2018年10月29日月曜日

「厳選採用」とは反対のやり方


世の中全体の人手不足で、採用活動をしている会社は多いですが、最近よく聞くのは採用したけれども「仕事ができない」「能力が足りない」など、「思ったような人材ではなかった」というミスマッチの話です。
戦力にならないだけでなく、いることがマイナスになるなどということもあり、そうなるとしっかり法律を踏まえた上になりますが、辞めてもらう話し合いが必要になる場合もあります。それなりの手間ひまがかかりますし、お互いにとって不幸なことなので、そんな事態は少ないに越したことはありません。

こういったことを避けるには、一般的にいう「厳選採用」をするしかなく、求める基準を高く設定して慎重に選考を進めることになります。当然ですが、採用できる人数は少なくなり、社内の人材要望を充足することはできません。
経営者や採用担当者は、この矛盾に悩みながら、ぎりぎりの妥協点を導き出そうとするわけですが、私の今までの経験では、気になったことを善意に解釈しても、だいたいは懸念していたことが当たってしまうので、「たぶん大丈夫だろう」のような皮算用は禁物です。ただ、そんなことを言っていては、人が全く採れなくなってしまうので、本当に悩ましいところです。

このすべての問題が解決できている訳ではないですが、こんな会社があるという紹介記事を目にしました。応募者に対して、会社から「不採用」とは絶対に言わず、「その人に合わせた仕事を作る」というのです。

エントリーの敷居は極限まで下げ、履歴書も不要で面接のような形をとらず、ただ気軽に仕事について一緒に話し合いましょうということをしています。
「どうやって入社してもらうか」ではなく、「どうしたら就職希望者に選ばれる会社になれるか」を考えて、一緒に飲みに行ったりゲームをしたりということもあったそうです。

そうしたことを続けていてたどり着いたのが、「不採用はない」ということで、「すべての応募者には必ず良いところがあるから、何かその人に合う仕事があるはずだ」という前提に立った話になっているそうです。
ただ、現実はそう簡単ではなく、その人に合った仕事を作り出せないことが当然ありますが、そこでは「将来やってほしい仕事ができたら、こちらから声をかけさせてほしい」として、決して不採用とは言わないそうです。

これらの取り組みで、社員からは「良い会社」と評価されて、友人紹介など新たな採用に結び付くことも増えたそうですが、その一方で離職率は決して低くなく、新陳代謝が続いている状態とのことです。社員の同質性を求めていないことや、社内の環境変化の度合いが大きく、そこでミスマッチが発生する時があること、そのことに対する無理な引き留めはしないことなどが要因とのことです。

この話は一例ですが、最近はこのように今までの常識にとらわれない、様々な採用手法をとる会社が増えています。インターンの仕組みでお互いの相性を見極める期間を設けたり、応募書類は一切不要にしてその人の人柄だけで選考したり、紹介やスカウトに会社をあげて取り組んだり、本当にいろいろです。

これら最近の動きに共通するのは、採用基準を厳しくする「厳選採用」とは反対に位置する動きということです。そして、ただ採用基準を下げる、選考を甘くするという動きとも違っています。

これからもいろいろな会社でいろいろな方法が考えられて、実践されていくのだと思いますし、その正解は永遠に出ないだろうとも思います。
ただ、今までの既成概念にとらわれない姿勢と発想が必要なことだけは確かなようです。


2018年10月25日木曜日

「有給休暇」は人の目が気になる? もしもの時の貯金?


厚生労働省がおこなった2018年の「就労条件総合調査」の結果によると、2017年の年次有給休暇の取得率は51.1%とのことでした。
3年連続で増加していますが、政府は2020年までに70%とする目標を掲げており、未だ大幅に下回った状況です。

この話と関連して、最近目にしたある記事に、グローバル企業の本社の人事担当から、「“日本はなぜこんなに休みが多いのか?”とよく聞かれる」という話がありました。
それは祝祭日の日数のことだそうで、日本は現在が16日なのに対し、イギリスの8日、アメリカやドイツの10日、フランスの11日、イタリアの13日など、先進国の中でも多いそうです。

この祝祭日と有給休暇を合わせた休暇日数合計は、フランスやスペインが39日など、やはり欧州各国が上位を占めており、日本は27日とランキングの中位で、米国の24日、シンガポールの25日、韓国の17日を上回っています。
意外に休んでいないのがアメリカで、有給休暇の付与日数が19日で、この消化率は7割以上あるようですが、祝祭日が日本より少ないことで、この結果になっています。

ここから見ると、日本もそれなりに休んでいるといえますが、有給休暇の消化率に限れば、他国がおおむね70%超から100%の状況からみて低くなっています。
日本の場合、どうも独自判断で休むのが苦手のようで、本来は非効率と思える一斉休みの祝祭日も、日本の現状からすれば、今のところは合っているように思えます。

