2023年6月26日月曜日

ある会社の人事制度改訂で「当事者意識」が高かった理由

 会社の人事制度策定や改訂は、基本的に社長、役員、人事部など、「会社側」にあたる人たちが主導することがほとんどです。最近は人事の関する戦略や施策が重要な経営戦力の一つと位置付けられるので、会社が主導する形になるのが普通のことといえるでしょう。

 

ただ、ここ最近で支援している会社に、このパターンとは少し異なった取り組みをしているところがあります。「会社の評価制度を整備してほしい」という声が、現場の管理職をはじめとした社員からあがり、会社側がそのボトムアップの要望に応えてこれまでの制度を改訂し、新たな運用を始めた会社です。

 

この会社の様子を見ていると、一般的にみられる人事制度改訂の時の様子とは、結構違っていることがあります。一番大きなことは、制度運用に向けた取り組みが主体的で、手抜きをせず真面目で、前向きに制度を活用していこうという姿勢が、経営陣や管理者など制度運用の中心になる人たちから強く感じられるところです。

 

普通であれば、人事制度というのはやっぱり上からの決定で降りてくることであり、周知が足りない、目的が理解できていない、内容に納得感が薄い、仕事が増えて面倒など、前向きとは言えない反応がどこかに必ず出てきます。

しかし、この会社では、そういったネガティブな反応がまったくありません。事前準備で何度か研修などを実施していますが、必要なことを身に着けようという姿勢が強く感じられます。それ以外でも理解できないことがあれば積極的に質問し、まずは決められたことに前向きに取り組んで、うまく行かないことがあればみんなで相談して直していけばよいと考えています。

 

この姿勢の違いの理由を考えていくと、行きつくことはやはり「当事者意識」の高さです。社員が自ら求めていたものが導入されたことで、「自分たちが責任をもって取り組まなければ言い訳できない」という意識を、少なくとも管理職以上は全員持っているようです。

 

私も今まで多くの会社の人事制度に関わる支援をしてきていますが、当然「当事者意識」の重要性は意識しています。

例えばプロジェクトを立ち上げて制度の議論に社員を参加させたり、社員から様々な意見を聴く場を作ったり、議論の途中経過を含めて説明する機会を何度か設けたりするなど、当事者意識を高めることにつながりそうな取り組みを必ず行います。それでも制度を何年か運用して、ある程度慣れてくるまでは、みんなが当事者意識を持ってくれるまでにはなかなか達しません。

しかしこの会社では、そんなところがまったく見られません。

 

あらためて、組織運営において社員の「当事者意識」が重要なことと、そこにはもともとの自分たちの意思が、同じくとても重要だということを感じます。

周りから刺激された結果ではない、自分たちが初めから持っていた「当事者意識」には、やっぱりかないません。

 

 

2023年6月19日月曜日

不安感の強すぎる人

 仕事でもプライベートでも、何かしらの不安というのは誰にでもあるものです。

ただ、その気持ちがあまりにも強すぎるのは、決して良いことではありません。

 

最近お話しをしたある会社の人の中に、この不安感をとにかく強く持ってしまっていると感じる人がいました。

何をするにも「自分ではできないのではないか」「失敗するのではないか」と恐れていて、特に新しいことや経験が浅いことには、なかなか踏み出すことができません。

できるレベルのことだと説明して、勇気づけて、フォローを約束して、ようやく納得して動き始めますが、それでも常に不安でストレスの度合いは高いままです。他人に迷惑をかけてはいけないと思うようで、フォローを求めてこないと思ったら、どこかでお手上げになってすべて投げ出してしまおうとするなど、極端な対応が見られることがあります。

とにかく自分に自信がなく、自己肯定感が低い傾向ですが、その要因にはもともとの性格もあるでしょうし、完璧主義や思い込みのような思考パターンの癖、さらには成功体験がない、褒められたことが少ない、トラウマを抱えているなど、これまでの経験による後天的な要素もあるでしょう。

 

不安になる大きな要因というのは、「先行きがどうなるか予想できないこと」にあります。

そもそも、これから先に起こることを正確に予想できる人は誰もいませんが、「こうすれば7割がたはうまくいく」「ここさえ間違えなければ失敗は防げる」など、過去の経験から一定の幅の中で予測することはできます。良し悪しはともかく、例えば「この上司を怒らせない方法」などは、たぶん経験から得られるもので対応することができ、無用な叱責を避けられることがわかれば、不安が軽減されることは確かでしょう。みんなそうやって不安と向き合って対処しているものです。

