2013年6月25日火曜日

アンケート記名を嫌がる研修受講者


少し前の話ですが、ある企業で若手社員向け研修を行ったときのことです。
一人の方に何度か受講してもらう内容のものだったので、同じ受講者と何度か顔を合わせます。多くの研修と同じく、私も毎回の終了時には受講された方々にアンケートを書いて頂きますが、ある受講者がそのアンケートに自分の名前を書くことをやたらと嫌がるのです。

初回は無記名で、なぜアンケートに名前を書かなければならないのかという苦情がつらつらと書いてあります。ただ、私から見ると、他の方はみんな記名されているので、結局誰かはわかってしまいます。
2回目はアンケート記入の時に、私の方から「会社の上司などに提供するわけではないので、おかしな被害が及ぶ懸念はないこと」「そうは言っても記名がない意見では責任ある意見にならないし、検証のしようがないので記名が必要であること」などを説明したところ、しぶしぶ名字だけ書いてありましたが、中身の記述はあまりありませんでした。
3回目には、やっぱり逆戻りで無記名のまま、この活動に意味があるのかなどという否定的な意見が書いてありました。

最近はネットなどで匿名性を利用して、暴言に近い内容や他人の中傷めいた書き込みをしたりする話をよく聞きます。そういう人に限って、実際には寡黙でおとなしい人だったなどということも聞きます。記名を嫌がるこの方とは、その後ヒアリングなどでお話をうかがう機会もあり、それなりに能力もあってしっかりした方でしたが、会社に対する不満が強かったようでした。

もしかするとこの方は、自分が意見を述べることで何か中傷があったり、実害があったりしたのかもしれません。会社の対応にも何か問題があったのかもしれません。ただ、だからといって名前を伏せて発言すれば解決するという問題ではありません。
意見を言う側は、建設的に、攻撃的過ぎず、相手の納得が得られるように伝える努力が必要だし、意見を聞く側は、受け入れるべきものは謙虚に受け入れ、そうでないものは毅然とした態度で、やはり相手の納得が得られるように対応する、ということが大切です。

もちろん、被害者と加害者がはっきりしている場合や、片方に何らかの被害が及ぶ恐れがある場合などは話が別ですが、そうではない組織内での一般的なやりとりの中で、匿名のままで意見を言い合うということは、基本的にはあり得ません。
匿名にしたいということには、反論されるのが怖い、相手の反応が予測できない、思っていることを表現できないなど、いろいろな理由があるのかもしれませんが、結局はうまくコミュニケーションが取れないからということだと思います。

「コミュニケーション能力の低下」などと言われますが、現象として実はこんな形でも出てきているのかもしれないなどと感じた体験でした。


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