2021年7月29日木曜日

「リモートワーク」が定着してあらためて聞こえるマイナス面

すでにリモートワークは多くの会社で導入され、それなりに定着してきています。出社は週一回以下など、ほとんど会社に行くことなく仕事をしている人の話もよく聞きます。

一方、リモートワークなどまったく無縁で、毎日変わらず出社して働いている人も大勢います。同じ会社の中でも職種によって扱いが違っていることや、会社全体で導入する機運がないところもあります。これを二極化といって良いのかわかりませんが、少なくとも働いている人たちみんなが平均して経験していることとはいえません。

 

当初はマネジメントのしにくさやコミュニケーションの取りづらさが問題になりましたが、このあたりは慣れもあるのか、最近はあまり取り上げられることがなくなりました。聞こえてくるのは、通勤がないことでの運動不足とか、以前に比べて休暇が取りにくいとか、話し相手がいなくて気が紛れないといった話です。

 

ただ、最近これに加えて「業績」の問題が出てくることが増えています。いくつかの会社から直近四半期の決算状況が良くないという話を聞きました。特に新規案件の受注が進んでいないという会社が多く、その要因を分析すると「出勤率」がかなり影響しているようだといいます。

地域や部門の事情で、社内でもリモートワークの実施率、出勤率には差があるそうですが、特に営業では出勤率が低いほど業績の落ち込みが大きく、出勤率が維持されているところでは、反対に業績が伸びているようなところもあるそうです。

既存顧客や進行中の案件に関するやり取りはリモートのミーティングで十分にこなせる一方、新規の話をするには、どうもそれだけでは不十分な様子が見られ、特に新規営業で顧客との接触機会が減った影響が出ているようだと分析されています。

 

例えば、商談や打ち合わせをするまでには至らない段階での情報交換は、特に新規営業では重要な部分ですが、リモートワークが進んだことで、まめに顔を合わせて雑談することや、懇親会や飲食を通じた俗にいう接待、その他対面接触の機会が大きく減りました。情報収集の面では、やはり営業的な影響は避けられないでしょう。

もう一つは、リモートワークでできる営業活動の限界です。案件情報の収集や他社動向などの営業情報を集めるには、多くの関係者から少しずつ話を聞いて組み合わせることや、状況変化を素早く感知してタイムリーに反応することが重要ですが、非対面のリモートミーティングだけでこれをこなすのはかなり難しいことです。

さらに在宅勤務の環境で個人作業に慣れていくと、どうしても対人面での活動量は減ってしまいます。何をしていいのか見失ったり、甘えやサボりが出てしまったりするのもある程度はやむを得ません。

このように、顧客とのコミュニケーションの総量が落ち込んだことと、コミュニケーションの質がリモートだけでは維持できなかったことが影響したと見られます。

 

ここで出勤率をあまり下げずに維持していた部門を見ると、結果的にリモート対応を最小限にとどめて、従来からの営業活動をできるだけ継続した形になっていて、それで業績面での悪影響は抑えられたということが大きいようです。ここには顧客との関係性や業界事情、地域事情などで、対面営業の継続が許されたという面はあるでしょう。

 

私自身も「新たな顧客候補とつながる」「まだあいまいな新しい案件の話をする」といったことは、リモートワークの環境ではなかなか難しいと感じていましたが、同じ状況が見えてきた会社も徐々に増えているようです。

これはリモートワークがダメだということでなく、さらにやり方の工夫と使い分けが必要になっているということです。後戻りさせるような発想はもう社会的に許されないでしょうし、かといってそれで生産性を低下させることも許されるものではありません。

 

新しい働き方は、実際にやってみなければわからないことがいろいろあり、柔軟に変えていかなければならないことばかりです。

 

 

2021年7月26日月曜日

「切磋琢磨」と「争い」の境目

「ゴリラは平和主義者である」という記事を目にしました。

群れの中でけんかになったとき、ゴリラの場合はボスや仲間が止めに入るそうです。メスや子供をいじめている仲間がいても、同じだそうです。

ゴリラが胸をドンドンと叩くドラミングは、実はよく言われる威嚇行為ではなく、むしろ相手と戦わずにすませるための表現だという説が有力と考えられているそうです。

 

これが他のサルの場合、例えばニホンザルは、争いが起こるとどちらか強い方に加勢して勝負をつけるまでやるそうです。

チンパンジーも凶暴性が言われ、群れの仲間であっても、争いになれば相手が死ぬまで攻撃し続けたり、別の群れを壊滅させるために襲撃して殺害行為をおこなったりするそうです。

チンパンジーはゴリラよりも人間に近縁とされているので、人間がおこなう戦争のような行為も、遺伝子に組み込まれた本能なのかもしれません。

 

