もう何年も前のことですが、ある会社の業務改善や効率化を進めようとする中であったことです。
経理部門の一部で、未だに手書きでの帳簿記入がおこなわれていました。経理部長が「手書きでの記帳を知らなければ、経理事務の基礎が理解できないから」ということです。
そのこと自体はおっしゃる通りで、否定はできないことです。
ただ、例えば私のような経理事務の素人でも、会計システムを使うことで自分の事務所の処理は特に問題なくできています。初めはよくわからなかったことでも、続けてやっているうちに徐々に全体が理解できるようになってきました。
それでも帳票の種類や機能を細かく知っているとか、そこに何をどう書くとか、さらに全部手書きでやれなどとなると、できるかどうかはちょっと自信がありません。もしかすると知っておくべきなのかもしれませんが、独立して今までの10年間で、実務上そこまでの「基礎」は必要になったことは一度もなかったからです。
前述の会社の業務改善の場合も、このくらいの認識で問題はないと思うのですが、とにかく経理部長が古いやり方にこだわってしまったため、改善や効率化がなかなか進みませんでした。
他にも、特に技術的な仕事の場合には同じようなことがあり、「原点」「原則」がわからなくなるから、あえて昔ながらの手作業や古いやり方を知らないとダメだという人がいます。やはりその指摘自体は間違いないことですが、果たしてそこまでさかのぼった基礎知識、原点や原則の考え方が実務上で必要になるかというと、そういうことは年に何度もあるわけではありません。
確かに何か特別のトラブルなどがあったとき、古い知識があったおかげで解決が早かったというようなことはありますが、その一方それは頻繁に起こることではありません。もし頻繁に起こるならば、今の実務上必要な基礎知識として、きちんと教えておかなければならないことですし、そうではないレベルのことにこだわり過ぎると、今度は効率的に仕事を進めることができなくなります。
しかしこれがヘビとなると、話が違ってきます。毒があるかないかによって処置が違いますし、ヘビの種類によって抗ヘビ毒の血清が違うと言いますから、こちらの場合は種類の違いを知っておかなければなりません。ただ最近は、より多くのヘビ毒に効く血清があるそうで、そうなるとそこまで細かく種類を見極める必要性は減ってきます。
このように「基礎」「原点」「原則」として必要な知識は、その対象や時代に必要とされる実用性のレベルによって変わっていきます。
「基礎」「原点」「原則」は、総論としては大切なことですが、それにこだわり過ぎてしまうと改善や効率化を阻みます。どこまでが「必要な知識」で、どこからが「ムダ知識」になるかは、その時代によって変わっていきます。
ちなみに古いものにこだわって効率化を阻むのは、ほとんどが年長者のベテランです。これは私自身も含めてですが、自分が過去にやっていたことや恩恵が得られたと自負していることを、今は不要と言い切るのは意外に勇気がいることです。しかし、どんなに経験豊富なベテランであっても、そういう変化と割り切りは絶対に必要です。
その時代に何が必要で何が不要なのかの線引きは、実はこのあたりの人たちの意識にも要因があるということは、よく考えておかなければなりません。
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