2018年10月18日木曜日

「転職が失敗だった」と言う人に共通していると思うこと


多くの企業で人手不足が顕著になり、求人数は過去最高レベルが続いています。「転職バブル」などとも言われているようで、確かに転職を考える人は増えていますし、実際に転職する人も多いと感じます。

会社側では、採用難で人が採れないだけでなく、せっかく入社までこぎつけてもすぐ辞めてしまう早期退職の問題などもあり、悩みは大きいものの、その解決策は見出せずにいます。

その一方、転職した人がみんなハッピーかというと、決してそんなことはなく、「転職したが思い通りではなかった」「転職が失敗だった」という人は、こちらも数多く見かけます。
今のような雇用環境であれば、仮にうまくいかなかったとしても、より良いところを探してまた転職することができるでしょうが、転職回数を重ねることにはデメリットがありますし、転職の繰り返しが、果たして意味がある努力なのかという根本的な問題もあります。

私も人事という仕事柄で、転職に関する相談を受けることがあります。だいたいは「今の会社に将来性がない」「やりたい仕事でない」「雰囲気が悪い」といった現状否定の話から始まり、「だから転職したい」となります。この考え方自体はごく普通のことで、現状否定がまったくない転職をする人は、私は今まで本当に数えるほどしか出会ったことがありません。
ただ、私が見ていて思うのは、この現状否定の感情が強いままで転職する人に、「思ったようにいかなかった」「失敗だった」という人が多いことです。

私が転職に関するアドバイスを求められたときに、必ず尋ねることがあります。それは「転職すると何がどのくらい良くなるのか」ということです。そして、「転職によって良くなると思われること」と合わせて、「悪くなること」や「失われること」がいくつあるのかを考えてほしいといいます。
それぞれの項目を挙げて、良くなることの方が少なくとも5項目以上、できれば10項目はプラスでなければ、転職しない方が良いと伝えています。

現状否定の感情が強いままでの転職は、言い方を変えると現状逃避の性格が強くなります。「とりあえず辞めたい」なので、辞めることによって失われるものに目が向いていません。転職して初めて失われたものに気づき、そこから「思い通りでない」「失敗だった」となっています。

ひどいブラック企業なら、一刻も早く逃れることが優先するときもありますが、一般的な転職であれば、少なくとも「何かが良くなること」を求めて転職します。
ですから、みんな「良くなると思われること」にはそれなりの意識があります。給料があがる、会社の知名度が上がるなどは一番多いことです。
しかし、どんなに小さい会社でも、給料が高くない、知名度がない会社であっても、辞めれば失う物が必ずあります。これは、みんな考えているようで、意外に考えていません。

転職というのは、働く環境の全面交換なので、仕事に関連することは基本的にはすべて変わり、当然ですが良くなることも悪くなることもあります。勤務場所や給料ほかの労働条件だけでなく、仕事の進め方は変わりますし、人間関係も全面的に変わります。今までの知識や経験が通用しないかもしれませんし、身近にいるのは気が合う人ばかりではないでしょう。

仕事の進め方や業務知識などは、自分が学ぶことで解決できますが、人間関係の相性など自分では変えられないこともあります。ここで、今の会社と転職先の会社の差し引きがプラスでなければ、良い転職ではありません。

私は会社に対しては、退職者対策や採用対策を一緒に工夫しますが、これは社員が「是非働き続けたい」と思ってもらえる環境作りに努力するしか方法はありません。また、どんなに努力しても、辞める人がいなくなることはありません。

転職希望に対しては、したければどんどんすればよいと言っています。嫌々で会社にしがみつく必要はないし、それは不幸なことだと思うからです。ただ、転職がしやすくなると、安易な転職が増え、「こんなはずではなかった」という人が増えていきます。これも同じく不幸なことです。

転職を考えるにあたっては、確実に良くなることが5個以上、できれば10個上回るかどうかを考えてみてください。今のように転職しやすい環境だからこそ、よく考えなければならないことだと思います。


2018年10月15日月曜日

「目指したい上司」は出会えなくて普通、出会えれば幸運


日本能率協会が、全国の入社半年・2年目を迎えた社員を対象とした意識調査の結果によると、「現在の職場内に目指したい上司、目標にしたい人はいますか」という質問に対して、「いる」は43%、「いない」が57%と、「いない」が14ポイント上回ったとのことでした。

さらに、それぞれの回答で現在の転職意向を比較すると、「転職は考えていない」が、目指したい人が 「いる」では57.8%、「いない」では38.6%という差があり、「いない」の回答で現在転職活動をしている、もしくは検討しているという人は6割を超えており、「目指したい人」「目標にしたい人」がいるか否かが、若手社員の転職意向に影響していると分析されていました。

私がいろいろな会社で、退職希望の社員から理由を聞く中でも、「お手本になる人がいない」「目標になる人がいない」という話は、確かに多いです。そのことが、特に新人や若手社員の転職意向に影響しているのは間違いないでしょう。

ただ、この状況がわかったとして、では会社がここから退職者対策ができるかというと、そういうものではありません。優秀な人格者の社員がたくさんいれば、目標になる確率は高まるかもしれませんが、みんなが確実に誰かの目標になるかどうかはわかりません。「目指したい上司」が会社の努力で増やせるのかといえば、単純にできることではありません。