 

この「不安感の強すぎる人」と話していて思ったのは、自分がそれなりにうまくいったことでも、そこにはあまり目が向いていないことです。成功しているのにそう思っていない、褒められているのに気づいていないといったことが多く見受けられました。

そんな話をこちらからいろいろ投げかけてみると、初めは「えっ…」と驚いた様子で、そこから半信半疑の表情になり、徐々に「そういうものでしょうか」と自分のことを少し肯定的にとらえることができ始めたようでした。

 

必要以上の不安感から脱するには、現実的な見方をして自分の状況を客観視することが大事ですが、自分だけで整理することが難しい場合は、第三者からの問いかけやフォローが必要になります。

上司や同僚との間でそんなやり取りができていれば良いですが、スピード優先で時間的余裕がない環境、コロナ禍の影響や世代間ギャップなどによるコミュニケーション不足など、それぞれの自己肯定感を高めるような取り組みは、なかなか行えていない様子が多く見られます。

 

不安感の強さは、本人の気持ちが弱いのではなく思考パターンと自己客観視の問題が大きく、その緩和を手助けすることは決して甘やかしではありません。

本人の視野が広がるような周りからのちょっとした働きかけで、不安はずいぶん緩和、改善することができ、そのことで本人は落ち着いてパフォーマンスを発揮することができるようになります。

もし身近にそんな人がいたら、少し話を聞いてあげて欲しいと思います。

 

 

2023年6月12日月曜日

「社員同士の距離感」の遠さ近さで見えること

 企業の人事支援をいろいろな会社でおこなっていると、その会社の「社員同士の距離感」がいつも目につきます。仕事柄で結構緻密に観察しているということもあります。

ここで言っている距離感とは、お互いの心理的な距離のことで、親近感と言い換えてもいいかもしれませんし、仲の良さとも似ているかもしれません。

 

もうおわかりの通り、業績が良い、働きやすい、社員が辞めないという好循環の会社は、この「社員同士の距離感」の平均値が近いことが多いです。あくまで平均値なので、プライベートでは会社の人と付き合わない、社員との関係は仕事上だけという人もいますが、それでも仕事中の会話の頻度や接点の数は、距離感の近い会社の方が間違いなく多いように見えます。

 

社員同士の関係には、「プライベートも付き合う友人」のような濃い関係から、「たまには仕事以外で食事したりする」「一緒に仕事をしたことがある」「会社ではよく話す」「面識はあって会話したことがある」などの中間的な関係、さらに「存在だけ知っている」「面識がない」という希薄な関係までのレベルがあります。

「平均値が近い」と言っている意味は、全体的な関係性のレベルが高め、濃いめの方にシフトしているということです。

 

距離感が近い理由は、あまり一概に言える感じではありません。別に年中飲み会やパーティーをやっているわけではなく、趣味や嗜好が似た人ばかりを集めているわけでもありません。

年齢の近い人が多い、面倒見の良い人がいる、公私ともにイベントが多い、情報共有意識が高い、気軽に雑談できる雰囲気、長時間労働があまりなく業務量がわりと適正、上下関係が緩やか、プロジェクト制やチームでいろいろな人と仕事をするなど、本当にいろいろな要因があり、それらが総合した結果としてお互いの距離感が近づいているようです。意図的に取り組んでいることも自然にそうなっていることもあり、会社それぞれで事情は違います。仮に別のところで同じような取り組みをしても、確実な再現性がある感じではありません。

 

そんな中でも共通しているのは、とにかくコミュニケーションの機会が多いことです。仕事の話も、趣味や遊びなどプライベートな話も、対面、電話、メール、チャット、その他いろいろな方法でコミュニケーションを取り合っています。

仕組み作りや雰囲気づくり、個人的な気遣いなどはありますが、とにかく疎遠な人や孤立した人、事情がわからず戸惑う「浦島太郎」的な人がほとんどいません。

 

逆に距離感が遠い会社を見ていると、仕事に追われて余裕がない、個人ベースで縦割りの業務分担、お互いの面識が薄いまたはお互いを知らない、上下関係がきつい、情報共有の意識が低いなど、コミュニケーションがしにくい、もしくは不要となってしまう要因がいくつもあります。

