人事施策として、「提案制度」や「自己申告制度」など、本人からの提案や意見、希望などを聴く仕組みは、よく見かけるものです。この導入や運用について相談されることも度々あります。うまく活用している会社がある一方、うまくいかずに形骸化、自然消滅しているような会社もあります。
いろいろな会社の状況を見ていると、うまくいかないパターンは大体共通しています。
提案制度であれば、導入当初になかなか提案が出されず、提案件数を増やす働きかけをすることが多いですが、問題はここから先で、例えばこんな感じです。
提案件数をノルマ化する
↓
どうでもよい雑な提案が増える
↓
提案が取り入れられることはない
↓
提案のネタが枯渇する
↓
制度が機能せず、有名無実化する
ここで本来やるべきことは、提案のノルマ化ではなく、提案が実現する事例を増やすことです。意見が取り入れられることが浸透すれば、提案件数は自然に増えていきます。もちろん個人的な不満や到底受け入れられないようなものも出てきますが、質の良い提案も相対的に増えます。
これは自己申告制度でも同じで、希望を聞くからにはそれをいかに実現できるようにするかが重要になります。いくら異動希望などを出しても、それがかなわないとわかった瞬間から、人は発言することをやめてしまいます。
ある著名な元アスリートが書き込んだツイッターのつぶやきに、「人の主体性を奪うには」というものがありました。「人の主体性を奪うには『提案をさせて採用しない。意見を言わせて受け取らない』を繰り返すと効果的です。命令で押さえつけるよりもこの方が無力感を覚えさせます」とのことです。
これらは、抵抗や回避が困難な状況に置かれ続けると、「何をしても意味がない」ということを学習して、そこから逃れる努力をしなくなる「学習性無気力」とも共通することです。
企業が求める人材像として、「自律性」「主体性」といったものが良く挙げられます。「うちのマネージャーは…」とか「若手社員が…」などといって、これが不足していると嘆く経営者や幹部社員をよく見かけます。
しかしこれは、その人が本来持っている「自律性」や「主体性」が、その会社の環境によって奪われているという可能性もあります。もっとさかのぼって学校教育や親の教育、家庭環境などに原因があるのかもしれません。
私の周りには、経営者や自営業者が多いためか、この「自律性」「主体性」を持っていない人に出会うことがあまりありません。みんな自分たちの意思で行動しなければならない環境にいる人たちです。「自律性」「主体性」の有無は、その人が置かれた環境による部分が、意外に大きいのではないかと感じます。
そうだとすれば、環境を変えればもっと「自律性」「主体性」を育てることが可能ということになります。いま一度、自分たちの身の周りの環境を見直す必要があるように思います。
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