2017年8月14日月曜日

「なぜ労働生産性が低いか」の仮説を見直さなければ残業は減らない



ある新聞記事で、働き方改革に伴う大手企業の残業抑制策のしわ寄せを、中小企業が受けて苦しんでいるというものがありました。

記事にあった例は、これまで顧客先に出向いておこなうことが多かった打ち合わせが、午後5時以降に顧客企業の担当者が会社に来て打ち合わせをすることが増えているということで、それによって合わせて作業する社員たちが、残業せざるを得なくなって退社時間を遅くなっているということがあるそうです。

その理由を顧客先に聞くと、自社では残業が制限されて夕方以降会社に残れないので、会社には直帰することにして、外注先で打ち合わせをさせてもらっているのだそうです。また自社からは「外注先に依頼できる仕事はできるだけ外注先に」と指示されていて、仕事量や時間の面での無理に対応してもらっていることへの感謝の言葉があったそうです。顧客先の担当者も無理強いしていることを承知していて、そのことに罪悪感もありながらも仕方なく、外注先の中小企業に多くの依頼をしている様子が見えます。

ここから見ると、現場の社員が残業抑制でやり切れなくなった仕事をどうにも減らすことができず、誰かに押しつけるしか手段がなかったということで、これまでは社内で処理していた仕事までも、自分たちの裁量の中では比較的モノが言いやすい外注先、下請け企業にまで押しつけが及んでいるということです。

この残業抑制については、いろいろな企業でしわ寄せが出てきている話を聞きます。サービス残業が増えたとか、やるべき仕事が残業時間を理由に先送りしていたり、手つかずになっていたりしているといいます。
やはりこれは、当初考えられていた「残業をする理由」の仮説が、かなり違っていたということではないかと思います。

少し前までは圧倒的な多数意見で今でもなお言われている話として、「日本人の労働生産性が低い」というものがあります。これに対して多くの人が思っていたのは、「一人一人の時間の使い方に無駄が多く、もっと作業効率が上げられるはず」「生活残業、付き合い残業のような無駄な居残りが多い」など、社員個人の仕事ぶりに注目したものです。

経済団体の大御所のような人から中小零細企業の経営者まで、この「労働生産性が低い」ということを取り上げ、それは社員の作業効率が悪いからで「必要な残業はあるが無駄な残業が多い」などと言い、社員個人に生産性の向上を求めました。会社がやったことは残業時間を厳しく管理することだけで、実際の仕事のやり方にまで策を講じた会社はごく少数でした。
中には「会議の回数や参加者の制限」、「事務手続きの簡素化」「IT導入による効率化」といった、仕事のやり方そのものを効率化する取り組みを全社的におこなったところがありますが、ほとんどの会社ではこのあたりの取り組みはほとんどなく、ただ「残業時間」だけが制限されました。

その結果として起こっているのが、この記事で書かれていたようなことですが、これは明らかに「時間に対する仕事量が多くてこなしきれない」ということで、それも現場判断で調整できるレベルではないということです。

社員の働き方を見ていると、確かに「効率が悪い」「要領が悪い」「サボりが多い」など、個人の仕事ぶりに関する問題があります。さらに「帰りづらい雰囲気」「付き合い残業」のような職場環境の問題や、「生活残業」のような経済的な問題もあります。そして、当初思われていた「生産性が低い理由」「残業が多い理由」の仮説は、この点が中心だったように思います。

ただ、これまでやられてきた残業抑制の取り組みから見えてきた実態は、社員個人の問題だけではなく、会社の仕組みや慣例に無駄があったり、上司が無駄な仕事をさせていたりということも数多くあることがわかってきています。そしてその手の問題を社員個人が直すのは難しいことです。会社への提言や上司への反論というのは、仮にそれをできる可能性があったとしても、なかなかハードルが高いものです。

今の日本の働き方の実態を見て、「長時間労働」の防止ということは、これからも取り組んでいかなければなりません。ただ、これまでの仮説をもとに社員個人に改善をゆだねているだけでは、なかなか物事が進まないと思います。会社も上司も社員も一丸となって、仕事の進め方を考えていかなければなりません。

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