2015年10月9日金曜日

東芝の「社長信任投票」が少しだけ心配な理由


経営トップの指示で、不正な会計処理が行われていたという不祥事に揺れている東芝が、社長の信任・不信任を問う無記名投票を行うというニュースを見ました。

当時の社長ら経営トップの指示で不正が行われたことを踏まえ、約120人の幹部社員による信任投票制度を導入して、経営への監視を強化する狙いとのことです。
ある社外取締役の発案とのことですが、すでに株主総会で承認された社長に対して、東芝のような大手企業がこういう制度を導入するのは、かなり異例のことだと思います。それほどの危機感の表れということなのでしょう。

この制度で東芝という会社が良い方向に進むのかどうか、私はそうなって欲しいとは思うものの、社内事情を知らない立場では、実際にどうなるかの予想はできません。ただ、あくまで一般論として、気になるところがあります。

そもそも、このような投票や公選、公募といった形を取る社内制度は、意外にいろいろなところで見かけます。社内のわりと身近なことを題材にした「提案制度」のようなものから、中には社長を投票で決める「社長公選制」のようなユニークなものもあります。

それぞれの会社によって、同じようなことをしてもうまく行ったり行かなかったりするものですが、これらを成功させためには、その前提条件があります。
私が常に意識するのは、「実施目的が明確か」「対象とする人が適切か」「結果の活用方法がはっきりしているか」の3つの条件です。

例えば、一般的な提案制度であれば、「日常業務の改善のため(目的)」「社員全員が(対象とする人)」「社長が認めたものを実行する(結果の活用方法)」といった感じになります。

これが社長公選制のようなものになると、「社長候補も選ぶ社員も経営への当事者意識を持つ」「全社的な協力体制を作る」といった目的、「実績を上げれば立候補できる」「全社員で投票する」といった対象になる人、「社長の任期」「2年連続目標未達は社長を降りる」などの結果の扱いが決められていて、内容には会社ごとの違いがあっても、必ずすべての条件が決められています。

これを東芝の場合に当てはめてみると、まず、“実施の目的”については、「コンプライアンスの向上」「経営陣と社員との信頼再構築」といったところだと思いますので、これははっきりしているのでしょう。

次に“対象とする人”ですが、これは「社長」「幹部社員120名の投票」となっているので、はっきり決められてはいますが、社長と利害関係がある幹部だけの投票では意味がないのではないかという批判があります。

最後に“結果の扱い方”ですが、「不信任とする投票が20%以上となった場合、追加調査を行って問題の有無を把握する」「投票結果は取締役候補を選任する指名委員会に開示し、社長再任の判断材料とするが公表はしない」ということになっていて、これについては何をどうしていくのかが、今一つよくわかりません。
あくまで指名委員会の判断材料の一つということであれば、仮に不信任が多かったとしても、社長を辞めさせるとは限らないでしょうし、投票しても結果を知ることができない、結果がどう使われるかは周りからは見えないということになると、かえって不満を増幅する可能性があります。

この心配は、あくまで部外者にも見える部分で感じることなので、実際に社内でどう扱い、それをどう説明していくかによって、この制度の成否は大きく変わると思います。

東芝は日本を代表する企業です。その会社が決断した画期的な制度ですから、せっかく取り組みが無駄にならないように、良い方向に向かうように願っています。


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