2017年6月30日金曜日

「会社での経費精算」の話と、仕事とプライベートを切り分ける難しさの話



会社勤めの人であれば、ほぼ全員が何かしらの「経費精算」をしたことがあると思います。ここで言う「経費精算」とは、業務上として会社に認められた経費を個人が立て替えたときのことです。

通勤経路とは異なる業務上移動の交通費、セミナー参加費、打ち合わせの会場費や飲食費、顧客との懇親会費や接待交際費、その他いろいろあります。
もちろん、無制限に何でも認められる訳ではなく、それなりに細かい支給基準が決められているでしょう。それでも切り分けがしにくいグレーゾーンのもの、どっちつかずのあいまいなものは必ずあると思います。そんなとき、これも良いこととは言えませんが、上司判断で認めてくれたり、自己判断で調整したりして、「常識の範囲」で適宜処理しているのではないかと思います。

特に懇親会や接待というのは、仕事のような仕事でないような、本当に必要性があるのかないのか、あいまいな部分が大きいものです。上司承認、一回の金額、予算額、一次会だけに限るなど、いろいろな基準があると思いますが、「仕事とプライベートの境目をはっきり決める」というような話なので、そう簡単に割り切れるものではありません。
中には自腹を切ったりする人もいますが、どちらかと言えば最近そういう人は少なく、会社で認められる範囲だけ、もしくは面倒だから一切やらないなど、行動を抑える方向に向くことがほとんどでしょう。

ここで、私たちのような自営業の場合は、このような形の「経費精算」というものは存在しません。経費かどうかという切り分けはしますが、あくまで税務処理上の話で「自分が立て替えた」とか「自腹を切った」というような感覚はあまりありません。自分が必要だと思うことにはお金をかけても動き、結果としてそれが経費として認められるかどうかということです。

そんなわけで、仕事かプライベートかの切り分けの難しさが行動の制約になることは、あまりありません。あくまで仕事に役に立つ可能性があるかどうかだけで判断しますから、結果としてはただ飲み食いしているだけ、ただ遊んでいるように見えるだけということも数多くあります。
しかし、そんな無駄とも思える関係の中から、仕事の話につながることも少なくありません。1か月後のことも10年後のこともありますが、話があるということはそれなりに意味があるということです。

これは仕事のやり方にかかわらず当てはまることですが、リーダー、マネージャー、ほか組織のまとめ役になっていくほど、今やっていることが果たして仕事なのか、それともプライベートなのかという切り分けの難しい場面が増えてきます。
このあたりの管理のしかたは会社によっていろいろあり、その基準は予算や規定や個人のモラルや誠意の場合もあります。切り分けるための基本的な考え方は必要でしょう。

ただ、ここで一つだけ言えるのは、「仕事とプライベートの切り分けを厳格にしようとすればするほど行動がしづらくなる」ということです。

最近の発表された日本生産性本部が新入社員に行った調査の中で、「職場の同僚、上司らとは勤務時間以外は付き合いたくない」との回答が過去最高の30・8%に上ったという結果がありました。仕事は仕事、プライベートはプライベートと、切り分けをはっきりしたいということだと思います。

最近は「仕事とプライベートの切り分け」を重視する人が増えているということで、その職業観の前提として、仕事は「誰かに強制されるもの」「嫌でもやらなければいけないもの」「生活するために仕方がないもの」という意識があります。
しかし、「仕事は楽しいもの」「やりたいことや好きなことと合致したもの」「結果を求めてやり続けたいもの」であったとすれば、「仕事とプライベートの切り分け」ということは意味をなさなくなります。

ちなみに私たちのような自営業にとって、仕事につながる機会が少なくなるというのは、絶対に避けたいことで、「仕事とプライベートを切り分けること」がその制約につながるとしたら、それは仕事をする上ではマイナスということになります。行動を制約するよりは、行動してからそのつじつまを合わせようと考える方が、よほど重要です。

ただ、会社の経費精算という仕組みは、どちらかと言えば行動をしないことにインセンティブが働きます。日本の企業では一般的で当たり前なことですが、大事なことをやらない、やらずに済ますという方向に導いている可能性があります。

