2018年2月28日水曜日

とりあえずやってみると、思いがけないことが役に立つ



これは仕事柄にもよることでしょうが、毎日わりと同じ生活リズムで同じ仕事内容に向き合い、あまり変化がない生活をしているという人は、それなりにたくさんいます。同じといっても100%ではないでしょうが、小さな振れ幅の方が心地よいという人は、特に日本のサラリーマンでは意外に多いのではないでしょうか。

ただ、変化がないということは新しい出会いも経験もないということで、それでは自分の器は広がりません。結果がどうなるかはわからなくても、「とりあえずやってみる、行動してみる」という姿勢は、年令がいくつであっても大事なことだと思います。

そうは言っても、「結果がどうなるかわからない」では、どんな人でもやはり行動力は鈍ります。「どうせやるなら意味のあることをやりたい」と思うのは、また当然のことでしょう。
しかし、この「意味のあること」がまた難しく、私の今までの経験で言えば、何がいつ意味のあることになるのかが、はっきりいってよくわかりません。ある日突然むかしの経験が活きる場面に遭遇するようなことが意外にあります。

これはある会社でのことですが、初めて開発した新製品発表のイベントをやることになったものの、当初社内には大きなイベント運営などを経験した者が誰もいないということで、ずいぶん右往左往していたそうです。
しかし、そのイベントには全然かかわりがなかった別の部署で、学生時代にイベント運営のアルバイトをしていた人材がいることがわかり、その社員に聞くとずいぶんいろいろなノウハウを持っていて、その人にいろいろサポートしてもらうことで、無事にイベントを乗り切ることができたそうです。
サポートした本人は、「むかしの経験が今頃になって活きることがあるとは思わなかった」といっていたそうです。

私の個人的なことで言うと、昔は採用広告の原稿などを良く書いていたので、文字数に合わせて書くのは意外に慣れていたり、宴会幹事をいっぱいやったのが接待のときに活きたり、大学主催の就職懇親によく出席していたので、知り合いが誰もいないアウェーなイベントが意外に平気だったり、些細なことでも過去の経験が生きていることがたくさんあります。
その時は決して「意味のあること」などとは思っていませんが、それがずいぶん時間が経ってから、予想していない思わぬ場面で活きたりします。今になってあらためて幸運だったと思うのは、そういうことを「とりあえずやってみる」という場を与えてもらっていたということです。

つまり、「意味があるかないか」などとは初めはあまり考えず、「とりあえずやってみる、行動する」ということで一度でも経験していると、そのことが後になって不意に意味を持つことがあるということです。

効率的に行動することはもちろん大事ですが、何がいつ役に立つかを確実に予想することはできません。そうならば「とりあえずやってみる」という姿勢の方が、自分の引き出しを増やすことができます。
とりあえずやってみると、思いがけないことが役に立つときがあります。


2018年2月26日月曜日

超氷河期と売り手市場で変わったことへの中小企業の感じ方の話



ある就職情報会社の調査データの中に、「就職氷河期の学生と売り手市場の学生の比較」というものがありました。
超氷河期といわれた2010年卒の学生と、売り手市場となった2017年卒の学生を比較しており、それによると、「就職先を選ぶ基準は何か」という設問で変化が大きかった答えとして、2010 年卒の1位は「仕事内容が魅力的」が41.1%でしたが、2017年卒では、これが23.5%で17.6ポイント減の7位と、大きく順位を下げています。

他にポイントが下がった項目は「高いスキルが身に付く」が8.9ポイント減、「企業理念に共感できる」が8.3ポイント減などで、 逆にポイントが大きく上がった項目は「休日・休暇が多い」で13.2%から26.5%へと倍増し、ほか上位は「将来性がある」「給与・待遇が良い」「福利厚生が充実している」となっています。学生の関心は、仕事やキャリアから条件面に移っているようだとコメントされていました。

この話を特に中小企業の社長の皆さんにすると、何となくがっかりした感じになります。「やっぱりそうか」などと言って、「みんな大きい会社の方がいいんだよな」などと言います。
最近の人手不足の中で、人材確保に苦戦する中小企業はたくさんあります。中小企業が特に待遇条件で大企業に太刀打ちするのは難しく、それ以外の面でいかに価値を感じてもらうかが勝負の分かれ目ですが、この調査はその武器が通用しなくなったような、そんな気持ちを反映したちょっとの愚痴や嘆きが入った言葉なのだと思います。

私も中小企業の採用支援を数多くしている立場から、その気持ちは痛いほどよくわかります。苦労して、自社なりに最大限の投資をして、それでも振り向いてくれる人がいないという状態は、当事者にとってはとてもむなしいものです。