この有給休暇について、もう少し調べてみると、消化率の低さにはいろいろな原因が挙げられていますが、私の目についたのは二つのことでした。
一つは、ある調査で「有給休暇の取得に罪悪感を持つ人」を調べたところ、アメリカは33%、フランスは22%だったのに対し、日本は59%と過半数を超える人が、会社や同僚から反感を買わないかを気にしていました。韓国の69%に次いで多い数字です。
私個人の感覚では、最近はしっかり休みを取る人が増えてきたと思いますが、会社の雰囲気次第というところも、まだまだ多いのかもしれません。実際に人手不足の業種も多いですし、休みづらい人が大勢いるのは確かでしょう。
ここからすれば、来年4月から始まる「年5日の有休取得義務付け」は、それなりの効果はあるのではないかと思います。

もう一つは、自身の病気や体調不良、その他もしもの時のために、「休暇を使わずに貯めておく」との風潮があるというものです。確かにそのおかげで、数カ月の入院を有給休暇だけでしのいだ人を見たことがありますし、数日くらいは休んでも大丈夫なように休暇を残すのは、多くの人がやっていることです。「日本人は貯金好き」で、お金が投資などに回りづらい話と、多少の共通点も感じます。
これは、長期の病欠などのセーフティーネットがあれば良いはずで、実際に傷病手当金などの制度もありますが、こればかりは国民性で、全員がすべての休暇を使い切るまでになるのは、当分難しそうな気がします。

ここまで見てきて思うのは、あまり有給休暇の消化率ばかりにこだわっても仕方がないのではないかということです。休みの取り方は、その国の事情によって様々です。
本来の主旨は、過重労働にならない、仕事とプライベートが両立できるなど、「誰もが働きやすい環境作り」です。そのためにどんな方法が良いのかは、これからも考え続けなければならないと思います。

2018年10月22日月曜日

思い浮かべている形が人によってずいぶん違う「副業・兼業」


大手企業を中心に、副業・兼業を解禁する動きが広がりつつある一方で、厚生労働省所管の労働政策研究・研修機構の調査によれば、4分の3以上の企業で、社員の副業や兼業について認める予定がなく、その理由として、認めない企業の82.7%が「過重労働で本業に支障を来す」と回答しており、企業側の抵抗感が根強い様子がうかがわれるとのことでした。

私は企業が社員の副業・兼業を禁止するからには、相応の報酬と安定を提供しなければならないし、それが無理なら一定の条件の下で、やりたい人にはやらせれば良いという考えですが、そう思う理由として、自分がいくつかの企業と同時並行で仕事をしている、まさに「複業」を実践しているからであり、なおかつ雇われていない事業者の立場ということもあるかもしれません。
「複業すること」それ自体が本業なので、企業関係者の感じ方とは、少しずれているところがあるでしょう。

私がいろいろな企業の人と副業や兼業に関する話をしていて思うのは、人によって思い浮かべているものがずいぶん違うということです。
私が会社員の副業として思い浮かべるのは、自分の空き時間を使った個人事業のようなものでしたが、ある人は二つの会社から雇用される「ダブルワーク」を思っていました。そうなると、確かに会社としてはその人の就業時間管理が難しくなりますし、「過重労働」という懸念もわかる気がします。

会社に在籍したまま、今まで培ってきた人脈や関係先を使って、例えば会社を通さずに自分で直接仕事を請けてしまうような不正を心配する人もいました。確かに競業避止という点で、何らかのルールや罰則は必要になるのでしょう。性善説だけで解決するものではありません。
こう見ると、副業解禁といってもいろいろ面倒そうなことが多く、未だに消極的な会社が多い理由もよくわかります。

一方、実際に副業を雇用ではなく事業でやっている人に話を聞くと、過重労働については全く心配ないと言います。「それくらい調整できなければ副業なんてやらない」そうです。自分で裁量を持った副業、兼業であれば、私も過重労働は起こらないと思います。自営業の過重労働は、売上不足への対応など、それが本業だから起こることか、顧客圧力などで自分に裁量がない場合が大半です。

先の調査結果を見ていて気づいたことがあります。
労働者に対する調査結果では、副業・兼業を「新しく始めたい」との答えが23.2%、「機会・時間を増やしたい」が13.8%だった一方、「するつもりはない」が56.1%と半数を超えていました。
副業をしたい理由では「収入を増やしたい」が85.1%とトップで、逆にしたくない理由は「過重労働で本業に支障を来す」が61.6%、「家族や友人と過ごす時間を重視する」が56.1%でした。

つまり、半数以上の人は「今以上仕事の時間を増やしたくない」「プライベートの自由な時間を減らしたくない」と考えており、副業を解禁したからといって、みんながみんな、それほど前向きではないということです。
反対に副業をやりたい人は、「自分の自由な時間を使って、別の仕事で収入を増やしたい」ということですが、それは今まで余暇にしていた時間を仕事に使ってみるということで、あくまで自分で融通が利く範囲内でのことです。
たぶん過重労働にはならないし、もしそれほどまでに副業が忙しくなったとしたら、それはビジネスセンスがあるということで、本業と副業が入れ替わるくらいの話になりますが、そこまでの成功はめったにありません。

そうやって考えると、私は副業解禁にそこまで抵抗感を持つ必要もなさそうに思います。ただ、いろいろな人から話を聞く限りでは、定着するにはまだ少し時間がかかりそうな気がします。