2018年9月27日木曜日

自分で「完結」できない人たち


つい先日ですが、最近独立して仕事をし始めた人が、こんなことを言っていました。
「会社員が恵まれていることがよくわかった」といいます。「今まではいかに周りからサポートしてもらっていたかということを思い知った」のだそうです。

これは独立すれば当然ですし、会社員であっても小さな企業であれば同じようなことですが、自分の身の回りのことは、基本的に全部自分でやらなければなりません。この人もそれは十分わかっているつもりでしたが、実際に独立してみると、そのやらなければならないことの量が、自分の想定を大きく超えていたそうです。

それまでは比較的大きな企業にいたこともあり、例えば契約関連は法務、事務手続きは総務や庶務、IT関連は社内システムなど、ほとんどの仕事が細かく分業されています。何かわからないことがあっても、必ず社内にそれを知っている人がいますし、それに関する作業を代行してくれたりもします。

出張するとなれば、交通機関や宿の予約をしてくれたり、様々な雑務のようなことは誰かが代わりに面倒を見てくれたりします。細かいことを手伝ってくれる部下や同僚も身近にいます。
そんな環境に慣れきっていたため、いろいろなことをいざ自分でやるとなると、よくわからないし面倒だし、そういうことの多さに面食らっていて、とにかく苦痛でたまらないのだそうです。

私も同じように独立して仕事をしている立場ですから、同じように何から何まで基本的には自分でやらなければなりません。その量は確かにたくさんありますが、実は私はそれを苦痛と思ったことはありません。
その理由は大きく二つで、一つは「自分に身の回りのことは自分でやりたい性格」ということ、もう一つは「自分のことは自分でやる職場環境で育ってきたから」ということです。
それまでも自分でやってきましたし、そもそもそれが普通だと思っていたので、違和感はほぼありませんでした。

私が最近感じていることに、「自分でやるべきことを自己完結できない人が増えている」というものがあります。
指示と命令ばかりで自分では手を動かさず、指導やアドバイスなどといって口先だけが動き、誰かに頼らなければ、自分の身の回りのことが「完結」できません。なぜそんな人が増えたのかを考えると、これは私の周りにいる人のタイプが変化してきたせいかもしれないと思っています。

一つは自分の年令と合わせて周りの年令も徐々に高くなっていることで、行動力が落ち、代わりにオジサン的な横柄さが増して、他人に命令して自分のことをやらせるのに躊躇がなくなっています。
もう一つは、仕事で付き合う関係者に、大企業出身者の比率が増えてきていることですが、これは、周りが何でも面倒を見てくれて、自分で「完結」する必要がない環境に慣れ切っているからだと思っています。

組織に属していれば、お互いがお互いをカバーし合うのは当然ですが、そのことに疑問を持たずに染まっていくと、いつの間にか自分のことを自分で完結できなくなってしまいます。染まっていることに気づいていないとなれば、それはさらに不幸です。

本来自分でやるべきことを「自分以外の誰かに指示する、任せる、やらせる」というのは、効率を考えると必要なときはありますが、私は「自分のことは自分で完結できる」という前提があってこそだと思っています。


2018年9月24日月曜日

樹木希林さんと山本KIDさんの言葉にあった共通点


女優の樹木希林さんと格闘家の山本KID徳郁さんが、お二人ともにガンでご逝去されました。才能のある素敵な人や、まだ若くてこれからという人が亡くなると、本当に惜しいと思いますし、つい自分の健康のことも考えてしまいます。

そんな中、たまたま読んだそれぞれ別の記事に、こんな話がありました。
一つは樹木希林さんが、亡くなる2か月ほど前の取材でお話されたコメントで、「あんまり頑張らないで、でもへこたれないで」という言葉が紹介されていました。
もう一つは、山本KIDさんが、同じ格闘家の妹に残したメッセージとして紹介されていた、「心配すんな、でも安心すんな」という言葉でした。

お二人は年令も仕事も違いますが、たまたま同じ時期に同じガンという病気で亡くなり、そのお二人の言葉のニュアンスがよく似ていて、しかも自分が共感できるものだったので、つい注目してしまいました。
お二人の言葉から、私は物事には良いことも良くないこともどちらもあるのだから、極端に舞い上がったり落ち込んだり一喜一憂したりせずに、平常心を保ちなさいという意味だと捉えましたが、この言葉を発したお二人の心情は、どういうことだったとかを少し考えました。

メディアなどを通じての情報しかないので、ここから先はあくまで想像ですが、お二人ともとても愛情豊かで周囲の人にも優しく、面倒見がよく、人間的にも素晴らしい方だったと聞きます。
そんな他人に対する「真の心の優しさ」を持った人というのは、決して相手を罵倒したりけなしたりせず、だからといって甘い言葉ばかりをかけたり、一方的に手助けすることもせず、その人にとって本当に必要なことは何か、自分がどう振る舞えばその人のためになるのかをいつも考えています。

