2017年8月18日金曜日

トヨタの「効率よい働き方の新制度」はそれほど新しくはなかったが・・・



最近の報道で、トヨタ自動車が効率よい働き方を促す新制度を導入したというものがありました。
各社の記事には「裁量労働制の拡大」とか「脱時間給」とか「高度プロフェッショナル人材制度に代わるもの」とか、いろいろなことが書かれていたので、果たしてどんな制度なのか興味を持ってみたところ、見出しとのあまりの違いにちょっと驚きました。

内容としては、残業時間に関係なく毎月45時間分の残業代(月17万円)を支給するというもので、実際の残業が45時間を超えれば残業代を追加支給するのだそうです。事務や研究開発に携わる主に30代の係長クラスの約7800人が対象で、本人が申請して会社が承認する条件とのことです。

本人申請という点は確かに特徴的といえばそうですが、それ以外の点は、法律に則った「固定残業代制」と何ら変わりはありません。目的が「効率よい働き方を促して生産性を高める」ということなので、それは運用次第で可能かもしれませんが、世間一般で“新しい”とまでいえる内容ではありません。

トヨタでは、すでに法規定に則った企画専門職に対する裁量労働制を導入しているということですが、報道されていた「裁量労働制の拡大」とは全然違いますし、法に則って残業代を算出して追加支給もするということですから、「脱時間給」ではまったくありません。そんなことから「高度プロフェッショナル人材制度」とは何一つつながることはありません。

中には正しく報道したところもあったようですが、なぜこんな事実とかけ離れた報道が数多くされたのか、理由はよくわかりません。トヨタほどの会社がやることだから、画期的に新しいことだと思い込んでしまったのか、もしくは何か強く期待するところがあったのかもしれません。

興味を持って記事を読んだ私は期待外れ感が満載ですが、それはさておき、私も企業の人事制度を作るということに数多く取り組む立場から言わせてもらうと、現状の法規制の中で報酬をある程度固定給にして、その範囲で自己裁量によって働いてもらおうという仕組みを考えると、現状では結局こうするくらいしか方法がないということです。

この「固定残業代制」は、労働時間に関わらず一定の残業代相当額を保証するものですから、長時間残業が削減されなければ、会社としては負担増になります。この制度が直接効率化につながるものではないですし、日々のマネジメントは当然それなりに必要になります。

また、見方によっては、所定労働時間に固定残業分の時間がプラスされたということも言えます。運用として、全員を固定残業分の時間数ギリギリの労働時間で管理することが一番効率的ともいえるので、運用のしかたによっては自由な働き方にはなりません。
経営者は無駄な時間稼ぎをするような働き方は許せないでしょうが、その一方で相変わらず残業代未払いが多数発覚してくる現状では、労働時間規制を外せば働く側が不利益を被る危険性は高まるでしょうから、給料と労働時間の関係を安易に切り離すのも好ましいとは思えません。

トヨタ自動車の新制度は、それほど新しいものではなかったですが、こうやって社員の働き方の選択肢を増やし、その組み合わせの中で日々の管理をしていくしか、効率化を進めていく方法はないことを示したということでは、意義があるのだと思います。

「仕事の成果は時間数だけじゃないけど時間数もある」とあらためて感じます。


2017年8月16日水曜日

人手不足でやっぱり増えているミスマッチ



ある調査によると、主要企業121社を対象に実施したアンケートでは、36%の企業が人手不足を感じており、景気拡大が期待される一方で、商機を逃す要因にもなりかねないことに警戒する企業が増えているという話題がありました。

その対策について、外国人の積極採用やITを使った省力化投資といったものがありますが、やはり一番は採用活動の強化ということです。
私の周りの企業でも、何かしらの採用活動をおこなっているところは非常に多く、なおかつなかなか決まらないという話を数多く聞きます。応募自体がほとんどないとか、採用基準や募集要件を見直してもなかなか決まらないとか、相当に厳しい様子がうかがえます。
採用活動にかかわる相談も数多く受けますが、小さな工夫の積み重ねでできることはあるものの、即効性のある取り組みはそれほど多くなく、本当に厳しい状況です。

その一方、同じく最近増えている相談は、社員のミスマッチに関わるものです。せっかく採用できたのに、その社員の仕事ぶりがあまりにも期待外れで、どうやって教育すればよいのかわからないとか、中にはあまりにも能力が足りないので、試用期間中で解雇できないかなどというものもあります。
またこのミスマッチが、特に最近は食い違いの度合いが大きくなっている感じがします。

その大きな原因は、自社の仕事に適性が低い人を採用しているということでは、やはり企業側にあるでしょう。
ただ、特に中小企業の採用活動というのは、すでに人員不足や業務過多がどうしようもないレベルで起こっていて、かなり切迫した状況で活動をしている会社が数多くあります。そうなると応募者の中で何とかなりそうな人をとにかく早急に選ぶということになりますから、多少のミスマッチには目をつぶっているようなところがあります。そんな事情を考えれば、会社側ばかりを一概に責めることもできません。

またこのところ、新たに採用した人が1週間で辞めたとか、中には3日で辞めたとか、そんな短期での離職を耳にすることが増えました。就職難の頃にはあまり聞かなかったことです。
売り手市場ということで、応募者の側もあまり仕事内容を理解していなかったり、自分の適性に合うかどうかを考えていなかったり、仕事を身につける努力をしなかったり、少しでも嫌なことは我慢しなかったりということが増えているようです。
以前であれば入社できなかったような会社に入ることができてしまったが、要求レベルが高くて苦しいなどという話も聞きました。
やはりこれもミスマッチということで、働く側にとってもあまり幸せなことではありません。

