2023年2月27日月曜日

よく働く社長とそうでもない社長とその周りの社員たちのこと

 私が一緒に仕事をしている社長さんたちは、概してよく働く人たちです。オーナーとしての責任感であったり、自分の事業へのこだわりであったり、仕事のやりがいや面白味だったり、自社への愛着だったり、その事情はいろいろです。

自分の会社をいろいろな面で良くしたい、強くしたいと考える人たちだからこそ、私たちのような社外専門家に仕事を依頼しようと考えるのかもしれません。このように良く働く社長ほど、リーダーシップも強い傾向があるようにも思います。

 

その一方で、そこまで仕事熱心ということでもなく、仕事ぶりにゆったりとした余裕を感じる社長さんたちもいます。会社が軌道に乗っている余裕、自身の生活基盤やライフステージの状況など、こちらも事情は様々です。ごく少数、本当に働かない道楽ばかり社長さんもいるにはいますが、過去に頑張った結果として今があるはずなので、一概に批判できることでもありません。

 

このどちらのタイプの社長にも、周りには社員の人たちがいます。リーダー、マネージャー、役員など、その立場はいろいろですが、良く働く強い社長とそうでもない社長では、周りの社員のタイプに少し違いを感じます。一言でいえば、自律的な意思決定の有無、量の違いです。

 

やはり、よく働いて現場に関与することも多い社長は、基本的に本人がいろいろな場面に顔を出し、自身の指示や意向を伝えます。かなりのマイクロマネジメントと思えることもありますが、そうせざるを得ない様子も見受けられます。

そういう社長の周りの社員たちは、何かを自分で判断しようとするよりも、「社長はどう考えるか」「社長に認めてもらうにはどうするか」を真っ先に考える傾向があります。自分の意思を持つ前に社長に聞いてしまった方が早いということが起こるので、自分で考えることをしなくなる傾向が見られます。

要は、社長が自分でいろいろやって決めていくため、周りの社員たちがうまく育ってこないのですが、社長は自社のマネージャーたちの力量不足を言うことが多い感じがします。

 

一方、そこまで仕事熱心には見えない社長の周りでは、結構優秀なマネージャー人材が目につくことがあります。右腕と言われるような全体を仕切れる人や、自部門をうまくマネジメントして結果を出している管理者などがいます。前者の社員たちと違っているのは、「自分で判断、決断しようとすること」です。必ずしも自分の思い通りの意思決定ができないとしても、自分ならこうするという意思を持っています。

 

これは結局、権限移譲の問題で、任せる範囲が多いほど人材が育つということになる訳ですが、「だったら何でも任せればよい」「もっと権限委譲を進めるべき」と言って済むものではありません。

できることは部下に任せていこうという意識は、仕事熱心な社長かそうでもない社長かに関わらず、多くの人が持っています。この権限移譲を進める難しさは、そのさじ加減をどうするかにあります。

 

そもそも、自分のこだわりが強いことや求めるレベルが高いことは、なかなか他人に任せることはできないもので、もし任せるにしても、その範囲は狭くなりがちでペースは遅くなりがち、時間も結構かかります。自分がすでに高いレベルに到達していると、「まだ足りない」といってなかなか一人前とは認められません。

こういう心理はそう簡単に変えられるものではなく、特にトップマネジメントからの権限移譲が進みづらい大きな理由の一つになります。

 

マネージャーが育たない原因の一つに権限移譲が不足しているという問題があり、ここには社長自身のマネジメントスタイルが影響していることが多々あります。

この解決方法は、ちょっと無理ではないかと思っても任せてみる、口出ししたくなってもあえて我慢する、手を貸さずに見守るといったことを、社長自身の感覚よりももう一歩進めてやらせてみるということに尽きます。ただ、状況は様々であり、安易に進められないという気持ちもわかります。

人材育成というのは、こんなことからも難しさを感じます。

 

 

2023年2月20日月曜日

機嫌の良い上司、悪い上司

 先日、ある企業で働く女性との雑談の中で、「仕事が大変」「つらい」という話が出てきました。

よく聞くことがある話の感じもしますが、「何がつらいのか」と尋ねてみると、たった一言「上司に対するストレス」「パワハラ」だといいます。もう少し細かく聞くと、世間一般でイメージするようなパワハラとは少し違った話でした。

 

