それぞれの企業が抱えている課題は様々なものがあり、その内容は企業によって違いがあるものの、生産性向上や業務効率化といった課題では、それを考えない企業はないでしょう。
「効率化」には、IT化や自動化、省力化、省人化、ペーパーレス化、業務プロセスの定型化、設備の高機能化や高速化、提供サービスの統合や廃止、その他ここには挙げきれない多くの手法があります。
特に人手不足が深刻になってきている昨今では、人手をかけなくても仕事が回るように、まずは身近なITツールの活用や、省人化の前段として、無駄な作業をなくすなどの業務見直しが盛んに行われています。
実は人手不足がより深刻な中小企業の方が、前例踏襲の手作業や非効率な人海戦術に頼っていることも多く、業務効率化は必須の取り組みとなっています。
しかし、これはある会社でのことですが、数名のベテラン社員が、これらの取り組みに対して「手抜き」という否定的な発言をしていました。顧客サービスの低下や社員の能力低下につながっているとの主張です。
顧客サービスの低下と言っているのは、文字通り提供サービスの内容が見直されて、昔からの流れで個別対応していたようなものが、一律の内容に統一されたことを指しています。
「顧客が困る」と言い、その言い分はわかりますが、そもそもこれまでやってきたという個別対応が、コスト除外の過剰サービスと見ることができ、私のような第三者から見れば、効率化の対象になるのは当然の部分です。
もう一つ、社員の能力低下と言っているのは、自動化やシステム化によって、特に若手社員が業務プロセスの詳細を知る機会がなくなってしまうため、人材育成上で問題があるとのことです。
「書類を手書きすることで覚えていく仕事もある」などと言いますが、こちらも言いたいことはわかるものの、例えば帳簿類を手書きしなげれば簿記が覚えられないかと言えばそんなことはなく、転記などは会計ソフトに任せておけば良いことです。プログラミングであれば、必ずしもソースコードを知らなくても作成できるツール類があります。
どちらも基礎知識を持っておくに越したことはありませんが、これから昔のやり方に戻ることは、ほぼ考えられません。これを手抜きというのは少し論点がずれている感じがします。
「効率化」と「手抜き」の差を説明すると、時間短縮や省力化によって質が向上、もしくは低下が起こらないのが効率化で、合わせて質の低下も起こってしまうのが手抜きということができます。
ただ、その境目を具体的に詰めていくと、サービス統合を質の低下と見ることもできますし、システム化などで知識を持たずに済んでしまうことを能力の低下と見ることもできます。
結局は「効率化」の取り組みによって得られるものと失うもののとらえ方であり、それは立場や役割によって違うものになるでしょう。
こうして見ていくと、「効率化」と「手抜き」の境界線は、意外に紙一重のように思います。
「効率化」を進めていく中では、いろいろなとらえ方があることを認識し、「手抜き」とならないように調整していくことが必要ではないでしょうか。