こういう人は、「励ましながら油断させない」「手助けしながら依存させない」「責めないが甘やかさない」など、かかわり方の距離感、バランスが素晴らしいです。そして、これが大事なのは、企業の人材育成をはじめとした人間関係においても同じです。

企業の中で意外によく見られるのは、「言っても無駄だから言わない」「誘っても来ないからもう声をかけない」といった一方的なあきらめや、反対に「無理にでもやらせる」「辛くても我慢させる」といった一方的な強制です。

ただこれも、「あきらめが肝心」と言いながらも「継続は力なり」ですし、「早い者勝ち」といったかと思えば「残りものには福がある」といいます。「石の上にも三年」で我慢が大事と言ったり、「案ずるより産むが易し」とまず行動を促したりします。すべてのことがどちらか一方だけで終わることはありません。

人間関係の中で、相手とは近すぎても離れすぎても良くありません。いい距離感を持った組織やチームは、みんな心地よく仕事をしています。
お二人のご冥福をお祈りするとともに、偶然目にしたそれぞれの言葉の共通点から、あらためて大事なことを思い出させてくれたと感謝しています。

2018年9月20日木曜日

「寄り道人材」とそれを受け入れる企業が増えていること


新卒採用に関して、留年、休学、浪人、その他人生の回り道をして、新卒での就職を急がない人たちが出てきており、企業側でもこの「寄り道人材」を対象にした募集活動を始めるなど、横並びの新卒一括採用が変化しはじめているとの記事がありました。

記事の中では、中学から常に成績トップで、東大に現役合格してそのまま大学院に進もうとしていたが、急に降ってわいた「やりたくない」の気持ちから休学し、「1年後は未定」という人や、自ら生計を立てて自分に向き合いたいと大学を休学してアルバイトに集中している人は、「いずれ大学には戻るつもり」で「焦りはあるが祭りのような就活に入っていくのが怖い」と言っています。
他にも起業、社会活動、海外生活など、学校卒業と同時に会社に就職するという従来ルートを選ばない人が増えているそうです。

今まで新卒採用をしてきた企業側担当者の感覚でいうと、30歳近くで社会人経験がないとなれば、それをプラスに捉えることは、よほどでなければありません。
しかし、その感覚は「新卒一括採用」の前提があればこそで、もしそうでなくなったとしたら、その人のいろいろな部分を、先入観にとらわれずもっとフラットに見なければなりません。

学生も、今までのように、新卒一括採用に乗り遅れると急激に就職が難しくなることがなくなれば、学生生活での選択肢は増えていくでしょう。休学、留年、浪人、さらに留学や他大学に入り直すなど、ただ年次が遅れたことだけで不利な扱いをされたり、その期間に取り組んだ内容が評価されなかったりということはなくなります。

新卒一括採用は、採用活動やその後の教育をまとめておこなうことの効率性、同期のつながりを作るなどのメリットがありますが、人数が充足できない、入社しても辞めてしまうとなると、そのメリットは薄れていきます。特に中小企業では、今まさにそういう状況になっています。

私がいろいろな企業の方々と話していて、今でもやはり「新卒採用」に関する信仰があちこちにあります。新卒の方が中途採用よりも「素直で吸収力がある」「自社の風土になじみやすい」「定着率が良い」などといいますが、素直さや吸収力は個人差ですし、なじみやすいのも本人たちが他に比較対象を持っていないからそう見えるだけかもしれませんし、大卒の3割が3年以内に辞めると言われますから、定着が良いとも言い切れません。

つい先日、就活ルールの廃止に言及する話題がありましたが、基本的には新卒採用の通年化を念頭に置いた話で、この「寄り道人材」の動きとも合致する話です。

私自身は、今まで新卒一括採用が当たり前の中で来ましたが、今の流れを見ていると、実はこ知らの方が自然な姿ではないかと思っています。
みんなが同じような時期に、同じような服装で、同じような活動をして就職するというのは、よく考えれば異様ですし、それは終身雇用という前提があればこそ成り立つものです。
みんな一緒は確かに効率的ですが、レールに乗った大多数の人と同じ経験が、良いことばかりとは限りません。やり直しや敗者復活は、今の方が確実にやりやすいでしょう。

人と同じが心地良く安心な人はたくさんいますが、人それぞれの人生、画一的にまとめようとするのは、やはり無理があります。
いろいろな経験を企業が受け入れようとする動きは、私は良いことだと思います。