2022年7月11日月曜日

自分の存在意義と人材育成

企業の人材育成は、どこでも常に課題に挙げられるものです。しかし、「順調」「うまくいっている」という企業は決して多くはありません。

指導者や育成環境が重要だと言われる一方、恵まれない環境であっても自分の力で成長していく人材がいます。指導者のおかげなのか、環境が良かったのか、それとも本人の実力なのかを明確に切り分けるのは難しいことです。

「採用基準が低い」「教え方が悪い」など、人材育成がうまくいかない責任をなすり合う様子を目にしたことがありますが、そもそも企業の中にそういう姿勢があること自体、人材育成に好ましい環境とは言えません。

 

優秀なアスリートがあるコーチのもとからは次々と育つことや、優秀な人材を輩出し続ける教育機関があることを見ていると、やはり人の成長はその人の能力だけの問題ではないことがわかります。企業の中でも、配属した新入社員がいつも辞めてしまうような部署がある一方、能力的に厳しいかも知れないと思うような人材でも、一定の戦力になるまでしっかり育てあげる部署もあるように、教える人や環境、任せる仕事内容などによって、人材育成の成果は大きく左右されます。

まずは教えて、やらせてみて、フィードバックするということを繰り返さなければ、人は育ちません。

 

最近ある会社で、自分の仕事を抱え込んで誰にも教えようとしないという社員の問題が挙がりました。営業職の比較的ベテランですが、その人しかわからない顧客や人脈、情報がいくつもあり、それを周囲に共有したり引き継いだりするように求めても、一向に取り組もうとはしません。

部下も数人いますが、そのあたりの情報共有はほとんど行われず、質問してもほとんど答えてくれることがないそうです。

 

本人への指導と改善が必要とのことで、直接ヒアリングをしてみたところ、こんなことを言いました。

「自分しかできない仕事を持っていなければ、自分の存在価値が薄れてしまう」

 

はっきりとは言いませんが、どうも本人の意識として、他人に仕事を教えることは、自分の仕事を奪われる可能性があり、自分の存在意義を保ち続けるには「自分しかできない仕事」を抱え続ける必要があり、その結果をして情報共有や人材育成をできるだけ避けようとする行動につながっている様子でした。「出る杭を打たなければ自分の立場が危うくなるかもしれない」という意識です。

 

こういう話は、いろいろな企業で実はときどき耳にすることがあります。

かつては定年間近の社員が自身の雇用延長を勝ち取るため、その時の自分の担当業務を抱え込んで、誰にもかかわらせようとしないなどということがありました。最近は聞かなくなりましたが、それは継続雇用が法律でも義務付けられ、勝ち取る必要がない普通のことになったからでしょう。

 

私たちのようなコンサルタントの中にも、自分の存在価値を保つためにノウハウ開示は必要最低限しか行わないという考え方の人がいました。ただ、やり方を知っただけで存在価値を失う程度のノウハウでは、それを隠したところで大した差にはなりません。「知っている」と「できる」が違っているところに、私たちの存在価値があります。

 

企業の人材育成がうまく進まない要素の中に、このような心理的障壁が含まれている場合があります。教えることを恐れる、不安に思うような環境があるならば、改善しなければなりません。

 

 

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