2016年4月29日金曜日

あえて「短期的視点に徹する」というチーム戦略の話



スペインのサッカー一部リーグに、アトレチコ・マドリッドというクラブがありますが、そのチーム戦略に関して、面白い記事が出ていました。

アトレチコ・マドリッドは、決して裕福ではない中小クラブですが、バルセロナやレアル・マドリッドといった超ビッグクラブとともに優勝争いをしています。
シメオネという元アルゼンチン代表だった人が監督ですが、経営戦略の視点から、彼とチームを研究・分析した論文が「ハーバード・デウスト・ビジネスレビュー」というウェブマガジンに掲載されたそうです。
監督の方針である「一試合ずつ進んで行く」が、常に長期的視点を持つビッグクラブとは対照的な短期的視点であり、これが大企業と争う中小企業にとっても有効だと説明されています。

例えば人材確保では、才能開花が間近か全盛期の選手は、しばらく先も見込めるという点で効率的なチーム強化には適していますが、値段も高いので財力があるビッグクラブしか買うことができません。これは企業でも同様で、大手が有能な人を金銭的好条件で集めてしまうということです。

そうなると、中小クラブ(中小企業)には別のやり方が必要であり、それが短期的戦略ということなのだそうです。

以前はアトレティコ・マドリッドもビッグクラブと張り合って、数年間の活躍が見込めるタレントの獲得に大金を使っていましたが。シメオネが来てからは若手への投資をやめました。
補強は前年活躍した選手を売るところから始め、その資金で「いま必要な選手」を先を気にせずに買うのだそうです。中小企業であれば、経験豊富なベテランに目を向けるようなことです。
そのチームを適切なコーチングで団結させ、総資本回転率を上げてビッグクラブより効率的に利益を出していくということでした。

最も大事なのはその「コーチング」で、新加入者に戦術(仕事内容)を理解させるだけでなく、クラブ(会社)への帰属意識と責任感を短期間に持たせねばならないので、共通の目標を明確にし、互いを助け合う姿勢を植えつけるために、チーム内の自由なコミュニケーションを確立し、練習(仕事)においては柔軟さと忍耐強さも求められるということでした。

これは、かつての私の経験と、最近いくつかの会社であったことですが、大手企業出身のベテランに、経験を期待して入社してもらったものの、結局はうまくフィットせずにお互いに不幸な結果になってしまったということがありました。

こういう会社では、「大手のベテラン人材を受け入れるのは難しい」という結論になってしまっていますが、この記事から思ったのは、「コーチング」するべきこととして挙げられている、
「仕事を理解させる」
「帰属意識と責任感を持たせる」
「そのために自由なコミュニケーションを図る」
「仕事では柔軟さと忍耐を持つ」
ということが、実は不足していたのではないかということです。

たぶん、ベテランだからということで若干の気兼ねもあって、あまり事細かな説明はせずに本人にお任せのような状態になり、そのせいで思っていた成果が出ない、思っていたやり方をしてくれないなどのミスマッチが起こり、そもそもベテランだから手がかからずにすぐに成果は出るものと思っているので、忍耐が必要などとは思ってもおらず、結果的にうまく活かせなかったということが多々あったように思います。

もちろん新たに加入するベテランも、新天地のしきたりに合わせることが必要ですが、ベテランにはベテランなりの今まで培ってきたやり方がありますし、当然プライドもあります。
やはり受け入れる側もその点を理解し、いかに能力が発揮しやすい環境を作るかということが必要なのだと思います。年長者やベテランは柔軟性が足りない、環境に適応しづらいなどと言って嫌う向きがありますが、「ベテランだからできて当たり前」と、あまり働きかけをせずに放置してきたような面があるのではないでしょうか。

どこでも簡単にできることとは思いませんが、私は高齢化に向かっていく日本で、「能力はあって文化が違う人材をいかに活かすか」ということは、特に中小企業にとっては示唆となる内容のように感じました。皆さんはどう感じられるでしょうか。


2016年4月27日水曜日

「ミスマッチ制度」は厳しいようで実は親切なのかもしれない



関係先の企業から、ときどき社員との面談を依頼されることがあります。その理由は、あまり仕事がうまくいっていない、何か悩みがありそうなどという様子が見られるので、それを社外専門家の立場で話を聞いて、できればアドバイスの一つでもして欲しいとのことです。
たぶん、上司や社員同士でも聞くことができる内容だと思いますが、あえて第三者の立場で話を聞くことが、時に良い効果が得られることもあるようです。

私がお話を聞くような場合は、どちらかと言えば良い状態といえない社員が対象ですが、やはりその中には今の仕事に対する適性そのものが不足しているような人もいますから、なかなか前向きな話をすることが難しい場合もあります。私の立場から辞めるのを勧めるようなことはありませんが、正直言って「今のまま無理して続けていても幸せになれないのでは」などと思ってしまうこともあります。

こんな話と少し関連して、インターネットサービス大手のサイバーエージェントでは、社員に対して部署異動または退職勧奨を行う「ミスマッチ制度」というものがあるそうです。
これを聞くだけでは、マイナスイメージばかりを持ってしまうかもしれませんが、そもそもの考え方は、「この会社で成長や昇進の見込みがないのであれば、それを率直に伝える方がよほど誠実ではないか」ということで、制度運用としても、各部門から「ミスマッチ候補者」を必ず出すことは義務付けるものの、無理やり探し出すような機械的な運用はせず、最終的には警告、イエローカード、レッドカードの三段階のどれにあたるかを、役員会の決議で決めるそうです。

最も重視しているのは「価値観の一致」だそうで、成果が出ないから早く切り捨てようということではなく、たとえパフォーマンスが相対的に低かったとしても、能力に合った給与を支払う形で、チームとして一丸となってもらえれば、それを認めていくというスタンスだということです。

