2016年8月12日金曜日

異動希望が受け入れられなかった理由



これはまだ私が企業に在籍していて、人事部長の立場で仕事をしていた頃のことです。ある女性社員が「相談がある」とのことで、私のもとにやってきました。

話を聞くと、今の部門での仕事は自分に合っておらず、なおかつ人間関係もあまりうまく行っていないのだと言います。そこで上司には異動の希望を出しているが、なかなか思ったように対応してくれないのだそうです。
実はこの女性社員の話は、すでに上司からもこちらに伝わっており、「決して仕事が向いていないとは見ていないので、仕事の担当を変えたり、人の組み合わせを変えたりすることで、何とか対応しながら育てていきたい」とのことで、当面は様子を見ようという話になっていました。

実際にその通りの対処はしていたようですが、その意図は本人には伝わらず、いよいよしびれを切らして私のところに話をしにきたようでした。
私からも、事前に上司から聞いていた事実を元に、会社としての意図を伝えようとしましたが、やはり納得はしてくれません。

そんな中で、この女性社員が言い出したのは、「私は人事の仕事が向いているから、人事部に異動させた欲しい」ということでした。
なぜ向いていると思うのかを聞いてみると、「自分は人の気持ちに敏感だから、メンタルヘルス関連で社員からの相談に乗れる」などと言います。確かに必要な素養ですが、それほど年中相談があることでもなく、人事部の仕事としては、比率の少ない一部のことです。

その後も、向いていると言っている仕事は主要ではないこと、上司と人事の間で状況は確認し合っていて、今の仕事が向いていないとは見ておらず、期待もしていることなどを話しましたが、あまり聞く耳は持ってもらえませんでした。

それから2ヶ月ほど後ですが、会社全体の組織変更などもあって、この女性社員の所属部門と担当上司が代わることになりました。そこでは仕事内容はあまり変わらなかったものの、異動の希望はそこからぱったりと無くなりました。
たぶん本人にとっては仕事内容以外の問題が大きく、「人事が向いている」などと言ったのも、それほど深く考えてのことではなかったのではないかと思います。

自己申告制度などの形で、自分がこれからやってみたい仕事、部署異動の希望などを述べる場を作っている会社は、数多くあると思いますが、こういう制度を作ることには、メリットとデメリットの両面があります。

会社と本人の間でキャリアのすり合わせをして、将来のキャリアを考えるきっかけにしたり、目的をもって仕事に取り組むことができるような意識付けの場にしたりというようなメリットもあれば、いつまでも希望が聞き入れられない、言うだけ無駄などと不満を溜めていたりということになってしまうデメリットもあります。

やはり希望を聞くからには、それを実現できる可能性がなければいけませんし、できないならできないで、その理由をきちんと説明しなければなりません。
安易に希望を聞いていれば良いというものではありませんし、このあたりは制度の運用のしかたによって、その成否は大きく変わってきます。

希望を語らせることは大切なことですが、そのすべてがプラスに働くわけではなく、手がかかる場面も必ず出てくるということは、認識しておく必要があると思います。


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