2019年7月1日月曜日

新入社員の「人並みに働く」をなぜネガティブにとらえるのか


日本生産性本部ほかが実施した2019年春入社の新入社員を対象とするアンケート結果で、「人並みに働けば十分」と答えた人が63.5%、「好んで苦労することはない」との回答が37.3%と、いずれも過去最高となり、人並みの働き方で、苦労を避けたいと考える傾向が明らかになったとのことです。

調査の中で、「人並み以上に働きたい」は29.0%で過去最低となり、「人並み」との差は34.5ポイントまで開いて、こちらも過去最高とのことです。
調査元では「新入社員の自殺やブラック企業が問題となり、積極的に働くことに抵抗を感じているのではないか」と分析しています。

私の周りに多い、新入社員よりも大きく上の年代の中に、この話題を圧倒的にネガティブに批評している人たちがいます。極端なものでは「仕事を甘く見ている」「社会をなめている」などの全否定に近いものから、そこまでではなくても「そんなに思い通りにはならない」「そうはいかない」など、どちらかと言えば苦言のニュアンスが多く聞こえてきます。

私はこの「人並みに働けば十分」の考え方が、なぜ問題なのかが理解できません。一番大きな理由は、「自分も新入社員の頃はそうだったから」です。さらに今でも、心のどこかでは「人並みに働けば十分」と思っています。ただし、今は仕事を面白いと思ってやっているのと、毎月決まった給料をもらえない立場で、生活のためにはそれなりに働かなければならないので、人並みよりは少しだけ余分に働いているかもしれません。

「人並みで十分」に批判的な人のほとんどは、仕事を通じて何かを成し遂げたという自覚がある人で、もう少し言えば、人生の中で仕事の優先順位が高い人です。
しかし、みんながそうでなければいけないことではありません。「仕事」よりも「家庭」「友人」「趣味」「遊び」を優先する人はいるでしょうし、そもそも優先順位というのは、その時に置かれた状況やその人の価値観、人生経験によっても変わっていくものです。ずっと変わらない人もいるでしょうし、頻繁に入れかわる人もいるでしょう。
新入社員も、みんながみんな仕事に燃えている訳はありませんし、そうでなければいけないものでもありません。

しかし、対象物が「仕事」となると、どうもその優先順位を高めなければならないかのような、無言の圧力があちこちにあります。「無職」「職業不詳」などといわれると、いかにもダメな人のような見方をしますが、意識的に前向きな理由で仕事をしていない人は、世の中に大勢います。
「仕事」を人生修行のようにとらえて、苦しくてもそれに取り組むことが美徳のような話がありますが、そもそも日常生活に組み込まれている「仕事」が、そんなつらいものである必要はありません。
最近はずいぶん変わってきましたが、日本人の中の「労働が美徳」という意識が、相変わらず少し行き過ぎている感じがします。

私がよほど問題だと思うのは、社会人になりたての新入社員が、「仕事は人並みでよい」といいたくなるような、仕事の価値が高くないと感じさせてしまう環境を作り出した、私も含めた先輩社会人たちの責任です。
ブラック企業で「仕事」を通じて若者から様々な搾取をおこなったのは、まさに先輩社会人ですし、過重労働での病気や自殺といった話も同じです。会社や上司の愚痴や悪口など、楽しそうに仕事をしている姿が少なければ、特に若者にとっては「仕事」の優先順位を下げる効果しかありません。

こんな中で、今の私にできるのは、「楽しそうに仕事をしている姿を周りに見せること」しかないと思っています。幸い私の周りには、「楽しそうに仕事をしている大人」が大勢いるので、そんな人たちを新入社員が見れば、感じ方はまた変わるでしょう。

仕事が常に最優先である必要はないですし、もしそうさせたいならば、もっと「仕事」が楽しそうに見えなければならないと思います。


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