2023年4月17日月曜日

「通知表廃止の小学校」と「企業での人事評価」の問題意識が似ていたこと

ある小学校で、様々な問題意識から通知表を廃止して、その後どうなっていったかを紹介した記事がありました。

全校で千人を超える大規模校ですが、校長は以前から通知表の在り方に疑問を持っていたそうで、教員に対して「良い評価が多ければ喜び、そうでなければ悲しむだけで、それでは意味がないのではないか」と問題提起したそうです。通知表をやめることも視野に入れた問いかけです。

 

ある教員は、評価といわれると、通知表やテストのようなものばかりが頭に浮かびがちだが、毎日の授業で子どもの取り組みに声をかけたり、提出物にコメントを付けたりするのも評価の一つの形であり、子どもたちの学びを後押しする観点で考えたとき、通知表は望ましい評価の手段だろうかという問題意識を持っていたそうです。

教員たちの意見交換と話し合いは2年間に及び、最終的に通知表の廃止が決まりました。

 

その後は試行錯誤の連続だったそうで、例えば通知表の代わりにこれまで以上に子どもの変化や成長をメッセージで伝えたり、提出物をこまめに返して保護者に学習状況を知らせたりしようと心がけましたが、「時間がかかりすぎて授業づくりができない」「本末転倒だ」と頭を抱える教員もいたとのことです。

保護者からも賛否両論があったものの、激励する意見は多く、「テストや宿題で子どもの得意、不得意は分かる」「数字だけでは評価されない、細かい部分まで見てくれている」「日常を評価してもらい、子どもにとってより励ましを得られている」といったコメントがあったそうです。

一方では、「日ごろの頑張りが一目で分かるものだったので、なくなってしまって残念」「社会に出ても評価はつきまとう」「ずっと競争が続くのだから、自分がどの位置にいるのか知っておくべきだ」といった懐疑的な意見もあったそうです。

 

通知表廃止から二年が経過したころに実施した運動会で、それまで紅白対抗の点数で競ってきたことをやめ、ある学年の団体競技では、目標を「本番で練習よりタイムを縮める」と決めました。

すると、子どもたちは順位よりもタイムに注目していて、タイムを発表するたびに歓声が上がり、順位が最下位だったクラスの子どもでも、「自己ベストが出た」と大喜びで教員に報告してきたといいます。

校長は、あくまで小学校だからできたことであり、中学高校での通知表廃止は極めて難しいものであり、さらに社会に出ても競争や他人の評価と無縁でいられないことは承知していますが、「他人と比べる」という価値観から離れて、評価はどうあるべきかを突き詰めた期間を経て、学校の様子は確かに変わり始めたという実感があるそうです。

 

この「他人と比べない評価」という話は、実は企業でも同じ問題意識による取り組みが行われ始めています。「ノーレイティング」と呼ばれるものですが、評価ランクなどをつけて社員を序列化するのではなく、能力が高い人も低い人も、それぞれの力量に合わせた目標を設定して、それぞれが自己ベストを目指すといった考え方です。

それが会社の業績貢献につながるものであり、それを推進するための仕組みの一つが、最近注目される「1on1ミーティング」です。本人の育成や成長を目的にして、短サイクルで目標設定とフィードバックを繰り返す一対一の面談を言います。

 

人事評価というのは、多くの企業で実施されていますが、運用によっては好ましくない状況を作り出してしまう可能性があります。勝ち組と負け組の明確化、社員の序列付けによる嫉妬、不満、えこひいきといったもの、能力不足を理由にした一方的な社員切り捨てといったものです。

これから評価制度を導入しようという企業がある一方、それを合理的ではない、生産性は高まらないと考えて廃止する企業も出てきています。

 

人が人を評価することは難しく、そこで生まれる問題はどこも似通っています。それに対処する際の考え方、方法にも共通することが多いように感じます。

 

 

 

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