2019年6月13日木曜日

「はたらく言葉たち」の炎上で思った“受けとめ方の多様化”


阪急電鉄と企業ブランディング会社がコラボして、「はたらく言葉たち」という書籍の中から選んだ“熱い言葉”を車内広告として掲出する企画の中で、取り上げられた言葉が「実態をわかっていない」「時代錯誤」などと批判されて炎上しました。

特に「毎月50万円もらって生きがいのない生活、30万円だけど仕事が楽しい生活、どっちがいいか(研究機関 研究者/80代)」という言葉には「やりがい搾取」「若い世代の給与を知らないのか」などと批判が集まり、この企画は結局取り止めとなってしまいました。

私も取り上げられていた言葉は全部見ましたが、それなりに共感できるものはいくつもある一方、なかなかブラックな感じで、ちょっとこれはどうだろうかと思うものもありました。
違和感を持った理由は、「一方的な自己犠牲要求」「滅私奉公」「根拠がない努力や精神論の強調」「過度な楽観論」「セレブな自慢話」といったところで、何よりも例え話に共感できなかったところが大きいです。
私の世代では、まだこのあたりが許容できるはずですが、それでも「これはないな」というものがいくつもあったので、もっと若い世代にとっては、さらに大きなギャップを感じてしまうと思います。

しかし、これら「はたらく言葉たち」が車内広告となるまでには、多くの言葉の中から何人もの人の目を通りながら選ばれてきたはずです。それが炎上してしまうということは、私も含めた世間の目と、選んだ人たちの感じ方が大きく違っていたということです。それも、ある程度の許容度がある世代の私ですら、違和感を持つくらいの言葉を逆に良いと思ったということで、そこまで受けとめ方が正反対になってしまうことに、ちょっと驚きがあります。

ここで注意しなければならないのは、この「言葉の受けとめ方の多様化」です。最近働く現場で起こっている問題やトラブルは、ここが原因になることが非常に多くなっています。
例えば「セクハラ」「パワハラ」といったハラスメントの問題は、そのほとんどがお互いの受けとめ方の行き違いです。以前のように、誰が見ても明らかにアウトというケースは、ずいぶん少なくなりましたが、上司はアドバイスや励ましのつもりで言った言葉を、部下から「パワハラ」といわれてしまうなど、善意のつもりの言葉が、正反対に悪意だと取られてしまうような、受けとめ方のギャップが広がっている印象があります。

普段の会話の中でも、些細な一言でものすごく傷ついていたり、怒りを感じていたり、反対にオブラートに包んだらまったく伝わらなかったりします。言いづらそうなことをはっきり言ってくる部下に、面食らってどう対応していいかわからなくなっている上司の姿を見かけます。

そうなった原因はいろいろで、語彙力の問題なども考えられますが、私が思うのは、「人々の境遇が多様化している」ということです。
これは単純に世代の違いなどというだけでなく、かつては総中流社会といわれ、みんなが正社員で同じ会社に終身雇用で勤め続けるような、似た境遇に置かれた人たちが多かった時代から、今は様々な形で格差が広がり、終身雇用は崩れて転職が当たり前になり、雇用形態も様々になっています。
バラバラな境遇で、当然価値観は多様化していき、一つの出来事に対する受けとめ方も、同じく多様になっていきます。

また、日本人のコミュニケーションは、「空気を読む」などと言って、あえてすべてを言わずに以心伝心で伝えるような高コンテクスト文化(察しの文化)に依存したところがあります。
そんな環境にどっぷり浸かってきた上の世代は特に、「みんな自分と同じ」「自分の考え方は平均的」と思っている度合いが高く、その前提でコミュニケーションを取りますが、そういったスタンスが、相手からは「押しつけ」「決めつけ」などと言われ、意図が伝わらないだけでなく、コミュニケーション自体も取れなくなってしまいます。
「はたらく言葉たち」の炎上も、こういった流れとどこかでつながっている感じがします。

言葉の受けとめ方は、様々な要因で多様化しています。言葉選び、話し方には、十分注意しなければなりません。


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