問題は「上司のご機嫌」だそうで、とにかく顔色をうかがいながらコミュニケーションを取らなければならないことが多いといいます。タイミングを間違えると「今は話しかけないで!」などとコミュニケーションを拒否されることが度々あるといい、当然ですが、指示を仰いだり確認事項があったりしても滞ってしまって、仕事は進まなくなります。上司の機嫌の良し悪しを気にしなければならないことが、大きなストレスになっているそうです。

 

この上司は、決して気が強かったり横柄に威張っていたりするわけではなく、こちらが強く出ると、急に謝ったりすねたりするなど、いずれにしても面倒な反応が返ってくるといいます。どちらかといえば気が小さいような人だそうで、自分より上役に対してはペコペコしているなど弱く、自分から積極的に動くことも少ないそうです。話を聞く限りでは、単純に自分の感情をコントロールする力が足りない人という感じがします。

 

私は企業におけるリーダー素養の一つとして、「いつでも機嫌が良いこと」は大事なことだと思っています。

もちろん組織の目的やミッションによって、強さや威厳を示さなければならないリーダーはいますが、企業の中でのリーダーには、必ずしもそれは必要ないと思います。大事なのは「円滑なコミュニケーションをとる力」で、「いつも機嫌が良い人」というのはそのために重要な要素です。

 

例えば、必要な情報を早く得るためには、「周りが話しかけづらい雰囲気」というのは好ましくありません。いつも機嫌がよくて、できれば明るくて、何でも話しかけやすい上司の方がコミュニケーションを取りやすく、その結果として良い情報も悪い情報も集まりやすく、その情報を得るために要する時間も早くなります。

誰でも不機嫌な時はありますが、特に男性の場合は年齢を重ねていくほどに、本人は普通の顔をしているつもりでも、周りから見ると表情や態度が怖く不機嫌に見えるそうです。肌のたるみとかシワとか加齢でどうしようもないことはありますが、椅子の座り方や腕組みなど、本人は無意識でも威圧感を与えていることがあります。他人からどう見えているかを、あえて意識することも必要でしょう。

 

私の知人に、いつ会っても常に機嫌のよい人がいます。いつも口角が上がっていて表情が明るく、誰にでも分け隔てなく話しかけ、人の悪口を言うところを見たことがありません。年齢や性別を問わずに友人が多く、人を介していろいろな情報が素早く集まってきます。良いことでは先行者利益などで得をすることが多く、悪いことには早くから対応できて傷を負わずに済みます。

 

企業内のリーダーにとって、「いつでもご機嫌」というのは重要な要素です。機嫌が悪くてもそれを表情には出さず、平常心を保つ理性が必要です。

そういうことが、実は仕事の成果にもつながっているように思います。

 

2023年2月13日月曜日

「伸びしろの見極め方」「才能開花のさせ方」という話

 ある新聞に、「若者の才能を見逃さない」という、プロ野球スカウト部長のインタビュー記事が目に留まりました。日本ハムファイターズのGM補佐兼スカウト部長である大渕隆氏へのインタビューです。

この方は、大谷翔平選手をドラフト指名した際に、本人は当初直接のメジャー入りを目指していたものを、自身の能力を最大限に生かすには、まず日本球界でプレーすることが適切だという客観的なデータを示して翻意させたというエピソードを持っています。

 

記事にはいくつもの示唆に富んだ内容がありましたが、私が一番共感したのは、「“見えないもの”に焦点を当てなければ、自分たちの仕事に意味はない」という言葉です。

球速や身体能力などの見えるデータは、もちろん評価の確認に使いますが、そこを重視しすぎるとうまくいかないことが多いといいます。大事なのは数字にならない「考える力」や「強い思い」などの「見えないもの」だと言っています。

 

いくつか挙げられていたポイントには、

・人間同士なので伝わってくる第一印象を大事にする。

・ピンチになった時にその人の本質が出やすい。

・ユニフォームの着こなしやグラブの手入れ、野球ノートの書き方なども材料になる。

といったものがありましたが、中でも「企業の人は“20分の採用面接では何もわからない”などというけれど、むしろ1回の方が良い時もある」という話は、私も同じことを思いながら実践、指導してきた経験があるので、とても共感するところがありました。

 

