2015年11月25日水曜日

「最低賃金1000円を目指す」が逆効果になるのではという心配



政府の経済財政諮問会議で、安倍首相は最低賃金について、「年率3%程度をめどに引き上げ、全国加重平均が1000円になることを目指す」と述べ、企業が賃上げを実現できる環境整備を関係省庁に指示したという報道を見ました。

アベノミクス効果で、大企業の一部では好業績のところがありますが、それがなかなか全体に波及しないということや、業績が良い企業でもその利益の多くが内部留保に回り、投資や賃金額に反映してこないことに政府がしびれを切らしたようにも見えますが、ある程度の強制がなければ物事が動かないことは確かなので、これも一つの方法ではあると思います。

ただ、私が関わる機会が多い中堅中小の企業では、この施策がかえって逆効果を生まないかを懸念しています。というのも、中堅中小企業の経営者と話していて感じるのは、投資の部分については確かに慎重になりすぎていると感じることがありますが、給与については「できれば昇給させたい」「可能ならもっと払いたい」といっている経営者が、思った以上にたくさんいるということです。

つまり、中堅中小企業の経営者の多くは、頑張ってくれている社員たちに報いたい気持ちは強く持っていて、できる限り給料を出したいと思っているが、それでも思うように昇給させられるほどの業績には至っていないということです。
最近では人材不足の状況もあり、いい人材を採用するにはそれなりの給与条件も必要だと考えていますが、なかなかそれに見合う水準までの対応ができません。

このように社員の給料に関しては、投資に対する姿勢のように安全サイドで様子を見ている訳ではなく、すでに精いっぱい努力をして、ギリギリの水準で支払いを行なっている状態だということです。
労働分配率などの視点で見れば、まだ支払い余力があるような企業もあるでしょうが、私の周りにいる経営者たちは、支払意欲があってギリギリまで努力をしている人たちが大半です。

こういう中で、もしも最低賃金の縛りだけがきつくなったとなれば、そこで経営者にできることはただ一つだけ、支払総額は変えずに配分を調整するしかありません。
報道には「地方の中小企業を中心に、人件費の負担が重くなることへの反発も予想される」などとありましたが、実際には重い負担にならないように、各企業がそれぞれの判断で調整するだけのことです。

結局は企業業績そのものが上向かなければ好ましい循環にはならず、最低賃金の上昇に連動して昇給が止まったり給料が下がったりする人が出てきて、景気対策としてはかえって逆効果になってしまうのではないかということです。

景気、経済というのは、多くの要素がつながって回っているので、どこを入口にしてテコ入れをするのかという判断は難しいことですが、ある一点だけに圧力をかけても、それを調整、吸収する力が働いて、ほとんど効果がなくなってしまうものです。
この最低賃金の話だけでなく、他にも様々な景気浮揚策を打たれるのだと思いますが、そんな全体像こそが大切なことなのだろうと思います。


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