2022年12月19日月曜日

「自分で決めること」の責任感とやりがいと面白さ

 ある知人で、企業グループの子会社社長を長年務めていた人ですが、社長を退任して本社に戻るという経験をした人がいます。わりと珍しい人事かもしれません。

 

しばらく時間が経ってから、その人の話を聞いていた時ですが、仕事のやりがいや面白さがやはり違っていて、かつての社長だった頃の方がどちらも大きかったと言っていました。その理由は、「自分で決められること」が以前の方が圧倒的に多く、そのことが自分の仕事への責任感ややりがい、面白さにつながっていたことにあらためて気づいたとのことでした。

本社に戻ってからもそれなりの権限はあるものの、「自分で決められること」の範囲がずいぶん小さくなっているような感覚があり、それにつながって仕事のやりがいや面白さも小さくなっているように感じたそうです。

「自分で決める」ということが、仕事をしていくモチベーションとして、とても大事だと思ったという話でした。

 

どんなに小さな組織でも、社長は最終的な意思決定者であり、どんなに大きな組織でも、部長や課長の意思決定には制約があります。「自分で決められること」が少しずつ増えていくのであれば、現状を不満に思うことはあまりないでしょうが、逆に減ってしまうとなると、制限された感覚が強まってしまうのは仕方ないかもしれません。

 

心理学には「自己決定理論」といって、自己決定の度合いが動機づけや成果に影響するというものがあります。人が行動を起こす上では、「自律性(自分の行動は自分で決めたい)」「有能感(自分には能力があると感じたい)」「関係性(他者と尊重し合う関係を築きたい)」という3つの欲求を満たすことが重要とされ、この中でも「自律性」が最も重要視されているそうです。

ここで、報酬や罰則によって行動をコントロールしようとする「外発的動機づけ」が行なわれると、自律性が低下して自発的な行動がしづらくなるそうで、自己決定の度合いを高めることによって、「外発的動機づけ」からやりがいや好奇心、面白さによる「内発的動機づけ」に変化させることが大切だそうです。

 

こういう取り組みは、実は現場ではすでによく行われていて、例えば部下から指示を求められても安易に答えず、逆にどうすべきかを部下に質問して考えさせ、本人が答えを導き出すことで「自分で考えたこと」「自分が決めたこと」という意識を持ちやすくして、自律心や自発的な行動を促すことがあります。

細かく見れば本人が100%決めているわけではなく、質問によってうまく誘導した面もありますが、「自分で決めたこと」と思わせるプロセスを踏んだことで、その後の成長度合いは変わってきます。

 

私がいろいろな会社を見てきた中でも、社長や上司が何でも決めて指示している会社では人材の成長が鈍く、「自分で決められること」が多い会社の方が人の成長は早いと感じます。

これは、権限移譲によって本人たちに決めさせるようにすることだけでなく、ある結論にたどり着くように上司が仕向けるという方法もあります。質問しながら本人に考えさせるという手順を踏むことが、それにあたります。いずれの場合も、本人に「自分たちが決めた」という実感があるため、その後の自律的な行動につながります。

 

上司からすれば、一言の命令で済ませてしまいたいところですが、あえて本人に考えさせて、「自分で決めた」と思わせることは、本人の仕事への責任感、やりがい、面白さなどを感じさせるためには大切です。

 

 

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