これらの動きは、求人企業と求職者の間に市場原理が強く働いているということでは仕方がないことですが、望ましいのはもう少しお互いの力関係がイーブンに近いことだと思います。ただ、人口減少の日本では、今後そうなる見通しは今のところほとんどありません。

売り手と買い手がいびつな関係は、局所的には勝ち組が生まれるでしょうが、全体としてあまり良いことはありません。条件が良い一部の会社に人材が集まれば、特に中小企業ではもう人は採れません。
かたや何もしなくても人が集まり、かたや何をしても人が集まらないということになり、そうなると採用広告や人材紹介などの人材ビジネスも成り立たなくなります。人手不足倒産のような話もこれから増えてくるでしょう。

こればかりは国策レベルの取り組みがあって、なおかつそれがかなりうまく進まない限りはなかなか改善されそうにありません。
今できることといえば、人手不足にはその会社なりにできることを考えて続けることと、売り手である応募者と買い手である企業という当事者同士が、ミスマッチを避けるためにお互いをしっかり見ていくことくらいしかありません。

考えれば考えるほど出口がない話になっていきますが、果たしていつか出口は見えるのでしょうか。私はまだちょっと先が見えずにいます。

2017年8月14日月曜日

「なぜ労働生産性が低いか」の仮説を見直さなければ残業は減らない



ある新聞記事で、働き方改革に伴う大手企業の残業抑制策のしわ寄せを、中小企業が受けて苦しんでいるというものがありました。

記事にあった例は、これまで顧客先に出向いておこなうことが多かった打ち合わせが、午後5時以降に顧客企業の担当者が会社に来て打ち合わせをすることが増えているということで、それによって合わせて作業する社員たちが、残業せざるを得なくなって退社時間を遅くなっているということがあるそうです。

その理由を顧客先に聞くと、自社では残業が制限されて夕方以降会社に残れないので、会社には直帰することにして、外注先で打ち合わせをさせてもらっているのだそうです。また自社からは「外注先に依頼できる仕事はできるだけ外注先に」と指示されていて、仕事量や時間の面での無理に対応してもらっていることへの感謝の言葉があったそうです。顧客先の担当者も無理強いしていることを承知していて、そのことに罪悪感もありながらも仕方なく、外注先の中小企業に多くの依頼をしている様子が見えます。

ここから見ると、現場の社員が残業抑制でやり切れなくなった仕事をどうにも減らすことができず、誰かに押しつけるしか手段がなかったということで、これまでは社内で処理していた仕事までも、自分たちの裁量の中では比較的モノが言いやすい外注先、下請け企業にまで押しつけが及んでいるということです。

この残業抑制については、いろいろな企業でしわ寄せが出てきている話を聞きます。サービス残業が増えたとか、やるべき仕事が残業時間を理由に先送りしていたり、手つかずになっていたりしているといいます。
やはりこれは、当初考えられていた「残業をする理由」の仮説が、かなり違っていたということではないかと思います。

少し前までは圧倒的な多数意見で今でもなお言われている話として、「日本人の労働生産性が低い」というものがあります。これに対して多くの人が思っていたのは、「一人一人の時間の使い方に無駄が多く、もっと作業効率が上げられるはず」「生活残業、付き合い残業のような無駄な居残りが多い」など、社員個人の仕事ぶりに注目したものです。

経済団体の大御所のような人から中小零細企業の経営者まで、この「労働生産性が低い」ということを取り上げ、それは社員の作業効率が悪いからで「必要な残業はあるが無駄な残業が多い」などと言い、社員個人に生産性の向上を求めました。会社がやったことは残業時間を厳しく管理することだけで、実際の仕事のやり方にまで策を講じた会社はごく少数でした。
中には「会議の回数や参加者の制限」、「事務手続きの簡素化」「IT導入による効率化」といった、仕事のやり方そのものを効率化する取り組みを全社的におこなったところがありますが、ほとんどの会社ではこのあたりの取り組みはほとんどなく、ただ「残業時間」だけが制限されました。

その結果として起こっているのが、この記事で書かれていたようなことですが、これは明らかに「時間に対する仕事量が多くてこなしきれない」ということで、それも現場判断で調整できるレベルではないということです。

社員の働き方を見ていると、確かに「効率が悪い」「要領が悪い」「サボりが多い」など、個人の仕事ぶりに関する問題があります。さらに「帰りづらい雰囲気」「付き合い残業」のような職場環境の問題や、「生活残業」のような経済的な問題もあります。そして、当初思われていた「生産性が低い理由」「残業が多い理由」の仮説は、この点が中心だったように思います。

ただ、これまでやられてきた残業抑制の取り組みから見えてきた実態は、社員個人の問題だけではなく、会社の仕組みや慣例に無駄があったり、上司が無駄な仕事をさせていたりということも数多くあることがわかってきています。そしてその手の問題を社員個人が直すのは難しいことです。会社への提言や上司への反論というのは、仮にそれをできる可能性があったとしても、なかなかハードルが高いものです。

今の日本の働き方の実態を見て、「長時間労働」の防止ということは、これからも取り組んでいかなければなりません。ただ、これまでの仮説をもとに社員個人に改善をゆだねているだけでは、なかなか物事が進まないと思います。会社も上司も社員も一丸となって、仕事の進め方を考えていかなければなりません。