2017年12月20日水曜日

「異動」は必要でも「転勤」は本当に必要なのか



「親の介護で転勤できない」という男性社員からの申し出が増えているとの記事がありました。
家庭の事情を抱えた社員にしばらく転勤を免除するなどの支援をしているある企業では、当初子育てや結婚を理由にした女性からの申請がほとんどだったが、ここ数年は親の介護を理由に利用申請する男性が急に増えたということです。

介護を理由に仕事を辞める「介護離職」は年間10万人を超えており、国の働き方改革の中でも「介護離職ゼロ」が目標に掲げられています。企業側も働き盛りの社員が家庭の事情で離職することは痛手ということで、配慮する仕組みが徐々に取り入れられてきています。
それでも、思うように転勤ができなくなることで、「組織が硬直化するリスクもある」「人材育成上の妨げになる」といった声はまだまだあるようです。

こういった声から私が思うのは、「だからなぜ“転勤”なのか」ということです。
いちおう言葉を定義しておくと、「異動」というのは所属部署や役職、勤務地が変わることで、その中でも住居の変更が伴うものを「転勤」としたとき、なぜ「転勤」でなければ組織が硬直化したり、人材育成が滞ったりするのかがよくわかりません。適切な「異動」によって組織の硬直化は防げますし、違った仕事の経験を積むという意味での人材育成も可能です。なぜ地域にまたがって転居を伴う「転勤」をしなければ、それができないのでしょうか。

ある企業のかたにこのことを尋ねた時に言われたのは、「地域ごとに様々な違った特性があって、それを体感することができる」「人脈の広がりの幅広さ」「異なった土地で生活することでの人生経験」とのことでした。ただ、そのことがどのように仕事に役立っているのか、具体的にあまりはっきりしたことは言ってもらえませんでした。

私はこのことは、たぶん誰も明確に説明できないと思います。そもそも「転勤」というのは、会社が人員配置の裁量余地を大きく持っておきたいということ以外に、はっきりした理由はないからです。
いろいろな土地に住みたい人や海外赴任希望など、一部の人を除いては「転勤」というのはあまり好ましくないことで、それを社内のしきたりに基づいて、仕方なくみんなで持ち回っているだけに過ぎないのではないでしょうか。
全国社員とエリア限定社員で賃金格差をつけるのも、結局は嫌なことを分担しているか否かという理由になってしまうのではないでしょうか。

以前どこかに書きましたが、特に「住む場所」というのはその人のプライベートも含めた生活全般において、基本中の基本になる部分です。そして「転勤」というのは、人が生活する上で一番の基本となる“住む場所”を、会社の一方的な都合で振り回すということです。
もちろん「転勤」のおかげで経験が積めた、良かったという人はいるでしょうが、それは最終的に本人の意思と合致したからです。

私は「転勤」というのは一部の希望者か、選ばれた幹部候補あたりに限定してやればよいことで、それ以外は廃止しても全く問題ないと思っています。これに異論がある人はたくさんいるでしょうが、その理由のほとんどは感覚、感情によるもので、自分たちの裁量が狭まるという会社側のデメリット以外に困ることはありません。

これからの人手不足の時代に、当たり前のように「転勤」を振りかざしていては、もう人は集まってきません。今のうちに改革すれば、先駆的な会社になれる余地がまだあります。


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