2015年11月16日月曜日

「資生堂ショック」にみる、制度化が既得権を生んでしまう難しさ



女性の育児支援制度で最も先進的と言われていた大手化粧品メーカーの資生堂が、短時間勤務の利用者でも他の社員と同じく、月2日間の土日勤務を月10日間ごとの昼番遅番勤務を基本とするなど、育児支援制度の方針転換をしたことが、「資生堂ショック」などといわれて話題になっています。

国内売上が2006年から2014年の間に約1000億円も下がったとのことで、その一因に短時間勤務を利用する者が増えて、かきいれ時に社員が店頭にいないような事態が起こり、経営陣はそのことに対する問題意識があったようです。

私がこの話題に接した時の印象は、正直言ってそれほどの驚きはありませんでした。「資生堂ほどの会社でも・・・」とは思いましたが、育児支援制度のせいで会社が傾いては本末転倒ですから、これを正そうとするのは、経営としては当たり前のことです。

資生堂は女性社員比率が非常に高い会社なので、よけいに業績へのインパクトが大きかったのだと思いますが、育児支援制度による様々な影響という話は、中小企業ではさらに切実のものがあります。
誰かが抜ければ、その穴は他の誰かが埋めなければなりませんが、社員が少なく、一人の担当範囲も広い中小企業では、代わりの人を見つけるのはそう簡単ではありません。

育児支援の制度はあっても、結局は上司を含めた当事者が、仕事の引き継ぎ相手を探し、引き継ぎの段取りをした上で、ようやく制度が適用できるようになります。会社によっては、休暇の取得でも同じようなことがされています。要は、いくら制度があるといっても、周りの協力を得なければ、それを行使するのが難しいということです。

育児支援などに関しては、制度がなければ始まらないと思いますが、その反面、制度は常に既得権となってしまう側面があります。
私が見てきた中で、育児支援制度が比較的うまくいっている会社では、女性同士が「私の時はお世話になったから」とか、「私の時はよろしくお願いします」などと話し合っていて、育児の際はお互い様という暗黙の了解ができていました。ただ、もしもそこに自分の権利だけを主張するような人が入ってきたら、その関係はすぐに崩れてしまうでしょうから、なかなか難しいところだと思います。

最近、サイバーエージェントの藤田晋社長が日経新聞に連載している記事で、「豪華な社員食堂はいらない」という話がありました。
シリコンバレーのIT企業では、眺めの良い豪華な食堂で、無料で食事を提供するようなところがありますが、そういう会社に限って「食事がまずい」などと文句をいう社員がいるそうです。形を決めるとそれがいつの間にか既得権になり、有難さを感じなくなってしまうので、自分はそういうものは作りたくないと書かれていました。

どんなことでも制度になってしまうと、それに伴って既得権を生んでしまう難しさがあります。私も人事という立場上、権利主張を一方的にされる場面には何度も遭遇してきましたが、そういうことがあるにつけ、この制度が果たして良いものなのかと考えてしまうことがありました。

もしかすると、制度による決めごとは最低限にとどめ、その場その場で、その人と周りの人たちの業務事情に応じた対応をするような考え方が、これからはもう少し必要になってくる気がしています。


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