また、私自身のことで言えば、私は今まで「目指したい上司」や「目標にしたい人」と明確に思う人に出会ったことがありません。ただし、誤解してほしくないのは、今までに良い上司や先輩にはたくさん出会っていて、その人たちを参考にしたり、お手本にしたりしてきたことはたくさんありますが、全人格的に「目指したい」「目標にしたい」と思う人がいなかったということです。

これは私自身の考え方ですが、どんな人にも良いところと悪いところがあり、すべて完璧ということはありません。ですから私は、「尊敬する人」を聞かれたときは「いない」と答えています。
どんな立派な偉人のような人でも、「この人のここは素晴らしい」「尊敬できる」「ここは真似したい」というところはあっても、そうでないところも必ずあります。それをひとまとめに「尊敬する人」などと言われると、「そういう人はいない」となります。

そんなことで、私は「お手本になる人」「目標になる人」「目指したい上司」というような人には、めったに出会えるものではないと思っています。長い社会人人生の中で、そういう人がいたとしても数人、いなかったとしても、それはごく普通のことです。まして、新入社員として会社に入って、まだ1、2年の若手のうちに、そんな人に出会えればよほどの幸運です。

「尊敬する上司」との出会いの話を聞くことがありますが、そういう出会いがあった人をうらやましいと思う反面、それが思い当たらない自分が、特に不幸だとも思いません。自分にとって、そんなに都合が良い他人が身近にいることは、めったにないと思うからです。

若手社員が「目指したい上司がいない」と不満を持つ気持ちはわかります。そういう人がいるに越したことはありませんし、私も昔はそう思った時期があります。
ただ、どんなに転職を重ねても、「目指したい上司」に出会えることは、たぶんほとんどありません。いろいろな人に出会って、いろいろな人の良いところや悪いところを見て、それを自分なりに吸収しながら経験を積む中で、自分なりの「目指したい姿」が見えてくるのだと思います。

もしも本心から「目指したい上司がいない」という理由で会社を辞めるなら、それは転職では解決できないことではないでしょうか。自分が目指すものは、自分で作りだすものだと思います。

2018年10月11日木曜日

「集中」することのリスクとメリット


最近の報道で、世界的に赤色の染料が不足しており、その理由は「原料をほとんど中国で作っている」という生産の中国への過度な一極集中にあり、その中国での環境規制強化によって、2018年春から現地の染料原料メーカーが相次ぎ操業停止となっているためとのことで、サプライチェーンの構造的欠陥が出たという記事がありました。

最近、こんな「集中」することのリスクが顕在化する事例が多いように思います。

先日の北海道の地震による全域停電、いわゆるブラックアウトは、効率化とコストダウンを求めて一部発電所に稼働を集中させていて、その施設にトラブルが起こって停止したことが引き金になりました。
そういえば、私のある友人の家は、オール電化の高層マンションで、もし停電になったら本当に何もできなくなると言っていました。建物のエレベーターは動かず、給水ポンプが止まるので水も出ず、そもそもガス栓の設備もないので、代替手段が一切ないとのことでした。

一方、ITシステムの最近の傾向はクラウド活用ですが、基本的には大規模なデータセンターでの集中管理です。かつてはオープン化、ダウンサイジング、分散処理がもてはやされた時期がありましたが、機器や設備が分散することで、トラブル発生時の原因特定に時間がかかることなどから、また集中管理の流れに戻ってきました。大規模設備に集中投資して冗長化などの対策をした方が、安定稼働の上でもコストダウンの上でもメリットがあるということのようです。
その人の性格や仕事ぶりに対して、「集中力がある」「集中している」という評価は、悪い意味で言われることはまずありません。
「集中」のメリット、良い意味での「集中」は数多くあります。

かつて、「選択と集中」というフレーズで、その企業が得意とする特定分野に特化する戦略が、当然のように言われた時期があります。しかし、結局当たり外れが大きくなることから、最近はあまり聞かなくなくなりました。
企業戦略は、「集中」だけでも、反対に「分散化」や「総合化」だけでもダメで、その時その時の状況を勘案して、適切な取り組み方を決めていかなければなりません。

「集中」することのメリットは、効率やコスト面が最も大きいですが、何かトラブルが起こった時やうまくいかなかった時に、次善の策が持てないというリスクがあります。
リスク回避の想定をしっかり持てていれば、「集中」することは大いにメリットがありますが、最近起こっている様々な問題を見ていると、効率重視とコスト重視に行きすぎて、リスクを低く見積もっていたために、トラブルや急な状況変化に対応できなかったケースが多いようです。

「正常性バイアス」という心理学用語があり、これは自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人間の特性のことで、先日の水害の際の逃げ遅れの原因として取り上げられていました。リスクの軽視は、この話と何か共通点を感じます。

私個人は、あまり一極集中せず、多様な選択肢を持っている方が、いざという時のリスク回避につながると思っているので、何でも一つのことに集約するのが、あまり好きではありません。「これさえあれば」や「これでなくては」という一つだけのものへのこだわりはほぼありません。

「集中」することについては、そのリスクとメリットをよく考えて、あまり偏り過ぎないことが大事ではないかと思います。