2016年4月13日水曜日

「丁寧に育てれば成長は遅くなり、成長を急げば雑になる」というジレンマ



4月から入社した新入社員は、ちょうど新人研修の真っただ中だと思います。

新入社員たちをまず初めに受け入れ、新人研修を担当する人事部門では、毎年いろいろ工夫をしながら研修カリキュラムを企画しています。
やらなければならない内容は多岐にわたり、時間と予算には制約があり、新人研修以降もOJTを中心とした形で研修や指導は続いていきますから、そことの関係性も考えなければなりません。
また、身についた度合いには当然個人差がありますから、一人一人の様子にも注目していかなければなりません。

さらに、そもそも会社として用意できる研修体制は、会社によって大きな差があります。一般的には大手企業の方が環境は整い、中堅中小企業ほどそれを作ることが難しくなります。
昔から「研修体制、教育体系の充実」を会社選びの条件に挙げる人はたくさんいますが、そういう環境は、整っているに越したことがないのだろうと思います。

ただ、ある大手企業の社員の座談会が紹介されていた記事の中で、この「成長速度」に関する話が取り上げられていました。
その会社は、社員を非常に大事に丁寧に育てるそうで、少しずつ着実に成長していけるように、脱落などはしないように、仕事の内容、期間、難易度などを考えてながら、配置や業務指示をしていくのだそうです。
しかし、丁寧であるがゆえに、いきなり大きな仕事を任されるようなことはなく、一つのことを担当する期間も比較的長く、結果として「成長速度」は遅くなりがちなのだそうです。

これがベンチャー企業のような環境であれば、大して教えられもしないままに、いきなり仕事を丸投げされたり、教わろうにもそういう人材がどこにもいなかったり、仕事の指導として考えれば雑な対応をされることが多々あります。こういうやり方では、当然ついていけない人や脱落者が出てきてしまうでしょうが、反面ではそんな環境に置かれることで、若くして重要なポジションを占めるようになるなど、「成長速度」が早くなることもあり得ます。

このように、順を追って丁寧に、脱落したり辞めたり、メンタルダウンを起こしたりする人を極力出さないように育てようとすれば、成長はどうしても遅くなりがちでしょう。本当はもっとできる可能性がある人でも、全体の中に埋もれてしまいます。

反対に、多少の無理はあってもどんどんチャンスを与え、苦労してもとにかく自分でやってみる経験をさせていくと、成長が早まる可能性が生まれてきます。ただし、それに付いて来られる人とそうでない人は必ずあり、成長度合いに格差がついてしまうことも考えられます。企業の人材育成という視点からは、雑だと見られても仕方がないでしょう。

こういうジレンマというのは他にもある話で、例えば外国語を学ぶために、まず語学学校に行くか、いきなり外国に行ってしまうかの違いであったり、泳ぎを教えるのに、始めは浅いところから浮き具を使いながら徐々にというようなことと、いきなり水中に突き落としてしまうこととの違いであったり、どれも似たことのように思えます。

ではどうしていけばよいのかと言えば、結局はその両方のやり方が必要で、その人の状況を見ながら、ある時は簡単なもので慣れさせ、ある時は大きな役割を与えてプレッシャーをかけ、集団でやらせること個人でやらせることのバランスを考え、そんな押したり引いたりを繰り返しながら育てていくということなのだと思います。

企業内の人材育成も、最近は個々のパーソナルな要素に注目することが大事だと言われるようになってきています。一人一人に合った指導を行っていくことが、最も「成長速度」は速くなるということです。

そうはいっても、そこまでは手をかけられない会社がほとんどでしょう。
「丁寧に育てれば成長は遅くなり、成長を急げば雑になる」というジレンマとは、当分付き合っていかなけれなならないのだろうと思います。


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