褒めないといった様子を見かけることがまだまだあります。また、世代や価値観の違いに遠慮があるのか、どう伝えてよいのかわからない、だからあえて伝えていないといったこともあるようです。

 

つい最近ある会社で聞いたことですが、寡黙で淡々と仕事をするタイプで、ちょっとした雑談などで話しかけてもあまり乗ってこない若手社員がいるそうですが、ある日その社員の机の上に、あまり見慣れない専門書が置いてあるのを見つけたそうです。

あえて触れない方が良いのかもしれないと思いつつも、思い切ってそのことを本人に聞いてみると、実は自分なりに知識不足を感じていることがあり、ちょっと難易度は高いながらも、自分なりに勉強してみようと思い立ったのだそうです。

本人がその話をする口調はいつものように淡々としていたそうですが、表情がいつもと違ってうれしそうに見えたそうです。自分の影の努力に気づいてくれた、見ていてくれたということから、期待を感じたうれしさだったのではないでしょうか。

 

これとは違って、「見ている」と伝えることで、不正やさぼり、ルーズな行動を抑制するという効果もあります。例えば盲判(めくらばん)など、中身を見ずに承認してしまっていることが相手にわかってしまうと、手続きが形骸化してチェックの意味をなさなくなってしまいます。

これを数回に一度であっても、本人に確認の問合せを行ったりすると、相手に「見ている」ということが伝わって、ルーズな運用を防ぐことができます。「監視」というニュアンスになってしまうかもしれませんが、「見ていること」が伝われば無用なトラブルがなくなります。

 

人間が行動を変える際の大きな要素の一つが、誰かが自分を「見ていること」です。それを相手に伝えるのは大事なことだと思います。

 

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