2020年3月2日月曜日

「BCP(事業継続計画)」をいま見直してみると


新型コロナ肺炎の蔓延で、大きな社会的影響が出ています。
企業の対応を見ていると、いち早く全面的な在宅勤務体制に移行して、その素早さが称賛された会社がありますが、多くはそこまでの準備がなく、できる範囲での時差出勤や出張見合わせ、健康管理上の注意喚起などにとどまっているところが大半です。

ここ数年、事故や災害発生時のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の重要性が言われていて、それなりの取り組みがされてきたはずですが、今回の件では、どうも事前の想定からずれていたり、想定外のことが起こったりしているように感じられます。
終息までにはしばらく時間がかかると思われるので、まだ検証する段階ではありませんが、今あるBCPはどんな想定があるのか、少し見直してみました。

まずわかったのは、BCPの多くが大地震を想定したものだったことです。中身は社員の消息確認や安全確保、関係者の避難誘導、設備やシステム、通信手段の維持と復旧、労働力の確保などが多岐にわたって網羅され、業種別に指針や対処事項を細かく記載した資料もありました。
やはり東日本大震災の教訓や知見を活かしていて、情報自体がたくさんありました。

反対に、今回のような感染症対策については資料が少なく、今の状況からつい最近書かれたものもありました。
そんな中で、「事業者・職場における新型インフルエンザ等対策ガイドライン」という2009年の厚生労働省の資料があり、こんな被害想定の記述がありました。
・医療機関で受診する患者数…1300万人〜2500万人
・発症率…25
・従業員の欠勤率…最大40%(ピーク時2週間の最大欠勤率。従業員の罹患のほか、家族の罹患での出勤困難、不安のための不出社など含む)
・欠勤期間…1週間〜10日程度
・流行期間…8週間(ピークは2週間)

この資料で言われていた対策としては、外出自粛や出勤停止など企業としての感染拡大防止と、低下した労働力をどうカバーするかというものでしたが、どちらかというと職場で病気を蔓延させない感染対策が中心でした。
いま実施されている対策を見ていると、この資料をなぞっているものも多いようですが、網羅的で漠然としているため、具体的にやるべきことや優先順位はわかりづらいものでした。

私が今の状況を見ていて思うのが、一つは例えばBCPで中心的な対策に位置づけられる在宅勤務などは、実際にできる人が意外に限られていることでした。その場所に行って、直接人と接しなければ成り立たない仕事がたくさんあり、それを避けるには事業を止めるしかありません。事業継続したくてもできない訳で、想定ほど単純ではありません。

もう一つは、社会全体への蔓延防止のための休業、中止、自粛などで、事業を継続させても仕事自体がなくなってしまうという経済活動上の問題です。
イベントや会合の中止は、主催者や出演者、講師、会場となる施設や飲食店、さらにそこに出入りする関連業者の仕事がなくなります。
学校の休校で、給食関連の業者が窮地だと聞きました。
塾などもオンライン学習ができる一部を除き、学校に合わせて休講するところが多いようです。
パートやアルバイトの仕事がどんどんなくなって、生活不安も出てきています。

これも同じく、事業継続という視点だけでは対処できません。事業縮小や停止を考えなければならないこともあるでしょう。休業補償なども必要と思われますが、これらはすべて、想定できていたとは思えないことばかりです。

しかし、他に目を向けると、参考になる情報がすでにたくさんあります。疾病に関する基礎情報や、治療薬、検査方法に関する情報は日々知見が増えて更新されていますが、それ以外にも事前の想定をもとに、現状を加味して発表したと思われる情報があります。
例えば、米国疾病予防管理センター(CDC)からは、感染防止のガイドラインが公表され、シンガポールは新型コロナ向けの事業継続ガイドラインを発表しています。

今はとにかく、自分たちでできること、やるべきことを考えながら進めるしかありませんが、もっと事前に準備しておけることはなかったのか、なぜ想定ができなかったのか、甘かったのかなど、反省すべきことがたくさんあります。
日本の「想定外」を、他の国では「想定していた」ように見えることがあります。その違いがどこにあるのかが気になります。


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