2020年7月30日木曜日

「在宅勤務」をめぐる対立やもめごと


少し収まったように見えたコロナ禍が、また拡大しつつあります。
そんな中、当初の緊急事態宣言と、それに伴う外出自粛要請をきっかけに広まった「在宅勤務」について、ここ最近、会社と社員の間で対立が生じていたり、もめごとになっていたりする話をよく耳にするようになりました。
一方的な話も多いので、実態がどうかはわかりませんが、少なくとも意見の食い違いが起こっているのは間違いありません。

ある会社の社員ですが、緊急事態宣言中は時差出勤や一部在宅での作業が認められていたのが、宣言解除に合わせてすべて元通りの勤務体系に戻りました。在宅でも可能な仕事が結構たくさんあると感じていた社員たちにとっては不満の声も多く、実際に会社に要望したり交渉したりする社員もいたようです。
それに対する会社からの答えは、「社員が直接顔を合わせて働くのが、本来の仕事の在り方である」「今回の経験でそれがよくわかった」ということでした。一体感、チームワークといった精神論を言われるだけで、まったく納得できない説明だったそうです。

そもそも、すべての仕事が在宅勤務で成り立つとは、社員もみんな思っていませんし、在宅勤務が原因の業績悪化があるとか、仕事上の支障があったとか、何かしら論理的な理由があれば納得もできますが、そういう話は一切なく、ただ「元通りの働き方が一番」と言われるので、社員の間では不満が渦巻いているといいます。仕事ぶりが似た同業者の中には、在宅勤務を推進している会社もあるそうで、そんな様子も社員の不満に輪をかけているそうです。
私に話をしてくれた人も、「まだ行動は起こしていないが、本当に辞めて転職しようと思い始めている」と言っていました。

また、これはある会社の幹部社員で、緊急事態宣言の間は最低限の回数の時差出勤と在宅勤務で仕事をこなしていたそうですが、宣言解除後に会社は時差出勤を継続しながら、その回数を少し増やすことにしました。業績数字の落ち込みが見られ、営業活動の停滞が原因とみて、その対応を考えた上での判断です。
既存顧客が多いので、電話やメール、リモート会議などで営業活動はできますが、「連絡をしない」「相手からのアクションを待つだけ」など、手抜きやさぼりが原因と見られる売上低下が目につき、定期的に仕事ぶりを管理する必要性を感じたためとのことでした。

しかし、この方針に対して強硬に反発する社員がいるそうです。「社員を感染の危険にさらすのは許せない」「私は出勤しない」と言ってきて、対応に困っているそうです。
実はこの社員は、以前から不平不満が多い問題社員だそうで、今回の業績低下でも、突出して何も仕事をしていないことが明らかにわかるそうです。
「昔から仕事をしないのに文句ばかり言ってくる」そうで、あらためて話し合いの場を持つ予定だそうですが、それもどうなるかはわかりません。
この幹部社員は、「そんなに会社が嫌なら辞めてくれてもいいのに」と愚痴っています。

他にも、会社は在宅勤務中心の体制を推奨しているにもかかわらず、自発的に毎日出社するような社員がいることも聞きます。そうせざるを得ない事情があるのか、本人の勝手な意思なのかは何とも言えません。

これらの話は、すべてそれぞれの立場で「誰が間違っている」とは言えません。
あるのは、主観に終始した説明不足であったり、一方的な主張だったり、それぞれのことに関する感情的な反応です。一方にとっては理不尽でも、もう一方にとっては理がある話だったりします。
そもそも「在宅勤務」と「出社しての勤務」の間に善悪はありません。どんなバランスで使い分けるかという話で、それは仕事内容や会社ごとの事情で変わってきますし、どんなバランスが適切と考えるかは、その人の立場や考え方によっても変わります。

この対立やもめごとを回避するには、関係者が話し合って、納得できるバランスを自社なりに見つけ出していくしかありません。
誰かのリーダーシップで決めても良いですが、その際でも社員の意見をよく聞き、対応を柔軟に変えることが必要でしょう。この件に関しては、考え方の個人差があまりにも大きいからです。

いずれにしても、働き方はこれまでとは大きく変わってきており、今までのままとはいきません。頑なに変化を拒否して乗り遅れてしまうと、取り返しがつかなくなってしまうことだけは確かではないでしょうか。


2020年7月27日月曜日

情報共有に“前向きな”会社と“軽視する”会社 


新型コロナの感染増加に関する情報で、「夜の街」という言葉がよく出されています。「接待を伴う飲食店」とも言っていて、どうもホストクラブやキャバクラあたりを指しているようですが、そもそも接客しない飲食店というのはほぼ存在しないわけで、具体的にどんなお店のことを言っているのか、今一つはっきりしません。
ざっくりとした地名が挙げられて、「避けてください」などと言われますが、こういう情報の出し方では、ごく一部の危険性があるお店とそれ以外のそこまで危なくないお店との区別がつきません。

例えば「雨が降りそうだから出かけない方が良い」と言いながら、どこでどのくらいの時間、どの程度の強さの雨が降るのかという情報が、ほとんどわからないのと同じ状態なので、実際にどう行動するかを判断するのは、限りなく個人の感覚的な話になります。多くの人は、たぶん安全サイドで判断するのではないでしょうか。今のように、公的な情報があいまいで中途半端では、お店によっては「営業妨害」と感じてしまうところもあるでしょう。
情報の出し方、共有のしかたにはいろいろ難しさがありますが、もう少し工夫しなければいけないと思います。

