2019年7月22日月曜日

会社と社員の関係はそんなに利益相反なのか


国際労働機関(ILO)の総会で、職場での暴力やハラスメントを全面的に禁止する、初めての国際条約が採択されました。
総会の採決では、加盟国の政府に2票、労働組合と経営者団体にそれぞれ1票ずつ投票権が割り当てられ、結果は賛成439、反対7、棄権30と圧倒的多数の支持を得ました。

ただ、日本は政府と労働組合代表の連合が支持に回った一方、経営者団体代表の経団連は棄権しました。棄権の理由について、経団連は「上司の適正な指導とパワハラは線が引きにくい」「条約の定義が広く、線引きがどうなるのかはっきり分からない」と説明しています。
政府も条約には賛成したものの、批准には慎重な姿勢を示しているようです。

日本では「女性活躍・ハラスメント規制法」が成立しましたが、ここでもパワハラは「適正な指導との境界が曖昧だ」との企業側の主張に沿って、罰則を伴う規定は見送られています。法規制が経済界に配慮した、甘いものになっているとの指摘があります。

こういう話を聞くと、私はがっかりした気持ちになってしまいます。もちろん、判断基準が難しいのは間違いないですし、社員からの言いがかりのような話で、訴訟が頻発するようなことがあっても困ります。
ただ、基準を決めることに後ろ向きだったり、その範囲を狭めようとしたり、基準を値切ったりするのは、ただ会社側が責任を問われなければ良いという姿勢にしか見えず、「ハラスメントをなくす」という本来の目的には反しています。
このところ、男性の育児休業にからんだ嫌がらせとされる「パタニティー・ハラスメント(パタハラ)」の話題がいくつかありましたが、これもお互いの着地点を探さず会社側の都合を押し通したということでは、こういった姿勢と共通した印象を持ちます。

私が思うのは、経営者の代表として扱われる経団連などの団体は、そもそも本当に経営者全般の意見を反映しているのかということです。私の周りには、大企業から零細企業まで様々な企業の経営者がいますが、ほとんどが「ハラスメントをなくす」ということに真摯に取り組んでいる人たちです。
中には、被害の認識が一方的とも思えるハラスメントの申告もありますが、そういうことも受けとめて、当事者同士が納得して、再発しないような対応をしています。「線引きがわからない」などと言って逃げることはありません。
国全体の動きと現場の実態が、ずいぶん離れている感じがします。

これは、世の中の意識が多様化している中で、一部の人たちに意見を代弁させることが難しくなっているということもあります。「企業側の意見は経営者団体」「労働者の意見は労働組合」「業界の意見は業界団体」では、それぞれの立場の代表的な意見にならなくなっています。多様性を見すえた上での意見統一が必要になっています。

また、会社と社員の関係では、どうしても会社の方が強い立場にあります。何か対立することがあると、会社の意向が反映されることが多くなりますが、最近起こっている様々なことを見ていると、「会社と社員の関係はそんなに利益相反なのか」と思っています。

会社と社員のWin-Winが、お互いにとって一番メリットがあるはずで、みんなの居心地が良い職場環境を作れば、優秀な人が集まって定着し、様々なトラブルは起こらなくなり、業績は上がります。「ハラスメント」も、基準がどうこうではなく、そうとらえられてしまう行為自体がなくなれば、同じくお互いにWin-Winで、少なくとも利益相反にはなりません。

最近、特に会社側が、個々の社員にきつく当たる事例を耳にしますが、働いている社員にとって、やはり会社は権力者です。そんな会社がもう一歩だけ歩み寄れば、解決することがたくさんあります。
会社と社員が「利益相反の関係」になってはいけないと思います。


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