「一つの常識というフィルターにかけたらふるい落とされる者がたくさん出るから、私たちは評価基準や引き出しを何通りも持たなければならない」といい、そうでなければ大谷選手の二刀流もなかったかもしれないと言っています。

「若者を枠にはめるのではなく、その人しか持っていない才能を開花させなければならない」

「“組織の常識”というフィルターにかけて才能を見逃していることが、どんな組織のもあるのではないか」と締めくくられていました。

 

私がいつも怖いと思っている言葉の一つに、「常識」というものがあります。人を枠にはめる典型的な言葉だからです。「そんなの常識」「これくらい常識」「当たり前の常識」など、いろいろな言い方がされますが、そもそも「常識」というのは、10人いればほぼ10通りに分かれる多様なものです。

パワハラにあたるかもしれないためか、最近は見かけませんが、以前は上司が部下に、「これくらいのことが常識でわからないのか」などと叱責していることがありました。当時はそれで通用していましたが、そもそも常識は人それぞれなので、きちんと言葉にしていないなら、本来はわかるわけがありません。

そういう決めつけによって排除してしまった才能が数多くあったのだとすれば、それはとてももったいないことです。

 

「その人しか持っていない才能を開花させなければならない」ということは、組織で採用や育成に関わる人は、十分認識しておかなければならないと思います。

 

 

2023年2月6日月曜日

違いに注目しすぎると「同じところ」が見えなくなる

 自分の部下たちとの世代の違いに直面して、その対応のしかたに悩んでいるマネージャーから話を聞くことがよくあります。ほとんどが世代の違う部下たちと、どうやってコミュニケーションを取っていけばよいのかという悩みです。

 

コロナ禍で以前のように飲み会の開催もままならず、できたとしても喜んで参加する部下も少なく、面談としても気軽に話し合える関係にはなかなかなれず、さらにリモート面談が増えて、相手の表情などがわかりづらくなっています。いろいろ試行錯誤をするものの、それがうまくいったという実感が持てないという話をよく聞きます。

 

この世代間ギャップは、年長者と若手の間だけの話ではありません。若手同士でこちらから見る限りでは、わずかと思える年齢差でも「世代が違う」と言います。

同じ世代といわれるのは、青春時代といわれるような感性豊かな20代の頃を、同じ流行や生活環境の時代を一緒に過ごした人同士のことで、だいたいが近い年齢層のかたまりになります。

しかし、最近は流行が入れ替わるサイクルや環境変化が早いためか、お互いが同世代と認識する年齢の幅が狭くなっているように感じます。

 

これを多様性といえば確かにそうですが、お互いが共通認識を持つことが難しくなってきているともいえます。〇〇世代などといって、世代の違いを強調する話題をよく耳にしますが、様々な場面で世代間ギャップを感じる人が増えているせいなのかもしれません。

 

そういう違いにどうやって対処していくか考えると頭が痛いですが、私自身は最近少し違うことを感じたことがありました。

海外のシングルマザー家庭での日常の様子を紹介するテレビ番組でしたが、もちろん言葉も気候も服装も食事も、それ以外の日常的な習慣もずいぶん日本と違っていました。

ただその一方、子供はお母さんが大好きで、お母さんが仕事からの帰ってくるのを待っていて、帰ってくると嬉しそうに、学校で今日あったことなどをいろいろ話しています。お母さんも子供がかわいくて仕方ないように見え、にこやかにいろいろ話を聞いていて、二人で一緒に夕食の買い物に出かけていきました。

そんな様子を見ていて、「国が違っていても人の思いは変わらないもの」と思い、ふと「違うこと」よりも実は「同じこと」の方が多いのではないかと感じました。

 

相手と親密になる目的で、食事の時間を共にすることはよくありますが、これは国や人種が変わっても同じです。未開の地の原住民でも、自宅に招いて特別な料理を振る舞ったりしますから、たぶん人類に共通する感性、習慣なのでしょう。

 

どんな人でも、水を飲まなければ死んでしまうし、花を見ればきれいだと思うし、褒められればうれしいです。

世代の違いなど、他人と自分が違うことはたくさんありますが、違いばかりに注目してしまうと、本当はそれ以上にたくさんあるかもしれない「同じところ」に気づきづらくなります。

人との違いを理解、尊重しつつ、同じところを見つけようと意識してみると、今までよりは少し良い関係が築けるように思います。