社員同士はそれに慣れているのであまり問題とは思っていませんが、協力し合えば簡単にできることを一部で抱え込んでいたり、情報の偏りがあったり、相談しづらさや頼みづらさがあったり、小さな不都合、非効率が数々積み重なっています。

 

全員が全員親密である必要はなく、もちろん多様性は重要ですが、一方で、気心の知れた者同士の方が、仕事はスムーズに進みやすく、結果も良いことが多いでしょう。

 

自社の「社員同士の距離感」は、当たり前になっていて気づきにくいものですが、あらためて一度問い直してみて、問題があると感じたら何か取り組んでみることも必要ではないでしょうか。

 

 

2023年6月5日月曜日

若手中心なのに「今どき」とは少し違う会社

 最近接点があった会社で、平均年齢30歳そこそこの会社ですが、「今どきの若者」とはちょっと違うことがたくさんあって、いろいろ興味深かったことがありました。

 

まず目についたのは、社員旅行や飲み会をはじめ、社員同士のレクレーションなど、昭和っぽいと言われそうな社内行事がたくさんあり、しかもその参加率がとても高かったことです。社員の本音がどうなのかわからないところもありますが、旅行については「来年はどこそこに行きたい」などと話し合っているので、それなりに楽しみにしているようです。

 

飲み会と表現しましたが、お店で宴会をするばかりではなく、ランチ会とかケータリングを使った社内懇親会とか、サプライズで始まるピザパーティーとか、その中身はいろいろです。参加を強制されることはないですし、お酒は飲むときも飲まない時もあります。そんな中で社員は、「仕事」とも「プライベート」とも言えないような時間を、わりと楽しそうな様子で一緒に過ごしています。

 

「仕事」と「プライベート」の区別をあまり気にしていないのか、社員同士は仕事を離れたところでも結構交流しているようです。共通の趣味に取り組んでいたり、休みの日でも一緒に遊んでいたりします。

要は社員同士が仲良しなのですが、基本的に中途採用ばかりの会社なので、みんな経歴や境遇は違いますし、若いとは言ってもそれなりのベテラン世代の人たちもちらほら見かけます。決して同じような属性の人たちばかりがつるんでいる感じではありません。

 

経営陣は30~40代の比較的若い年齢の人が多いですが、見ていて気づいたのは、誰も威張ったり偉そうに振る舞ったりしないことです。緊急事態や専権事項は除きますが、一方的な命令をせずに関係者としっかりコミュニケーションを取りながら物事を決めていきます。上から威圧することがないので、当然ですがパワハラのような問題も起こりません。上下関係に委縮せず、わりと本音で話し合える環境があります。

売上利益などの目標は掲げていますが、そこまで厳密に追いかけているわけではなく、あまりガツガツしていません。ダメだと思えば下方修正のようなことも躊躇せずに行います。

入社してきた人には、みんながウエルカムな雰囲気で話しかけ、仲間として溶け込めるようにいろいろ世話を焼きます。社員が食事をしたり遊んだりする場に代わる代わる誘っています。なじみやすい人を選んでいるという側面はありますが、早くなじめるような働きかけがいろいろあります。

「働きやすさ」を求めていった結果として、こうなっていったのではないでしょうか。

 

こんなことから個人的に思い出したのは、私の高校時代で一番一体感があったクラスのことです。仲良しグループは複数ありましたが、それぞれお互いに認め合っていて、クラス全体で何かやろうという時は、誰がリーダーということもなく協力し合っていました。いじめなど一切なく、クラスの中に全員の居場所がありました。

お互いを認め合って尊重し合うこの会社の雰囲気は、その当時のことを思い出すところがありました。

 

実際に仕事をしている中では、たぶんそんな綺麗ごとだけでは済まないですし、外部からは見えないいろいろな問題があるでしょうが、少なくともみんなが毎日仲良く仕事をしている様子を見ていると、競争、他人の評価、上下関係、指示命令、支配、威圧などのありがちな職場の風景は、実は不要なことではないかと思ってしまいます。

 

仕事は日常のことであり、それが必要な時期はあったとしても、基本的に修行や鍛錬とは異なるものです。厳しさばかりでは、人間はいつか疲弊してつぶれてしまうかもしれません。

多くの人が心を穏やかにして働ける環境は、あらためて大事なものだと感じた経験でした。