経費精算の仕組みを厳格に運用していると、本来するべき行動をやめている可能性を考えなければなりません。

2017年6月28日水曜日

「社員の定着」で“やるべきこと”と“割り切ること”



日本生産性本部がおこなった「2017年度新入社員春の意識調査」で、「あなたは一つの会社に、最低でもどのくらい勤めるべきだと思いますか?」という設問に対し、「それなりの理由があれば期間は関係ない」という回答が23.8%となり、「2~3年」と答えた32.7%に次ぐ数字になっているそうです。

この「期間は関係ない」との回答は、前年比で6.3%増えており、「最低3年は辛抱」などと言われていたことが、昨年あたりからの売り手市場を背景に、意識が変化してきているということです。
相当苦労して確保した新入社員ですが、その定着には工夫が求められそうだと言われています。

もう一つ、これはソニー生命がおこなった「社会人1年目と2年目の意識調査2017」からですが、「最初に就職した会社でどのくらいの間働いていたいと思うか」という設問に対し、社会人1年目では「定年まで働きたい」との回答が33.0%と3人に1人だったのに対し、社会人2年目ではこの回答が17.4%と半減し、代わりに「既に辞めたい」との回答が24.8%と1年目の3倍近くに増え、4人に1人がそう思っているという結果になっていました。

「定年まで」と言っていた人がそのまま「既に辞めたい」に入れ替わった訳ではありませんが、実際に働いた1年間で、就職前に抱いていたイメージとのミスマッチから、辞めたいと思うようになる人がこれほど多いということです。
入社前に良い話、希望のある話、前向きな話ばかりをしているということで、仕事の厳しさや大変さ、自社の実態や課題などをしっかり伝えていないことの証明と言えるでしょう。

社員の定着というのは、多くの会社で課題になっていて、私もアドバイスを求められることが多いテーマです。ただ、一筋縄でいかないのは間違いないことで、細かなことの積み重ね、個別対応といった取り組みにならざるを得ません。

特に新入社員は先行投資の要素が強いので、一定期間以上の定着が大きな課題となります。多くの会社がいろいろな取り組みをしていますが、早期退職の大きな理由がこの入社前後の認識ギャップということを考えると、入社後に対策することよりは、事前にお互いのギャップを埋めることに力を注ぐべきだと思います。結婚してから隠し事やウソが発覚すれば、それが離婚につながってしまうのは当たり前のことでしょう。
新入社員が定着するために会社がやるべきことは、「入社前後での認識ギャップを減らすこと」に尽きると思います。

その一方、私はある程度割り切らなければならないことがあると思っています。
まず、認識ギャップを減らすと言っても、しょせんはどこかに限度があります。会社を辞めると世間から白い目でいられるとか、何か自分にとってのデメリットがあるとか、そんな歯止めでもない限り、本人が決心してしまえばそれを止めることはできません。退職引き留めを強くおこなう会社がありますが、それは本人との関係を悪くするだけです。一度辞めると決心した人のことは、もうあきらめるしかありません。

もう一つ、これは認識ギャップというよりは、人材との相性ギャップと言ってよいと思いますが、自社の風土や仕事の進め方、既存社員のタイプなどには必ずしも合わない人材を、「優秀だ」「今の会社にいないタイプだ」などといい、悪い理由では「人数合わせ」などで採用しているということです。

例えば、求める人材像として最近よく言われる中に、「自律人材」というものがあります。
自分で考え、判断して、積極的に行動できる人ということですが、もし新入社員がそういう行動を取ったとしたら、困る会社がたぶんほとんどでしょう。
そもそも、本当の意味での「自律人材」は、組織に依存しないで物事を自力で解決しようとするでしょうし、雇われること自体もあまり好まないかもしれません。もともと定着しにくい人材をつなぎ留められるほどの何かが会社になければ、いずれ辞めていくのは仕方がないことです。

また、「今の会社にいないタイプ」は、その人から見れば「自分と気が合う人は会社にはいない」ということになります。野球チームに1人だけサッカー選手を入れるのと同じで、本人は場違いな感じで面白くないでしょうし、本来は会社だって活かしようがないはずです。
しかし、こんな当然と思える話も、「会社の雰囲気を変えたい」などと言ってやってしまう会社は、意外にたくさんあります。

