日本能率協会が、全国の入社半年・2年目を迎えた社員を対象とした意識調査の結果によると、「現在の職場内に目指したい上司、目標にしたい人はいますか」という質問に対して、「いる」は43%、「いない」が57%と、「いない」が14ポイント上回ったとのことでした。
さらに、それぞれの回答で現在の転職意向を比較すると、「転職は考えていない」が、目指したい人が
「いる」では57.8%、「いない」では38.6%という差があり、「いない」の回答で現在転職活動をしている、もしくは検討しているという人は6割を超えており、「目指したい人」「目標にしたい人」がいるか否かが、若手社員の転職意向に影響していると分析されていました。
私がいろいろな会社で、退職希望の社員から理由を聞く中でも、「お手本になる人がいない」「目標になる人がいない」という話は、確かに多いです。そのことが、特に新人や若手社員の転職意向に影響しているのは間違いないでしょう。
ただ、この状況がわかったとして、では会社がここから退職者対策ができるかというと、そういうものではありません。優秀な人格者の社員がたくさんいれば、目標になる確率は高まるかもしれませんが、みんなが確実に誰かの目標になるかどうかはわかりません。「目指したい上司」が会社の努力で増やせるのかといえば、単純にできることではありません。
また、私自身のことで言えば、私は今まで「目指したい上司」や「目標にしたい人」と明確に思う人に出会ったことがありません。ただし、誤解してほしくないのは、今までに良い上司や先輩にはたくさん出会っていて、その人たちを参考にしたり、お手本にしたりしてきたことはたくさんありますが、全人格的に「目指したい」「目標にしたい」と思う人がいなかったということです。
これは私自身の考え方ですが、どんな人にも良いところと悪いところがあり、すべて完璧ということはありません。ですから私は、「尊敬する人」を聞かれたときは「いない」と答えています。
どんな立派な偉人のような人でも、「この人のここは素晴らしい」「尊敬できる」「ここは真似したい」というところはあっても、そうでないところも必ずあります。それをひとまとめに「尊敬する人」などと言われると、「そういう人はいない」となります。
そんなことで、私は「お手本になる人」「目標になる人」「目指したい上司」というような人には、めったに出会えるものではないと思っています。長い社会人人生の中で、そういう人がいたとしても数人、いなかったとしても、それはごく普通のことです。まして、新入社員として会社に入って、まだ1、2年の若手のうちに、そんな人に出会えればよほどの幸運です。
「尊敬する上司」との出会いの話を聞くことがありますが、そういう出会いがあった人をうらやましいと思う反面、それが思い当たらない自分が、特に不幸だとも思いません。自分にとって、そんなに都合が良い他人が身近にいることは、めったにないと思うからです。
若手社員が「目指したい上司がいない」と不満を持つ気持ちはわかります。そういう人がいるに越したことはありませんし、私も昔はそう思った時期があります。
ただ、どんなに転職を重ねても、「目指したい上司」に出会えることは、たぶんほとんどありません。いろいろな人に出会って、いろいろな人の良いところや悪いところを見て、それを自分なりに吸収しながら経験を積む中で、自分なりの「目指したい姿」が見えてくるのだと思います。
もしも本心から「目指したい上司がいない」という理由で会社を辞めるなら、それは転職では解決できないことではないでしょうか。自分が目指すものは、自分で作りだすものだと思います。
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