ただ、ここで一つ冷静に考えてみると、中小企業が採用に苦戦するのは今に始まったことではありません。程度の違いはあっても、大企業と比べてしまえば常に不利だったことは当然であり、楽勝だったと言い切れることはたぶん一度もありません。

もう一つ、過去の様々な調査結果を見ていてわかるのは、売り手市場になると給料や休日休暇、福利厚生といった待遇条件の優先順位が上がり、そうではない不景気の時期になると、企業規模を問わずに仕事内容を吟味し、自分のスキル意識が高まる傾向が明らかにあります。
つまり、すべてのことは外部要因であり、自分たちの力だけでどうにかできるものではないということです。ただし、そういう環境だから何もしなくて良いということではなく、与えられた環境の中で、最大限にできることは何かを考えて実行するしかありません。

待遇で大企業と張り合うことはできなくても、自分たちができる最大限の待遇を生み出すためにはどうするかを考えるしかありません。やはり業績を上げなければ待遇アップはできませんし、企業の魅力も打ち出すことはできません。

外部要因を一喜一憂しても、そこから生まれるものは何もなく、自分たちにできる範囲の「企業価値の向上」に取り組んでいくしかありません。

ある福祉関係の事業所で、人材採用ができないことへの嘆きから、「不景気になればいいのに」という声があったという話を聞きました。そうでもならなければ自分たちの事業所の人手不足は解消しないということでしょうが、本当に不景気になったら自分たちの収入も減る可能性がある訳ですし、事業所自体の安定も厳しさは増していくはずです。それは、いまそこで働いている人たちにとっても、何一ついいことはないはずです。

どうにもできない外部要因に一喜一憂せず、自分たちにできることを地道に続けることが、物事が好転する可能性が一番高い行動ではないかと思います。


2018年2月23日金曜日

「裁量労働制」を“良い働き方”にするために



「裁量労働制」の適用範囲を拡大するための国会論議で、「一般の労働者よりも労働時間が短くなる」との根拠とされたデータに誤りが見つかり、首相が謝罪するという事態になっています。それでもこの法案はそのまま提出する方針だそうです。早く決めたいと焦っている感じが心配です。

この裁量労働制は、「労働時間が減る」「時間に縛られない」「裁量が増えて働きやすくなる」などといいますが、私はそう単純なものではないと思っています。
例えば、私たちのような独立コンサルタントは、働き方としては「裁量労働制」のようなものです。ただし、それで働く時間が少なくて済むかといえばそうではありません。無条件に時間を拘束されることは確かにありませんが、納期や期限、決められた成果物は常にありますので、その点の縛りは必ずあります。

それでも私は、それなりに良い働き方ができていると思っています。それが成り立つのは「その仕事をやるかやらないかは自分で決められる」ということがあるからです。また、それを「交渉する余地」があり、折り合わなければ契約をしないだけのことです。報酬額、期限、稼働時間、仕事内容などを総合判断して決めますが、その時の状況によって自分の基準は変わります。
逆に言えば「断る自由」しかないとも言えますが、それは働く上での裁量としては、とても重要なことです。

しかし、企業で働く人の「裁量労働制」となると、基本的にこの「断る自由」がありません。条件を「交渉する余地」もほとんどないでしょう。日々の仕事の進め方にしても、本来ならば上司からいちいち指示されることはないはずですが、そこは結構普通に「いつまでにこれをやれ」のような指示をされて、現実的に働く人の裁量で進めることはほとんどできないというような状況が、数多くあります。

実際に、今でも裁量労働制を悪用する会社が後を絶たず、この問題を専門に扱うユニオンもあるようですし、さらにその適用範囲を拡大するとなれば、裁量が持てない人が裁量労働制の扱いにされてしまうことが考えられ、今まで以上に問題が大きくなる懸念があります。「定額働かせ放題」などといわれるような状況が、どんどん拡大しかねません。

私は自分が「裁量労働制」のようなものだということもあり、導入すること自体に反対ではありません。やり方次第で良い働き方にできるからです。ただし、そのためには「断る自由」と「交渉する余地」は絶対に必要な部分です。

ちなみに「定額」といって思い出すのは、携帯電話の料金プランですが、かつてはすべて一律のデータ量だった「パケット定額」も、現在は使用できるデータ量上限によって料金が異なる形になっています。やはり根拠のない「一律定額」では、初めは良くてもいつか運用に耐えられなくなるということです。

「働き方改革」が成長戦略に位置付けられ、経済成長を目指すものである限り、そこで議論される「裁量労働制」は、どうしても「残業代を払わなくて済む人」の拡大に意識が向いている感じがしてなりません。
無理した「定額制」はいつか必ず破たんします。良い働き方になり得る「裁量労働制」ですから、それにつながる議論がされることを望んでいます。