2020年8月27日木曜日

自分のノウハウを「伝えたい人」と「見せたくない人」

後継者、経営幹部、その他自分の後をつないでくれる人材を育てるというのは、必要性は大きくてもなかなか簡単には進みません。人それぞれの個性があり、それぞれやり方は違いますが、そうはいっても、人材育成のためには自分のノウハウを伝えていかなければなりません。

 

あるオーナー社長は、後継社長に引き継ぐには「10年かかる」と言い、そのための方法は「とにかく一緒に行動して、場面場面での振る舞いを見てもらうしかない」と言っていました。俗にいうかばん持ちのようなことですが、やはり経営者の仕事は単純にパターン化できることが少なく、資料などを引き継いで済むものではないので、そういうやり方になるのは理解できます。

 

職人の世界では、かつては「見て覚えろ」が普通のことで、実務に関わることさえなかなか許されなかったり、教えてもらえたりするようなことはほとんどなかったといいますが、最近はずいぶん変わったようです。実際にどんどん手を動かして、細かいことまで手取り足取り教えられることもあるそうです。

そうやって、自分の持っているノウハウをできる限り相手に伝えようとするのが、最近の人材育成の傾向です。自分の部下や後輩に経験やノウハウを伝えようと、一生懸命に教える人が大勢います。

 

そんな中で、時折見かけるのが、この「伝えたい人」とは正反対の、自分のノウハウを「見せたくない人」です。仕事の中に「自分しかわからない」「自分しか知らない」ことをどこかに温存して、自分の存在感を誇示しようとします。「自分がいないと物事が進まない」という状況を、どこか誇らしそうにしています。

 

私の知る中で多いのは、「定年を間近に控えた人」です。同じ仕事を継続したい、同じ部署にい続けたいなどの理由なのか、自分がいないと仕事が回らない状況に持ち込もうとします。業務引き継ぎには消極的で、自分のノウハウを共有することも、他人に教えることもしようとしません。

 

自分だけの仕事を囲い込んでおこうとするのは、たぶん自分の仕事がなくなるかもしれないという不安の裏返しです。同じようなことは契約社員や派遣社員などの立場の人にも見られることがあります。人材育成は求められないでしょうが、他の人が手出しできないように、自分の仕事を囲い込んでおこうとするのは同じです。

 

この「伝えたい人」と「見せたくない人」の違いは、自分の居場所に関する不安があるかないかです。「見せたくない人」には、仕事を失う、外される、抜かされる、不要と扱われるなどの不安があります。不安があれば、そうならないように自分を守ろうとするのは当然です。

「伝えたい人」は、自分の立場が確立していて生活不安がない人で、自分のノウハウを開示することがメリットになる、損はないと思っている人です。部下や後輩の利益を考えて、少しでも楽になるようにという気持ちで教える人は大勢いますが、そのメリットには「感謝される」といった精神的なことから、「後継者に任せられる」など、自分の身の上の安定まであります。教えたら自分が損をするならば、積極的に伝えることをしなくなるのは、こちらも当然のことでしょう。

 

定年延長や再雇用が増え、年をとっても仕事をする人が増えましたが、この人たちからの業務引き継ぎが、うまくいっていないという話をときどき聞きます。やはり自分が苦労して積み上げてきたものを、他人に簡単に渡したくない気持ちは誰にでも多少はあるもので、一定数の「見せたくない人」がいることもわかります。ただ、その人のノウハウを会社に残していってもらうことは、会社にとっても重要なことです。

 

自分のノウハウを「見せたくない人」を少しでも減らすには、本人の不安や希望をよく聞き、ノウハウ開示することへのインセンティブも作り出さなければなりません。これは必ずしも金銭的な報酬に限らず、感謝や尊敬、賞賛といったことも含まれます。

会社にノウハウを残して人材育成を進めるには、伝えたり教えたりする人たちの気持ちにも、少しの配慮が必要です。

 

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