2021年10月4日月曜日

大企業の「転勤」「単身赴任」の廃止はうまくいくか

日本のIT最大手のNTTが新たな経営スタイルへの変革策を発表し、DX推進や紙使用の廃止、女性や外国人登用などを示す中で、一番注目を集めたのが転勤や単身赴任をなくしていくことを検討するという方針でした。コロナ後もリモートワークを基本として、本社機能や管理部門の部署も地方に分散させて、地域密着のビジネスを強化するとのことです。

 

私はこの報道を見て、まずその取り組みについては、とても時代感覚がある優れた考え方と評価しています。この取り組みが大企業でどこまで進むのかには不透明さもありますが、今後の方向性としては間違いなくそちらに向かうはずで、それをNTTほどの大企業が発信したことはとても重要です。

この取り組みには様々な見方があるようですが、私はこれが普通の考え方になっていき、逆に乗り遅れた企業が淘汰されていくのではないかと思っています。

 

全国展開している日本企業では当たり前のようにおこなわれる「転勤」ですが、居住地の選択というのはプライベートの中でもかなり根幹にあたる部分です。それを会社からの一方的な命令によって変えさせるというのは、私から見ると相当に大きなメリットがなければ応じられない部分です。

これが以前のように、大企業の安定と終身雇用が保証されている中であれば、自身の安定性を重視してそれに応じるメリットはありましたが、今はそういう環境ではなくなりました。

大企業の経営者自身が「終身雇用はなくなった」「大企業も安泰ではない」と言っていますが、にもかかわらず、企業の裁量で相変わらず転勤や単身赴任を当たり前のようにおこなうのは、あまり理にかなっているとはいえません。企業側にとって都合が良い既得権だけを温存しようとしていることであり、社員にとってのメリットは薄れています。そこに日本を代表する大企業が気づき、変革を進めると宣言したことには大きな意味があります。

 

そもそも、この手の人事施策というのは、実は中小企業の方が進んでいるようなことが多々あります。理由は「必要に迫られているから」です。

会社の知名度がなく、高い処遇もできず、採用が難しい中で人手不足の状況を改善するには、女性、シニア、外国人など属性にこだわらない人材活用を進めていくしかありません。働く時間や場所の柔軟性についても同じで、働く人の事情に配慮しなければなりません。

できれば長く働いてほしいと思ってはいるものの、大企業のように新卒の9割が定年まで勤務するようなことはありませんから、社員がいなくなるかもしれないという心の準備は常にしています。ただし、大企業のように常に代替要員が用意できる状況はありませんから、臨機応変な対応ができる身軽さを活かして個人の事情に合わせる努力をします。

もちろんそういう会社ばかりではありませんが、特に転勤や単身赴任に関しては、中小企業の方が慎重に対応しているケースが多いと感じます。

 

人材育成という点で、ローテーションを通じて様々な業務を経験させることに意味はありますが、それは居住地を変える「転勤」がなくても実現することはできます。転勤や海外勤務などを希望する社員は確かにいますが、当然望まない社員もおり、それをみんなに等しく求めることには難しさがあります。

そんな中で昨今のリモートワークの進展とそのノウハウ蓄積は、必ずしも転勤という扱いをしなくても、業務対応は可能なことがわかってきました。

今後はアメリカの大企業のように、転勤は一部の幹部社員に限られることや、出張による移動が増えるだろうという見立てがあります。

 

NTTが示しているサテライトオフィスを全国に設置するという考え方も、在宅勤務で極端に減ってしまった対面の機会と、通勤負荷の低減のバランスを取る方法として意味があるでしょう。これは自前でのサテライトオフィス設置が難しい中小企業でも、シェアオフィスの活用などで対応できる可能性があります。

 

このように、今まで当たり前だった雇用環境は、これから大きく変わっていくことは間違いありません。変化に対応する力がこれまで以上に問われてきます。常に状況変化を見ながら対応を進めなければなりません。

 

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