今までも何度かメディアで紹介されていますが、大阪のエビ加工工場の働き方が注目されています。もともとは宮城県の石巻にあった会社ですが、東日本大震災の影響で工場と店舗が被災し、苦渋の決断で大阪に移転したそうです。
震災をきっかけに働くことと生きること自体のかかわりを考えるようになり、従業員が働きやすい職場づくりへの取り組みを始めたといいます。
そこでは従業員の「“好き”を尊重する」ということで、具体的な中身は、従業員が出退勤時間や欠勤は自由で、事前連絡は不要ではなく禁止という「フリースケジュール」と、定期的なアンケートを通じてやりたくない作業を表明すれば、その「嫌いな作業はしなくてよい」という制度でした。
一見すると、例えば「フリースケジュール」では「誰も出勤しなかったらどうするのか」など、会社が困りそうに感じてしまう制度ですが、実際に誰も出勤しなかった日は、制度導入からの4年間で1日だけだったそうで、その程度の頻度のことを気にしてルールを作る必要はないという判断をしたとのことです。事前連絡を禁止して原則無断欠勤という形にしたのは、休むことに対してどうしても気兼ねが起こってしまうので、それを避けることが理由です。
「嫌いな作業はしなくてよい」についても、アンケートで全員が嫌いといった作業は一つもなく、ただし“嫌い”が偏った仕事はあって、例えば体力的にきつい「工場の床掃除」といったものでしたが、これは高圧洗浄機を導入したところ、好きの回答比率が増えたそうで、そうやって現場の作業改善を少しずつ進めていったといいます。
「人にはそれぞれ好き嫌いや得手不得手があり、嫌いな仕事をしている時はモチベーションも下がって効率も落ちるので、それならば好きな作業だけに集中してもらった方がいい」との考え方ですが、これによって作業に偏りが生じるなどの不都合はなかったそうです。
これらの取り組みによって、人が定着して採用経費が不要になり、育成コストがかからなくなり、熟練者が増えて生産性や品質が向上したといいます。
さらに従業員たちが自ら能動的に行動するようになり、前向きな意見や提案が増えるなどの好循環が生み出されるようになりました。
この話は、会社としての業務特性や環境によるところもあり、どこでも真似できることではありませんが、従業員の行動が変わったという点で、私には腑に落ちたところがあります。それは働き方における多くのことを、本人たちの「自己決定」にまかせたことです。それによって各自に責任感が生まれ、全体の作業を考えた自己管理がおこなわれるようになったのです。
人を管理しようとすれば、そこには何かしらの強制が生まれ、それが積み重なると不満、他責、モチベーション低下が起こってきます。経営者や管理者の立場からすれば、相手に多くのことを委ねるのはなかなかやりにくく勇気もいることですが、会社への共感や人間関係の良さがあれば、人は進んで協力し合い、生産性や品質の向上や直接的な業績アップなどの結果にもつながっていきます。
会社が一方的に決めたシナリオに基づいて、従業員を管理することばかりではなく、信頼関係を築いて相手に委ねることが、結果的にお互いの幸せにつながることも多いはずです。人手不足が言われる昨今では、よけいにそう思います。
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