企業が運用する人事制度の中で、期初に目標設定をして期末の達成度を評価する「目標管理制度」は、数多くの会社で実施されています。
しかし、この仕組みが効果的に機能している会社は、逆にそれほど多くはありません。
その理由として、「目標管理制度」の本来の姿が、自分で決めた自己管理目標によって仕事を管理するマネジメントツールであるのに対し、多くの場合では会社に決められた、もしくは指示された目標の達成度によって、個人を評価するツールとして使われているからです。業績評価に使いやすいツールが、なかなか他に見当たらないという事情もあります。
特に設定された目標が、会社や上司の指示による目標となっていて、必ずしも本人が納得していない場合があることが大きく影響しています。「自己管理目標」とは言えないということです。
ただ、これも会社の立場からすれば、トップダウンの事業計画や業績目標がある中で、その内容と個人目標を整合させるためには、ある程度は仕方ない部分があります。
これを100%の自己管理目標として、その内容をすべて本人に委ねて、果たして会社にとっても適切な目標になるかは何とも言えません。仕事の中で、自分の「やりたいこと」「やるべきこと」がきちんと見いだせていないと、目標設定そのものが難しいでしょう。
この制度が導入され始めてからずいぶん年数は経ちましたが、今でも多くの会社で様々な見直しや試行錯誤が続けられていて、そこにはこれらのような背景があります。
これは、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏のお話からですが、「やりたいことをできている人は全体の10%程度」「ほとんどの人が、実はやりたいことなんてわからないままで人生を終える」と言っています。そうなると、仕事の中に限定して「やりたいこと」から目標を決めようとしても、ほとんどの人はできないことになります。
また、仮に「目標は自由に決めて良い」と言われたとして、それではあまりにも範囲が広すぎて、かえって意思決定がしづらくなるといいます。ある程度のルールや条件、その他枠組みが決まっていた方が、何事でも決断はしやすくなります。
このように、会社から指示されて、自分では「決められない目標」の達成度で評価されるツールとして「目標管理制度」が使われる限り、社員の自律的な行動につなげるのは結構難しくなります。
一方「自分で決められる目標」となっても、ほとんどの人が「やりたいことはわからない」というところからすると、適切な目標設定は、誰もがそう簡単にはできません。
これはある会社が実際におこなっている工夫ですが、目標設定に網羅しなければならない要素だけを指定して、あとは本人に決めさせる、またはいくつかの目標の選択肢を示し、その中から本人に選ばせるといった形をとっています。会社の計画や目標と整合するように枠を決め、その中で「自分で決める」という手順を取ると、本人の認識が自己管理目標となり、「指示された」「強制された」「決められた」という感覚が薄くなります。
「目標管理制度」で大事なのは、目標を「自分で決める」というプロセスを経ることです。
これは目標設定だけに限らず、「自分で決めた」という認識があると、やらされ感がなくなって自律的に行動するようになります。どんな人でも、自分が決めていないことには責任感が薄くなり、自分で決めたことには納得して責任感を持って取り組みます。
「自分で決めた」と思わせるのは大事なことです。
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