社員定着に向けた取り組みは必要ですが、一方で割り切らなければならないこともあります。
やるべきことは「お互いの認識ギャップを埋める努力」であり、割り切るべきことは「お互いに埋められない溝を知る」だと思います。

2017年6月26日月曜日

「いま頼りになる人」が改革に不向きな理由



どんな組織にも、この人がいなければ仕事が回らないという中心人物、キーマンというのは、必ず何人かいると思います。

仕事全体の流れを知っていて、現場で動くメンバーに対するリーダーシップが取れる人、いちいち指示をされなくても自分で判断しながら動ける人は、特に日常業務を進める上では重要な存在です。
経営者やマネージャーから頼りにされるのは、そういう立場で仕事が進められる人であり、そういう人ほど仕事が集中して忙しく、経営者やマネージャーだけでなく、部下からもいろいろなことを頼られます。仕事上の中心人物ですから、当然いろいろなことで意見を求められます。

私が企業の組織改革などのテーマでコンサルティングに関わる時、それを進めるプロジェクトメンバーや意見交換の窓口には、そんな社内のキーマンが必ず名を連ねています。
私たちのようなコンサルタントが、その会社の問題点を把握するためには、そんなキーマンたちから意見を聞くことが必須になります。事実その人たちの話から、本質的な課題指摘や改善テーマが浮かび上がってきます。

ただ、そんなキーマン、言い換えると「いま頼りになる人」に、それらの課題をこれからどうやって克服、改革していくかを聞いてみると、意見としては出てくるものの、なかなかそれが実行に移されるところまで行きません。みんながみんなとは言いませんが、“いま頼りになる”キーマンは、改革の必要性までは言うものの、その先の具体的な話がなかなか進みません。さらに何か決まったことがあったとしても、それに対する実行力が思いのほか弱かったりします。これは一部の会社に限られたことではなく、私が多くの会社で見かけてきたことです。

会社の中心メンバーですから、その意見はないがしろにはできないですし、課題指摘としては正しいものが多いので、これからどうすべきかを考える材料にはなります。
ただ、「現状を変えよう」と具体的に行動する力は、必ずしも強くはありません。

私がまだコンサルタントとして駆け出しの頃は、とにかく社内のキーマンから実情を聞き出して、その後の取り組みにいかに協力してもらうかということを考えていました。しかし、いろいろな会社の現場を積み重ねる中で、そんなキーマンから得られる情報は、現状の問題点については的確であるものの、そこから先をどうするかといった改革の方向性や具体策といったものは、抽象的なままで終わってしまうことが多々ありました。

この理由をずっと考えていましたが、ある時に何となく気づいたことがありました。それは仕事のキーマン、言い換えて「いま頼られる人」というのは、現状の仕事の進め方に最適に順応した人だということです。これは本人の努力の結果でもありますが、今の仕事の進め方、今の仕組みが、自分にとっては最も仕事が進めやすい形になっています。

そうなると、現状の問題点くらいの意識はありますが、本人は現状に合わせて自分なりの仕事の進め方を組み立てているので、本音の部分で不自由を感じていません。多少非効率な部分があったとしても、特に日常業務の中では慣れたやり方が一番やりやすいということです。今の作業環境に最もなじんだ人なので、それを変えようという意欲は、必ずしも高いとはいえません。

今の環境の中での最適を追いかけているので、その枠から外れたことを問いかけても、そこまでの意識はありません。決められたルールの中でどうすれば良いかは考えていますが、そのルール自体を変えるところまでの発想はありません。いざ何かを変えようとするとき、抵抗勢力になってしまうことさえあります。

私は「現状ではやりにくい」「面倒くさい」というような感覚がなければ、組織変革、改革は進められないと思っています。しかし、現状のキーマン、もしくは「いま頼りにされている人」は、今に合わせることを意識して、現状で最適な仕事の進め方を会得した人たちです。現状が最適な人に「変える」ということを求めても、なかなか変革にはなかなかつながりません。

「いま頼りになる人」というのは、いくらリーダーシップがある中心人物であったとしても、何か現状を改革しようという時には不向きという場合があります。本音としての現状不満がなければ、改革意欲にはつながらないということは、意識しておく必要があります。