人間同士が殺し合う戦争のようなことは絶対にあってはなりませんが、その一方で、一定の競争原理が働いていない環境だと、腐敗、甘え、なれ合いなどの不正が起こりやすいと言われます。企業の現場でも、競い合うことを前提とした様々な仕組みがあります。

 

本来はお互いの「切磋琢磨」を促すためのものですが、ここでの「争い」の部分が強調され過ぎて、中には「二度と立ち上がれない」「やる気を失う」「心を病んでしまう」といったことが起こっています。思うに、人間の本能のままでいくと、そうやって相手を叩き潰すことまでいとわず、行き過ぎた争いになりやすいのではないかと思います。

 

「負けず嫌い」というと、最初にアスリートが大勢思い浮かびますが、最近の様子を見ていると、そこでの考え方や受けとめ方、行動の仕方は以前とは大きく変わっているように思います。昔のようなギラギラした負けず嫌いとはちょっと違い、ライバル意識などは持っていたとしても、他人との比較よりは自分が何をなすべきかという視点が強いと感じます。ライバルとは日常で親しい友達であることも多く、まさに「切磋琢磨」する仲間同士という感じです。

 

周囲から鼓舞しようとする際の声のかけ方も当然以前とは違って、例えば「あいつに負けて悔しくないのか」のような言い方は、それでやる気を刺激しようとしてもあまり通じません。「自分に何が足りなかったか」「これから何をやるべきか」といったことをロジカルに確認し合うと、そこから切磋琢磨につながっていきます。

 

最近目にする過度な誹謗中傷、クレイマー行為やハラスメント、ヘイトや分断をあおるような言動行動は、すべて他者への攻撃性から出てくるものです。実はそれが本能で、今のような不安な時代ほど前面に出てきてしまうのかもしれませんが、人間は本能を理性でカバーすることができます。

今でも相手を比較対象にして、それを踏み越えて相対的に上に出ようと試みる人はいます。ただ、そういう競争心は「争い」につながりやすく、組織の中では好ましくない状況になる恐れがあります。

 

そんな中では、ゴリラのような争いを好まない素養が、これからの時代には大切ではないかと感じました。それは「切磋琢磨」なのか、それとも「争い」になってしまっているのか、その境目はよく考えなければなりません 

 

2021年7月22日木曜日

競争が好きでない人、苦手な人のモチベーション

企業の一般的な人事制度や評価制度には、社員のモチベーションアップにつなげるという目的がありますが、制度でできることには限界があります。制度の中に組み込めるのは「外発的動機付け」に偏ってしまうという点です。

 

「外発的動機付け」とは、行動する要因が外部からの刺激によるもので、人事制度でいえば昇給や昇格、役職任命、賞罰、金銭的なインセンティブなどが該当し、その効果は一時的にとどまると言われます。

これに対する「内発的動機づけ」は、本人の内面的な興味、関心、意欲といったものが行動要因となるもので、持続的な効果が得られるとされ、最近重視されている1on1ミーティングのような個別面談や、個人のキャリア形成を支援するような取り組みは、このあたりの効果を期待したものです。

ただ、個人の志向は多様であり、仕事との相性、会社との相性、上司や同僚との人間関係など、様々な要素も絡み合うことから、取り組みがすべてうまくいくとは限りません。上司の能力に左右されるようなところも多く、運用上の難しさはありますが、それでもこういった取り組みをする意義は十分にあるでしょう。

 

従来からの「外発的動機付け」による人事制度は、言い方を変えると「上昇志向や競争をあおる仕組み」というところがあります。その結果として、上昇志向の強い人、競争するのが好きで得意な人が勝ち残ります。勝ち残るとは「組織の重要なポジションにつく」ということですが、この上昇志向が強くて競争心のある人が組織のリーダーに適任かというと、残念ながらそういうことではありません。

 

上昇志向の強いリーダーは、自分と反対に上昇志向が薄い者を「意欲がない」「無能」などと見下す傾向があります。競争には必ず勝者と敗者がいますが、本人が勝ち続けて昇りつめたような人は、敗者の気持ちはわかりません。様々なタイプの人を受け入れて活かす意識が薄いように感じるところがあります。

 

能力が高いメンバーがいても、それを受け入れるというよりは、ライバル視して抑えつけることがあります。明らかに自分が優位であればよいですが、肉薄されてくると潰しにかかるような人もいます。

そういった行動に対して本人は意外に無意識で、条件反射的に反応していることがあります。負けたくないという本能が、そうさせてしまうのかもしれません。

また自分の上昇志向が満たされると、そこから急に行動しなくなることがあります。「部長になったのに何もしない」などと批判される人がいますが、それが理由の一つになっていることは確かでしょう。