日本の法律では、一方的な解雇は厳しく制限されますが、強要にならない程度の退職勧奨は、認められています。それでも実際に行うとなると、解雇とほとんど同じようなイメージでとらえられますし、会社側もそれを逆手にとって、実質的には解雇なのに、退職勧奨の体裁をとっているようなこともあります。ネガティブなイメージしか持たれないのが実情でしょう。

そうは言っても、「価値観が合わない職場で働き続ける」ということが、不幸であることは間違いありません。もしも社員がそう感じれば、普通は退職となるでしょうが、これを会社から持ち掛けてしまうと、たぶん「ひどい会社」という捉え方になってしまいます。

しかし、「ひどい会社」と言われてしまう理由は、退職勧奨は多くの場合、ある日突然行われるからではないかと思います。会社としては、頑張って何とか雇用を維持してきたけれど、いよいよもう限界だというところで退職勧奨となるのかもしれませんが、何も言われてこなかった社員の側からすれば、ある日突然生活の基盤を奪われそうになる訳ですから、恨みを買っても仕方がないでしょう。

ただ、この「ミスマッチ制度」のように、事前に手順を明らかにして、恣意的運用がされない仕組み作りをして、突然ではなく順を追って、「会社としては価値観があっていないと見ているよ」と本人に伝えることは、厳しいようで実は親切な制度なのではないかと思います。

最近ある内輪の集まりで、「会社の仕事がつらい、つまらない」と愚痴をこぼす人に対して、経営者や自営業をしている数人が、口を揃えて「そんなに嫌なら辞めればいいのに」と言っていたことがありました。自分で自分の仕事を決めている人にとっては、そう思えてしまうのでしょう。

人それぞれの事情はあるので、何をどうすべきだと一概には言えませんが、「嫌な仕事をいつまでもやり続けるのは不幸である」ということだけは、私は間違いがないことだと思います。


2016年4月25日月曜日

「育成する場づくり」が難しくなっている



ある記事で、ここ最近は音楽番組が減っているという話題がありました。
昔はゴールデンタイムに放送される歌番組や音楽番組がいくつもありましたが、今はとうとうは一つだけ?のようです。

その理由で大きいのは、やはり視聴率が上がらないということのようで、ネットのおかげでテレビを見る人が減ったとか、嗜好の変化や多様化で何人もの歌手が出演するような従来形式の番組が見られなくなったとか、考えられる理由はいろいろあるようです。

そんな中での問題の一つに、「新人アーティストの売り込みが難しくなっている」ということがあるのだそうです。
これまで音楽番組は、アーティストの新譜プロモーションの場として重視されていましたが、音楽番組が減っていることに加えて、最近は複数のアーティストが出演するスタイルの番組よりも、少数のアーティストを掘り下げるようなスタイルの番組が増え、こうした番組に出られるのはすでに売れたアーティストがメインなので、新人はなかなか出演しづらいのだそうです。育てようにもその場がないということです。

これと同じようなことは、会社の中でもあるように思います。会社によって違いはあるでしょうが、「新人を育成する場、育成する機会が減っている」ということです。

私がかかわることが多いIT業界であれば、特に受託や請負のプロジェクトの場合、新人や初級技術者のチーム参加をクライアントから拒まれるということがあります。「他社の人材育成まで考慮する余裕はない」ということです。
費用は自社持ちでの無償参加を打診しても、「新人の面倒を見るのに他のメンバーの手を煩わせるから」という理由で拒否されることまであります。
仕事を身につけるために、最も重要なのは実務経験ですが、社会人経験の浅い者にそのための場が与えられないというのは、人材育成の上ではかなりつらいものがあります。

また、形の上ではOJTだと言いながら、いきなり単独での営業活動に出させたり、基礎知識がないままで現場に放り出したりするような会社があります。
その厳しい状況を乗り越えられる人もいるでしょうが、「練習しないでいきなりプロの公式戦に出た」という状況なので、活躍できたとしてもごく一握りでしょう。レベルが違う場所に準備なく放り込まれることで、場合によってはいきなりケガ(失敗、挫折、トラブル・・・)をして、結局そのまま引退(退職)となってしまう危険があります。
これも、適切な形で「育成機会を与えられていない」ということでは、同じように思います。

そうは言っても、いくら育成機会を与えたいと考えていたとしても、そこまでの余裕がないという会社がほとんどではないかと思います。それが必要なこととわかっていても、自社の事情が許さないということです。こればかりは、今の環境に合わせて工夫をしていくしかありません。

先ほどの新人アーティストのプロモーションでいえば、最近は音楽番組の代わりに、別の様々なツールを使って仕掛けをしているのだそうです。
例えば、ネットのライブ動画を使って、新譜の発売日に合わせてイベントを仕掛けたり、定期的にミュージックビデオを流したりするのが、最近では当たり前となりつつあるのだそうです。「24時間生放送」などの長時間に渡る放送はツイッターなどネットで話題になりやすく、興味がない人からも視聴や購買につなげられる可能性があるということです。

会社としての育成の場も、いろいろ工夫している例があります。
始めは社内プロジェクトに参加させて技術経験を積ませたり、先輩との同行営業を定期的に組んだり、「ブラザー制度」や「メンター制度」を導入して、相談したり指導を受けたりしやすい体制を作ったり、などということがされています。最も大事なのは「孤独にしない」ということです。

育成する場は多いに越したことはないでしょうが、通常は予算にも時間にも制約があります。そして、その制約はたぶんこれからも少しずつ厳しくなっていくでしょう。
「会社がきちんと教えていない」などという批判ではなく、今の環境に合わせて「育成する場づくり」を工夫していく必要があると思います。