企業の情報共有でも、私は会社によってかなり温度差があることを感じてきました。
情報共有に積極的な会社は、その方が「仕事が効率的」「不満が減る」などと言いますが、反対に消極的な会社は、「知らせても正しく理解できない」「不満を助長する」と言います。
前者は「知らせないことが不満につながる」と考えるのに対し、後者は「知ってしまうと不満が出る」という発想ですが、そんなに隠し事のたくさんある会社が、社員にとって好ましい場所のはずはありません。

情報共有にはIT活用が必須なので、積極的な会社はグループウェアやチャットツールなどのコミュニケーションインフラを整備し、消極的な会社はこういう設備投資をほとんどしません。
前者はITリテラシーが高く、後者は低い傾向があることが多いですが、このことは当然業務効率や業績に跳ね返ってきます。これはもともとのITリテラシーが低いために情報共有の手段を知らず、結果的にそれがおろそかになっている場合もあります。

情報共有に積極的な会社は、社員に知らせるべき情報は何か、いつどのように知らせれば理解しやすいかなど、常に「受け手である社員の状況」を考えますが、消極的な会社は「上が都合の良い情報」をどう伝えるか、浸透させるかと考えます。
前者は純粋な情報共有ですが、後者は会社に都合が良い刷り込みや誘導、洗脳のようなニュアンスがあります。相手目線か自分目線かの違いです。

かつてのように、先の見通しがつけやすい時代であれば、一部のリーダーが情報を握って指示することでも、組織マネジメントが成り立ちました。
しかし、今のように混沌として正解が見つけられない時代では、各自がその場その場の状況で判断していくことが必要であり、そのためには情報共有が必須になります。
これがうまくできない組織は、もうすでに淘汰され始めています。

新型コロナに関する情報共有では、最近徐々に改善されつつありますが、まだ相手目線ではなく、政治的な思惑や刷り込み、誘導をもくろんでいるかのような内容が多く見受けられます。これは情報共有を軽視したり嫌がったりする会社と似ています。
今こそ適切な情報共有が、本当に大切な時代です。


2020年7月23日木曜日

「会社が嫌だから独立したい」は大丈夫なのか?


最近何人もの人から、これからの自分のキャリアについて、相談されることがありました。外出自粛で家にいる時間が長くなり、自分のことをいろいろ考える時間が増えたのかもしれません。
相談は「このままでいいのか」「独立したい」といったことですが、そう聞かれても、現状で何も問題ない人はそんなにいませんから、“このままでいいこと”はないでしょうし、独立してうまくいくかどうかはわかりませんから、「やれ」とも「やめろ」とも言えません。

ただ、最近は副業などを考えている人も多いので、そんな人から起業の話を聞いていると、物事が相当に都合よく運ばなければ難しそうなもののことも多く、ついつい甘いと感じてしまいます。
もちろん、何が当たるかわからない時代で、私ごときがああだこうだということではありませんが、結構社会人経験が長い人でも、例えば「商品を売る」といったことであれば、商品企画はずっと経験してきたけど、営業や販売の経験は無かったりします。そして、だいたいの人がその自分の知らない部分を軽く見ています。やらなければならないことの全体像がわかっていないように見えるのです。
会社勤務での経験の中では、範囲が限られてしまうのは仕方がありませんが、その点を自覚しているかどうかは、わりと重要なことです。

そうやってお会いした人の中に、「もう会社が嫌なので独立したい」という人がいました。「組織で働くことが自分には向いていないと分かった」と言います。向いていないというわりには、会社勤めの経験は結構長い人です。
独立したらこんなこと、あんなことという話をしていて、確かに面白そうなものはありますが、どれもそこまで練られたものではありません。

私はこの人にだけははっきりと、「会社が嫌という理由が一番初めに出てくるような独立はやめた方がいい」と伝えました。「そんなネガティブな理由ではダメ」というのはもちろんありますが、言いたかったのは、「独立した方が、会社と関わってやる仕事がよほど増えるから」です。本当に組織に向いていない人が独立しても、それでは勤まらないと思うからです。

組織に向いていないなどと言うのは、だいたいが「一方的に命令されたくない」とか、「納得できる仕事をしかやりたくない」といったことでしょうが、これは独立しても解消されることはありません。取引関係になれば、さらに厳しい要求をされることさえもあります。
独立によって「やりたくない仕事は断る」という選択肢はできますが、そればかりではどこからも相手にされなくなり、やらせてもらう仕事がなくなります。いかに相手と調整して、折り合いをつけて仕事を進めるかを考えなければなりません。

会社や組織に属していなくても、ほとんどの人は会社や組織と何らかの形でかかわりながら仕事をしています。単に「会社が嫌」「組織が苦手」では、独立してからもそういうことに対応するという発想自体が持てません。さらに、全体像を見た経験が少ないとなると、独立すれば今まで以上に苦労することも出てきます。
これが、ただ「会社が嫌」だけで独立することを勧めない理由です。

会社や組織と関わらずにできる仕事に何があるかを考えてみて、一芸に秀でた職人や芸術家が思いつくかもしれませんが、実は「経営者」が一番組織には向いていない人という話がありました。「組織的な動きができない」などと部下を叱責しながら、実は社長自身が一番自分勝手だったりします。
そうなると、独立する理由に「会社が嫌」は成り立ちますが、成功している経営者は、みんな組織のリーダーとしての振る舞い方を知っています。そういう意味では、決して「組織が苦手」ではありません。

自分のキャリアを会社などの他人任せにせず、自分なりに考えて行動しようとするのはとても良いことですが、そのためには今まで以上の広い視野で、自分の身の回りのことをよく見ていかなければなりません。
その結果としての独立ならば、きっとより良い未来が待っていると思います。