 

上昇志向の強さに合わせて主張される実績ばかりを評価して、そのことで組織の重要なポジションを任せていくような仕組みでは、好ましくないリーダーが生まれる懸念があります。

ビジネスに競争はつきものとはいえ、それに長けた人材が良い組織を作るとは限りません。競争が好きでない人、苦手な人の中にも良いリーダーの資質を持った人材がおり、そういう人材が評価される仕組みも必要です。

 

最近はあえて売上成長を目指さない経営などが注目されたりします。もちろん今までのように業績を追求する会社もあります。結局は「多様性が増している」ということであり、その多様性に対応できる人が、今の時代にふさわしいリーダーではないかと思います。

 

 

2021年7月19日月曜日

リーダーの「先延ばし」でみんなが動けない

場当たり的な感染症対策、準備ができていないとしか思えないオリンピック関連の様々な不備や不行き届きなど、大事なことがいろいろ滞っています。実は企業の現場でも同じような様子を目にすることがあり、それが昨今の状況がほぼ重なっているように感じたことからのお話です。

 

滞りの理由で共通しているのは、組織やチームのリーダーが、全体の仕事の進め方にかかわる、重要な判断や決断を「先延ばし」にしていることです。その結果、現場にしわ寄せが生じて作業が間に合わなかったり、準備が滞ったりしています。

 

ある会社でのことですが、毎年必ず組織改編があって、構想をまとめて新しい組織図を作るまでは社長の仕事とされています。ただ、この組織図の提示が年々遅れるようになり、直近では年度末の1週間前ということになっています。本来は新年度開始の1か月前を目途に確定することとされています。

 

遅れるようになったのは社長交代がきっかけです。新しい社長は組織図作りにこだわりがあるらしく、ああでもないこうでもないと中身を触り続けて、なかなか結論が出ません。役員会でスケジュール通りに確定したものを蒸し返して、再び議論していることもあります。

 

新年度の組織図が決まらないということは、現場に多大な影響があります。

まず、異動を含めた各部門の人事が確定できません。以前は新年度開始と同時にキックオフできていたのに、最近は2カ月遅れが定着しているそうです。顧客に異動の挨拶などがなかなかできなかったり、業務引き継ぎの時間が足りずにおろそかになってしまったりということがあります。名刺印刷ができず、ホームページの改訂もできません。

しかし、社長自身は自分の結論先延ばしが、大きなしわ寄せにつながっているという認識はありません。自分のせいでの遅れなのに、「早くしろ」などと逆に現場に催促するくらいですから、現場の一般社員がやっている具体的な仕事までは、残念ながら想像がつかないようです。

 

これはまた別の会社ですが、ある部品製造の会社で、工程全体の中で設計部門の仕事が遅れることが多く、その結果製造部門は常に短い納期での仕事を余儀なくされています。社内ではたびたび問題になって関係者で調整がおこなわれますが、設計部門のリーダーの主張が強いせいで、改善がなかなか進みません。

自分たちの作業の多さとか設計業務の重要性といったことを言いながら、いつも当たり前のように先延ばしを続けるそうです。設計が終わらなければ製造できませんから、後工程の製造部門にできるのは、催促することくらいしかありません。

これも、あるリーダーを中心に、自己中心的なスケジュール管理がおこなわれているためのしわ寄せ、滞りです。

 

こういうことは、本来であれば全体を通した最終的な期限(デッドライン)によって、途中経過のスケジュールと期限を設定し、各自がそれを守ることによって進めるものです。

ただ、実際にそうなっていないことは意外に多く、特に組織の上から降りてくるような事案ではよく見られます。前工程を担うのは権限が大きい組織上位のリーダーやマネージャーですから、この人たちが期限を軽視しても周りは文句を言えません。

結果として、リーダーたちの自己中心的な判断の先延ばしやスケジュール変更が定着してしまい、現場はいつもタイトな作業を要求されるようになります。時間不足で確認が手薄になったり、ミスが増えたり、やった方が良いことができなかったりということもあります。

 

この手の非効率は思いのほかよく見かけることですが、リーダー自身がそのことに気づいていなかったり、「自分の仕事の方が重要」などと現場作業を見下していたりする者もいます。リーダーに問題意識がないので、その人が入れ替わりでもしない限りは改善されることもありません。

 

リーダーは、自分がやっている先送りや先延ばしの行動が、実は多くのしわ寄せや滞りを生んでいることを自覚しなければなりません。「俺の仕事の方が大事」といった自己中心的な考えや、「間に合わないから仕方ない」といった安易さは、多くの負担と非効率があることを認識すべきです。

 

リーダーが「先延ばし」「先送り」をすると、他の周りのみんなが動くことができなくなります。